最新の裁判例から見えてくる組織再編税制の限界
<今月の気になる税務トピック Vol.49>
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.153(2026.7)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
迷走する組織再編税制
今まさに組織再編税制は迷走している。大阪地裁令和8年5月21日の青果卸売業者の事案では、子会社の事業を新設分割で別会社へ移した後、カラになった会社を親会社が吸収合併して12億円の欠損金を引き継いだが、裁判所は、節税のみを目的とする欠損金の付替えであるとして、法人税法132条の2による否認を肯定した。
別の東京高裁令和7年7月23日のゴルフ場運営会社(PGM)の事案では、休眠会社の57億円の欠損金をグループ内合併で引き継いだが、東京高裁はビジネスモデルに基づくグループ内の再編として132条の2の適用を否定した。
同じ「適格」「5年50%超」を満たした青色欠損金の承継でも結論は真逆に分かれている。もちろん、裁判で判決が別れること自体は珍しいことではない。しかし組織再編税制は、制度趣旨が見えにくいが故に、あるべき再編や解釈論が議論できず、包括否認規定へ飛躍してしまう。結果として、否認か是認かが「不自然」「濫用」などの抽象論に委ねられてしまっている。
さらに、また別の事案で、完全子会社3社が一連の組織再編成を行い事業を1社に集約し、青色欠損金を親会社が引き継いだ手法につき、東京地裁が6月18日に法人税の更正処分等の一部を取り消したとのことだ(週刊税務通信3905号)。 組織再編税制は限界にきていると思う。再構築レベルの改正が必要だろう。
「F管理口」が呼んだ税務調査
相続税の調査で気を遣うのは名義預金。令和7年6月17日裁決は、その逆を行った事例だ。
父の一次相続で、母名義の預金が「父の名義預金」と認定された。税務調査を受け、修正申告も行っている。ここまでは、よくある話だ。問題は、その後の母の二次相続だった。遺産分割協議書には、その名義預金の一部が長女の取得財産として「現金 F管理口 ○○円」と記載された。しかし相続税の申告では、その金額を相続財産に計上しなかった。
遺産分割協議書に記載があるのに申告していないのだから税務署は当然これを指摘した。相続人間では「まだ現金が残っているのではないか」という疑念もあったようだ。実際、長男は「見たわけではないが、長女が管理していると思う」と申述している。
その記載自体が税務調査の呼び水になった。もっとも、裁決は長女の主張を認めた。問題の現金は、一次相続の修正申告で相続財産として整理され、納税と残余財産の清算が行われており、母の相続開始日にその金員が存在し、長女が相続により取得したとは認められないとした。
おそらく相続人間では、過去の出金や現金管理を巡って長女への不信感が残っていたのだろう。税理士も、その調整に苦慮したのかもしれない。結果として、「F管理口」という形で遺産分割協議書に載せ、相続人間の整理を図った可能性がある。その後、長女は遺産分割協議書の内容に異議を唱え、実際の相続税申告では「F管理口」は相続財産に計上されなかったという経緯がある。 家族間の揉め事を整理するための一文が、税務調査の入口になることもあるという事例だ。
白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。
