<第1回>今こそ注目したい、税理士・会計士のためのデータドリブン経営

はじめに ― 「先生、うちの会社、大丈夫でしょうか?」に何と答えるか
月次の面談の席で、顧問先の社長からこう聞かれた経験はないでしょうか。
「先生、うちの会社、大丈夫でしょうか」
試算表を前に、売上はやや減少、利益はぎりぎり黒字。この漠然とした問いに対して、私たちは何と答えるべきでしょうか。
「業界全体が厳しいですからね」
「もう少し様子を見ましょう」
長年の経験に裏打ちされた言葉は、社長を一時的に安心させるかもしれません。しかし、その言葉の根拠を「数字」で示せているかと問われると、心もとない場面もあるのではないでしょうか。

本連載では全3回にわたり、税理士・会計士の皆様が「データドリブン経営」の支援者として活躍するための考え方と実践方法をお伝えします。第1回のテーマは、「なぜ今、税理士・会計士にデータドリブン経営なのか」です。
会計業務の「自動化」がもたらす構造変化
まず、私たちを取り巻く環境の変化を直視するところから始めましょう。
クラウド会計ソフトの普及により、銀行口座やクレジットカードの明細は自動で取り込まれ、AIが勘定科目を推測して仕訳を提案する時代になりました。記帳代行という業務は、確実に自動化の波にさらされています。申告業務も例外ではありません。申告書作成ソフトの進化、電子申告の標準化、そしてDXの浸透や生成AIなどの登場により、「決められた手続きを正確にこなす」という業務の価値は、残念ながら相対的に低下しつつあります。
これは悲観すべき話ではありません。むしろ逆です。作業から解放された時間を、より付加価値の高い仕事、すなわち「顧問先の経営を数字で支援する仕事」に振り向けるチャンスが到来した、と捉えるべきなのです。 そして、その中核となる考え方が「データドリブン経営」です。

データドリブン経営とは何か―勘と経験の「否定」ではなく「補強」
データドリブン経営とは、勘や経験だけに頼るのではなく、データ(数字・事実)に基づいて意思決定を行う経営スタイルのことです。
ここで強調したいのは、データドリブン経営は勘と経験を「否定」するものではない、という点です。経営者の勘や、税理士・会計士としての長年の経験は、それ自体が貴重な資産です。問題は、それが「裏づけのない思い込み」になってしまう瞬間があることです。
データの役割は、勘と経験を検証し、補強することにあります。「たぶんこうだろう」を「データで確認したところ、やはりこうだった」に変える。あるいは「思い込みと違った」という気づきを得る。この繰り返しが、意思決定の精度を着実に高めていきます。

このことは大企業だけの話ではありません。中小企業こそ、一つひとつの意思決定の重みが大きく、データによる裏づけの効果が大きいのです。そして、その中小企業の経営データに最も近い場所にいる専門家こそ、税理士・会計士にほかなりません。
税理士・会計士こそ「最有力プレイヤー」である理由
データドリブン経営の支援というと、ITコンサルタントやデータサイエンティストの仕事のように聞こえるかもしれません。しかし、私は税理士・会計士こそ最有力のプレイヤーだと考えています。理由は明快です。皆様は、顧問先の会計データという「宝の山」に、毎月、日常的に触れているからです。
具体例で考えてみましょう。ある顧問先の売上が前年比で10%減少したとします。「景気のせいでしょう」で終わらせるのが、勘と経験だけの対応です。
一方、データドリブンの対応はこうです。売上を「顧客数×客単価」に分解する。すると、客単価は横ばいで顧客数が減っている。さらに顧客別に見ると、減少は新規顧客の獲得減によるもので、既存顧客の売上はむしろ伸びている。

ここまで分解できれば、打ち手は自ずと見えてきます。「景気対策」という漠然とした話ではなく、「新規獲得の営業活動に課題がある」という具体的な論点を、社長に提示できるのです。
この分解に必要なデータの多くは、実は毎月の会計データや販売データの中に、すでに存在しています。高度な統計知識も、高価なシステムも必要ありません。必要なのは、データを「過去の記録」ではなく「未来の意思決定材料」として見る視点の転換だけです。
おわりに―宝の山は、すでに手元にある
税務・会計の専門家である皆様は、顧問先の信頼を得ており、毎月データに触れ、数字を読む訓練を積んでいます。データドリブン経営支援を始めるための条件は、すでに揃っているのです。

次回は、いよいよ実践編です。毎月作成している試算表や月次データを「宝の山」に変える、具体的なデータの読み方・活かし方をご紹介します。Excelとクラウド会計の標準機能だけで、明日から始められる方法をお伝えしますので、どうぞご期待ください。
高橋 威知郎
株式会社セールスアナリティクス
代表取締役 / Chief Data Scientist / 中小企業診断士
実務で20年以上データサイエンスの活用業務(中央省庁・大手IT・製造業など)に携わる。小売業から製造業、1人社長企業から大手企業まで様々な企業の現場データ活用(営業・マーケ・生産など)や数理モデル構築(需要予測・効果測定・最適化など)、データ活用の組織づくりなどを支援。業務効率化、コスト削減、売上向上などに寄与。データサイエンスの関連書を10冊以上執筆。
