医療法人社団の事業承継(認定医療法人制度の活用)<江崎光行先生の税理士事務所 四方山話 vol.26>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.154(2026.8)に掲載されたものです。


「長男にクリニックを継がせたいのですが、大変な税金がかかると聞きました。どうすればいいですか。」

医療法人社団の理事長からこのような切実な相談を受けました。平成18年の医療法改正前に設立された医療法人の多くが、事業承継の課題を抱えています。医療法人の事業承継を検討する上で、まずは法人の類型を整理する必要があります。医療法人には大きく分けて「社団」と「財団」があります。社団は「人(出資者)」の集まりを基礎とする法人であり、財団は「財産」の集まりを基礎とする法人です。日本の医療法人の大半は医療法人社団です。

さらに医療法人社団は、「出資持分あり」と「出資持分なし」に分かれます。「持分あり」は、出資者が出資割合に応じて法人の財産権(払戻請求権等)を持つ形態です。医療法人は配当が禁止されているため、長年の利益が内部留保として蓄積され、持分評価額が当初の出資額の数十倍に膨れ上がるケースが少なくありません。一方、「持分なし」は出資者への財産還元の権利がない法人です。 

なお、平成19年4月に施行された改正医療法によって、これ以降に新規設立される医療法人社団は「出資持分あり」とすることができなくなりましたが、それ以前に設立された既存の法人は経過措置として存続が認められています。今回ご相談があった顧問先の医療法人は「出資持分あり」の医療法人社団でした。

この「持分あり社団」を後継者に承継させる方法には、主に次の2つがあります。

①贈与・相続などの移転
出資持分をそのまま後継者に生前贈与、あるいは相続させる方法です。しかし、前述の通り評価額が高騰している場合、後継者に贈与税・相続税負担がのしかかるという大きなデメリットがあります。

②認定医療法人の制度活用
そこで有力な選択肢となるのが、「持分なし」の医療法人への移行計画を作成し、国の認定を受ける「認定医療法人制度」を活用する方法です。認定医療法人制度のメリットは、相続人が「持分あり医療法人」の持分を相続または遺贈により取得した場合、その法人が移行計画の認定を受けた医療法人であるときは、移行計画の期間満了まで相続税の納税が猶予され、持分を放棄した場合は、猶予税額が免除される点です。また、出資者が持分を放棄したことにより、他の出資者の持分が増加することで、贈与を受けたものとみなして他の出資者に贈与税が課される場合も同様に猶予、免除の措置があります。さらに、移行計画に基づき「持分なし医療法人」へ移行した場合、出資者の持分放棄に伴う法人贈与税については、非課税となります。ただし、この制度は適用期限があり、令和11年12月31日までとなります。

実務上、この制度は生前に行うか、相続発生後に行うかで大きな違いが生じます。相続発生後でも期限内に認定を受け、納税猶予の手続きを行えば税制措置対象となりますが、他の相続財産と合算されて高い税率が適用されるため、生前に移行を完了させ、相続財産から持分を外しておく方が最終的な税負担は有利になります。ただし、国の認定を受けるには「遊休資産額が事業費用を超えない」「社会保険診療等の収入が全収入の80%超」など、直近決算に基づく厳格な運営要件をクリアしなければなりません。移行完了後6年間の報告義務にも留意が必要です。

理事長の高齢化による認知症リスクも考慮すると、事業承継対策は早期の着手が必要です。顧問税理士としては、相続税額の具体的なシミュレーションも提示し、最適な事業承継手続きをサポートしていくことが求められると考えます。

江﨑 光行

えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。 現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、 ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。

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