企業グループ間の取引に係る書類保存の特例 <税理士事務所 四方山話 vol.24>
本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.152(2026.6)に掲載されたものです。
「この子会社との取引の対価の算定根拠はありますか?」
先日、顧問先が自社開発したシステムを子会社に利用させ、使用料を受け取る取引にかかる契約について、私が契約内容を確認していた際に質問したことです。令和8年税制改正により、令和8年4月1日以後開始する事業年度に企業グループ間で行う「特定取引」については、契約書や領収書等に「対価の額を算定するために必要な事項」の記載等がない場合には、それを明らかにする補完書類等を取得等して、保存することが必要となります。補完書類等が法令の定めに従って保存されていない場合には、青色申告の承認の取消事由等に該当します。
まず、対象となる「特定取引」とは、主に「工業所有権等の譲渡・貸付」や「一定の役務提供」が該当します。その上で、内国法人と「関連者」との間で行われるこれらの取引のうち、「販売費、一般管理費その他の費用の額の起因となるもの」に限定されています。従って、「売上原価の起因となるもの」は対象外となります。すなわち、棚卸資産の仕入など製造や売上原価に直結する取引は本特例から除外されます。
一方で、グループ内での業務委託費や経営指導料といった一定の役務提供、そして冒頭の例のような子会社へシステムを使用させるなど無形資産の取引が主なターゲットとなります。これらは物理的な実体がなくブラックボックス化しやすいため、明確な記録保存が義務付けられた形と言えます。
また、保存が求められる「対価の額を算定するために必要な事項」とは、その取引金額がどのような計算構造で決定されたかを示す「客観的な算定プロセス」を指します。
なお、対価の額の設定理由等の記載までは求めないようです。「なぜその料率にしたのか」「その単価設定の背景にある経営的判断は何か」といった、経済的合理性や価格妥当性の理由までは要求されていません。あくまで「どのように計算したか」が書類上明らかであれば要件を満たすものと考えられます。
今後の実務対応として、顧問先に対し、関連者間取引に関する契約関連書類の総点検を促す必要があります。特に、過去に締結されて自動更新されている「経営指導料」等の契約書には、「月額〇〇万円とする」とのみ記載され、算定根拠が不明確なものが散見されます。このような場合は、契約書を巻き直すか、算定根拠を明記した「覚書」や「計算明細書」等の補足書類を別途作成し、保存する体制の整備を指導していくことが必要となります。
江﨑 光行
えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。
現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、
ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。
