役員社宅 <江崎光行先生の税理士事務所 四方山話 vol.23>
本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.151(2026.5)に掲載されたものです。
「自宅を役員社宅にすれば手取りが増えると聞いたのですが、本当ですか?」
顧問先の経営者から、このような相談がありました。自身の手取りを増やすために、役員報酬を引き上げても所得税や社会保険料の負担が増え、思うように資金が残らないという悩みをよく耳にします。そこで、役員報酬を増額するのではなく、会社が生活費の一部である家賃を負担する社宅制度は、手取り額を残す手段として有効です。
これによるメリットは、会社が負担した家賃を法人の経費(損金)に算入できる点です。住宅手当として現金を支給すると給与課税されますが、法人契約で借り上げた物件を貸し出せば経費化が可能です。さらに、会社が家賃を負担する分、役員報酬の設定額を下げることができます。役員報酬を下げれば個人の所得税や住民税が減るだけでなく、法人と個人で折半する社会保険料の負担も軽減されます。法人と個人のトータルで見ても、手元に残る資金が増加する効果的な手法です。
ただし、家賃の全額を会社負担にはできません。無償で貸与すると、家賃相当額が役員への「現物給与」とみなされ課税されてしまいます。これを避けるには、「賃貸料相当額」を役員から毎月徴収する必要があります。なお、注意点として物件の賃貸借契約は法人名義で結ぶ必要があり、個人契約のままでは適用できません。
また、賃貸料相当額の計算は、物件の広さ等によって異なります。法定耐用年数が30年を超える建物なら床面積99平方メートル以下、法定耐用年数が30年以下の建物なら132平方メートル以下である「小規模な住宅」に該当する場合は、以下の1から3の合計額となります。
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1建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
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212円 × ( 総床面積(㎡) ÷ 3.3㎡ )
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3敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
一方、これを超える広さの「小規模でない住宅」を借り上げて貸与する場合は、以下のAとBを比較し、いずれか多い金額となります。
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A( 建物の課税標準額 × 12% 法定耐用年数30年超は10%
+ 敷地の課税標準額 × 6% ) × 1/12 -
B実際の家賃 × 50%
床面積が240平方メートルを超える等、一定の要件を勘案して判定された豪華社宅に該当する場合を除けば、小規模な社宅でない場合の判断基準の1つである家賃の50%を徴収しておけばまず給与課税されることはありません。そのため実務上は、計算の手間や大家からの資料収集を避け、「実際の家賃の50%を役員から徴収する」という手堅い運用もよく見られます。
しかし、「小規模な住宅」に該当する場合、先述の課税標準額を用いた計算式を当てはめると、実質的な負担額は実際の家賃の10%から20%程度に収まるケースがほとんどです。固定資産税の資料を取り寄せて計算した方が、役員の自己負担額を抑えることができます。
役員社宅制度を活用することは、経営者個人と法人の双方に、より多くの手元資金を残すための有効な手段の一つと考えられます。
江﨑 光行
えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。
現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、
ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。
