会社か個人か、形式か実態か
<今月の気になる税務トピック Vol.47>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.151(2026.5)に掲載されたものです。


白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

営業マンが勝手に下取り車を転売し利益供与に充てる

顧客が下取り価格に不満を持てば、その場で失注する。何とかして契約に結びつけるために、下取り車を営業社員が本来とは別ルートで売却していた。その差額でタイヤやホイール、贈答品を提供していた(讀賣新聞オンライン 2026/03/30)。

実質的には値引きと変わらないが、今回の事案では、下取り車の転売益は会社に帰属すべき利益であるにもかかわらず、経理を通さずに処理されたため簿外で処理された所得隠しと認定される。さらに、その差額で支出されたパーツや贈答品については交際費として否認された。

同じことをやっていても、見積書に記載し、稟議を通し、会社として意思決定していれば、通常の値引きや販売促進費として処理されていた可能性が高い。

この事案では、営業マン個人の判断で処理されたことも論点になる。会社の関与がどこまであったのか。もし会社ぐるみであれば、より重い評価になる。しかし実務的には、その線引きは曖昧だ。現場の慣行として黙認されていたのであれば、形式上は個人の行為でも、実質的には会社の行為として重加算税の対象とされた。 会社は納付を受け入れた。社員による問題行為があった以上、表ざたにして争うのは得策ではないと判断したのだろうか。

 経営から排除された株主にとっての時価とは

親族経営の会社で対立が起きると、その株式は配当もなく、経営に参画もできず、換金もできない「マイナス財産」に変わる。多額の相続税がかかったらそれこそ破産を考えねばならない。

長年の対立の末、訴訟上の和解により株式を関連会社へ譲渡することになった。価格は、当事者間の交渉の結果として決まったものだ。しかし時価の2分の1未満で譲渡したとして、所法59条のみなし譲渡課税が認定された。

納税者側は、支配から排除されていたことや、実質的な価値の低さを主張したが、審判所は「特別の事情」とは認めなかった。訴訟上の和解価額は特殊事情のある親族間取引であり一般的な時価とはいえないと判断した。 税理士のアドバイスがなかったのだろうか。そこが悔やまれる。

同じ仕事を続けても退職は成立するか

病院が就業規則を改正し、医師の定年を65歳と定めた。そして定年到達者に退職金を支給したうえで、翌日から有期契約の職員として再雇用した。仕事内容も給与水準も変わらなかった。

税務署はこれを退職金とは認めなかった。実態として勤務関係が継続している以上、退職金ではなく賞与だという判断だ。しかし審判所は逆の結論を出した。退職は成立し、支給された一時金は退職所得に当たると判断した。とくに医師の一人は理事だったが、理事としてではなく使用人としての地位の終了・精算に対応するものと認定された。

本件では、無期雇用契約が終了し、新たに有期契約が締結されている。さらに、退職金は過去の勤務に対応して算定されており、新契約には引き継がれていないとされた。医師は定年後も同水準の給与で働く。そうしないと医師が確保できないからだ。医療業界の特殊性が影響している事例だ。一般化はできないだろう。

白井 一馬

しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。

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