暗号資産の相続や贈与で発生する手続きとは?注意点も説明

相続税の計算や相続人との遺産分割など、相続が発生するとやるべきことは数多くあります。ルールが決められている土地や株式ならまだしも、暗号資産の相続・贈与はどう対応すると良いのでしょうか。

本記事では暗号資産の譲渡にフォーカスして、贈与税・相続税について詳細を説明しています。手続きに迷っている人は、ぜひ記事内容をご確認ください。

目次

暗号資産を他人に譲渡すると税金がかかる

原則として暗号資産の譲渡には税金がかかる、という認識が必要です。

他人に譲渡することによって所得が発生した場合、確定申告の後、納税しなければいけません。譲渡とは有償無償問わずに所有する資産を移転させる行為のことを指します。

暗号資産取引所を介した売買や交換のみならず、取引所なしで他の人へ直接送金した場合でも課税対象となるため注意しましょう。譲渡しているにもかかわらず税務申告を怠ってしまうと、後々税務調査で申告漏れが発覚した時に重い加算税が課される可能性があります。

暗号資産の譲渡に関する税金は所得税や贈与税、相続税です。

年間110万円を超える暗号資産の譲渡は贈与税の対象

基本的に他の資産と同様に、年間110万円を超える暗号資産の譲渡には贈与税が課税されます。贈与時における暗号資産の時価が贈与税の査定価格です。

例えば、時価25万円のイーサリアムを8ETHを譲渡した場合、贈与額は200万円になります。
贈与額200万円ー基礎控除110万円=90万円が贈与税の課税価格になる、という計算です。

取引所を介さない譲渡は取引履歴が残らないため、少しの認識違いが税金の申告漏れに繋がってしまいます。暗号資産の相続・贈与税は複雑でわかりにくいため、迷った時は税理士や税務署へ相談するよう、担当のクライアントへ伝えておくことも大切です。

暗号資産を相続する際の手続き

暗号資産を相続する場合の基本的な手続きについて説明します。

  • 取引先の仮想通貨取引所に死亡の事実を伝える
  • 受け取った必要書類に必要事項を記入して返送
  • 暗号資産が払い戻しされる

取引先の仮想通貨取引所に死亡の事実を伝える

被相続人が生前利用していた暗号資産取引所へ連絡して死亡の事実を伝えます。伝えるべき情報は取引所によって異なるため、問い合わせて確認しましょう。

どの取引所でも以下の情報は必要となるため、事前に確認しておくと後々の手続きがスムーズです。

  • 相続開始日の残高証明書
  • 相続開始日の日本円換算レート
  • 過去の取引履歴

受け取った必要書類に必要事項を記入して返送

取引所から送られてきた書類に必要事項を記入したあとは、必要書類と合わせて返送します。最低限、必要な書類には相続届けや被相続人の戸籍謄本、印鑑証明書などがあります。

暗号資産が払い戻しされる

書類の確認後、暗号資産は円転後に相続人の銀行口座に入金されるか、暗号資産のまま相続人の暗号資産口座へ入金されます。円転せずに暗号資産のまま持ち続けたい場合、同じ取引所に口座を持たなければいけません。

払い戻しの方法は、自分で決められる場合と、取引所の決まりに従うケースがあります。事前に取引所に確認しておきましょう。

暗号資産の相続税評価額の決め方

暗号資産の相続時の評価額算定方法は、取引が活発な市場の有無によって異なります。

活発な市場とは、暗号資産の取引所や販売所で十分な数量と取引が行われており、継続的に価値情報が公開されている状況のことを指します。

日本の複数の取引所で取引が行われている場合は、活発な市場に当てはまると考えて良いでしょう。

一つの取引所のみでしか取引がない場合や、新規発行されたばかりの暗号資産は活発な市場がないということになります。

  • 活発な市場が存在する場合
  • 活発な市場がない場合

活発な市場が存在する場合

相続税評価額の決め方は2通りです。それぞれの決定方法について詳細を説明します。

相続開始日の残高証明書の金額を相続税評価額にする

取引所に相続開始日の残高証明書を発行してもらいます。残高証明書には相続開始日の残高と日本円への換算レートが記載されているので、そのレートで相続税評価額を算出する方法です。

相続開始日の売却価格を相続税評価額にする

取引所が売却価格を公開している場合、残高証明書がなくても相続税評価額を算定できます。同じ暗号資産を複数の取引所で保有していて売却価格が違う場合は、取引価格が低い方を相続税評価額に設定可能です。

活発な市場がない場合

活発な市場がなく、評価が難しい暗号資産の場合、暗号資産独自の性質や取引実態を元に個別評価が行われます。

算定方法は、類似する売買の実例に基づいた売買実例価額や、専門家の鑑定による精通者意見価額などです。

相続税評価額について、例えば土地の相続の場合、税理士や不動産鑑定士などの専門家へ依頼すると現地調査を経て、評価額が下がる可能性があります。

しかし、暗号資産の場合は相続発生後に相続税の評価額を下げる方法はありません。

暗号資産を安易に相続すると余計にお金がかかるケースも

暗号資産を相続すると、思いの外お金がかかるケースがあります。相続によってお金が発生するポイントを3つピックアップして説明します。

  • 相続税の対象となる
  • 相続後の売却は雑所得の対象
  • 取得費加算は適用されない

相続税の対象となる

暗号資産は相続した時点で相続財産として扱われるため、相続税の対象になります。

相続税の税率は、他の相続資産と同じです。

相続金額と税率の関係を一覧表にまとめました。

法定相続分に応じる所得金額税率控除額
1,000万円以下10%0円
1,000万円超から3,000万円以下15%50万円
3,000万円超から5,000万円以下20%200万円
5,000万円超から1億円以下30%700万円
1億円超から2億円以下40%1,700万円
2億円超から3億円以下45%2,700万円
3億円超から6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

他の資産と同じく暗号資産でも相続財産が基礎控除を超えると相続税の申告をしなければいけません。基礎控除は、従来の資産と同じです。

相続後の売却は雑所得の対象

相続税がかかる上に、相続後に暗号資産を売却すると雑所得が発生します。暗号資産の取引で得た所得は雑所得として、給与所得などと合算した金額に応じて税率が決定されます。

このときに、事前に納めた相続税が差し引かれることはなく、別の税金として納めなければいけません。

払ったはずの相続税も含めて、所得税の対象となってしまいます。

取得費加算は適用されない

取得費加算は相続にて取得した土地、建物、株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を取得費として加算できる制度です。

譲渡所得にのみ適用される制度なので、雑所得に分類される暗号資産の場合、適用外です。

現状では相続税に関する特例はほぼないと見ても良いでしょう。

暗号資産を相続・贈与する時の注意点

暗号資産を相続・譲渡する時の注意点を3つ紹介します。

  • 故人のスマートフォンやパソコンは保存しておく
  • 相続が終わるまで暗号資産の売買と出金はしない
  • 海外の取引所を利用していた場合はサポートセンターへ連絡する

被相続人のスマートフォンやパソコンは保存しておく

被相続人が所有していた暗号資産取引に関する情報は、スマートフォンかパソコンに保存されている可能性が高いです。アカウントの解約をしてしまうと相続に必要な情報が一切集められなくなります。

スマートフォンやパソコンの処分、アカウントの解約は相続手続きが終わるまで待ちましょう。

相続が終わるまで暗号資産の売買と出金はしない

本人以外が暗号資産の取引を行うことは禁止されています。したがって、相続の手続きが完了するまでは、被相続人の口座を扱うことはできません。

遺産の分割が終わるまでは、遺産は相続人全てのものとなるため、分割が終わるまでそのままにしておくのが原則です。

勝手に取引をするとトラブルの元となってしまいます。

海外の取引所を利用していた場合はサポートセンターへ連絡する

海外の取引所を利用していた場合、その国の取引所のルールに従う必要があります。日本の取引所と扱いが異なるケースがありますので注意しましょう。

言語の壁や認識の違いから、海外の取引所での手続きは困難です。時間がかかることが予想されるため、できるだけ早めに問い合わせをスタートするようにしましょう。

まとめ

暗号資産の相続・贈与の取り扱いは基本的に他の資産と大差はありません。取引所のサポートの元手続きを進めていけば、手続きは完了できます。

暗号資産の性質上、パソコンやスマートフォンなどデバイスの管理は重要です。相続が発生して完了するまでは、故人のパソコン、スマートフォンは処分せず、アカウントも削除しないようにしましょう。

海外取引所で相続が発生した場合、手続きが難航する可能性が高いです。難しいことは税理士や税務署に確認して問題をクリアしましょう。

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