仕事がなくなる?AIを活用した税理士の業務効率化を解説

「AIの登場によって税理士の仕事は、今後どうなるのだろう」「税理士がAIを利用するメリットは、何があるのだろう」と、悩んでいないでしょうか。

結論からいうと、AIが普及しても税理士の仕事は無くならず、むしろますます重要な存在となっていく、というのが私の意見です。

この記事では、AIと税理士業務について、税理士の仕事が無くならない理由や、税理士がAIを利用するメリットを交えて解説します。

目次

税理士の仕事がAIに奪われると言われる理由

税理士の仕事がAIに奪われるという言われる理由には、下記の2つの背景があります。

政府によるDX化の推進

DXとは、デジタル技術を活用した業務やサービスの効率化・高度化です。

政府は、税務手続きの電子化やオンライン申告の推進など、税務分野のDX化を積極的に進めています。税理士がこれまで行ってきた単純作業の多くが自動化され、AIに置き換わる可能性があります。DX化は、税理士の仕事を効率化する一方で、AIに取って代わられるという不安も生み出しているようです。

オックスフォード大学の研究結果

オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は、2014年に発表した論文「雇用の未来」の中で、AIに代替される可能性が高い職業として税理士が挙げられました。

この論文はAI技術の発展によって自動化される可能性のある職業を分析したもので、税理士の仕事は、データ入力や計算、書類作成といった定型的な作業が多く、AIが得意とする分野と重なる部分が多いと指摘されました。

しかし、オズボーン准教授の論文はあくまで可能性を示唆したものであり、税理士の仕事が完全にAIに奪われると断言したものではありません。

税理士が消滅した国 エストニア

ヨーロッパの東欧バルト三国の一つ、エストニアは税理士がいなくなったと言われています。税理士が存在しないということは可能なのか、そこにはエストニア特有の背景があります。

整備されたオンラインシステム

エストニアは日本よりも人口が少なく、政府が電子化を推進しています。不動産売買・結婚・離婚以外の行政サービスはオンライン上で完結し、政府は全国民の預金残高まで把握可能です。全国民の預金残高が把握できるため、税金計算を自動でできます。

シンプルな税制

加えて、エストニアの税制は非常にシンプルです。複雑な税法や計算に頭を悩ませる必要がないため、税理士へ依頼する必要がなくなってしまいました。この2つが、エストニアに税理士が消滅した大きな理由です。

AIが普及しても税理士の仕事がなくならない理由

エストニアはAI関係なしに税理士が消滅した特異な例ですが、AIに仕事が奪われないと言える根拠には、AIが抱える2つの課題があります。

情報の信頼性が担保できない

税理士が作成する申告書などの書類は正確さが大切です。また、税務の世界は複雑で、常に法律が改正されたり、新しい判例が出たりと、変化し続けます。

税理士がしっかりと内容を確認し、間違いがないかのチェックを行うことが大切ですが、AIはハルシネーションと言われる、事実とは異なる内容を生成する現象が発生する恐れがあります。

膨大なデータを処理して、AIに申告書の作成を行ってもらうことは可能です。しかし、その内容が本当に正しいか、法律に合っているかまではAIは判断してくれません。仮に、AIが作成した申告書を提出して間違っていた場合、申告書を提出した人が責任を負います。

コミュニケーション能力が求められる

税理士の仕事は、コミュニケーション能力が重要です。税理士は、クライアントの不安や悩みを理解し、寄り添いながら最適なアドバイスで、クライアントとの信頼関係を築いています。

一方、AIはデータを分析して最適な答えを導き出すことは得意ですが、クライアントの気持ちを理解したり、共感したりはできません。

たとえば、経営がうまくいかず悩んでいる経営者の方に対して、AIは「こうすれば利益が出ます」と数字だけを提示するかもしれません。しかし、本当に必要なのは、親身になって話を聞き、一緒に解決策を考えることであるケースも珍しくありません。

個々の状況に応じた判断が必要

税務の世界は一つの取引に対して、処理方法が複数存在するケースがあります。同じような状況でも、会社の規模や業種、経営者の考え方によって、取るべき対策は変わってきます。AIは過去のデータや一般的なルールに基づいて判断しますが、一人ひとりのお客様の状況や想いを考慮した判断はできません。

たとえば、節税対策一つとっても、短期的な利益を優先するのか、長期的な安定を重視するのかによって、選ぶべき方法は異なります。AIは数字だけを見て判断しますが、税理士は、クライアントの考え方や将来のビジョンを理解した上で、最適な方法の提案が可能です。

税理士ができるAIを使った業務効率化

責任やコミュニケーション能力が求められる税理士という職業において、完全にAIが取って代わるのは難しいということを説明しました。ですが、AIはその特性を把握すれば税理士業務をサポートしてくれる心強い味方となってくれます。このセクションでは、税理士がAIを利用するメリットを説明します。

顧客からの問い合わせ対応

税理士業界では、人材不足が深刻な問題となっています。税務に関する質問は多岐にわたり、税理士は常に顧客からの問い合わせに追われています。違うクライアントから、同じ内容の問い合わせをされることも珍しくありません。

たとえば、最新の税制の情報を学習したAIをチャットBOTにしてホームページに設置し、24時間365日、税務相談に応えられるようにしたり、会計ソフトに入力された情報をもとに税務調査の資料作成を支援したりすることができます。人間の補佐となる仕事をAIに任せることにより、少ない人数でも効率的に業務をこなすことが可能です。

基本文章の作成

AIは、議事録や契約書などの基本的な文章の作成ができます。一から書類を作成するのは大変ですが、AIが作成した基本文章を活用すると時間が短縮されます。

また、AIは文章校正機能も備えており、誤字脱字や表現誤りのチェックも可能です。書類作成の効率性と正確性が向上し、人的ミスのリスクも軽減されます。

大量のデータ分析

AIは、人間には到底処理しきれない膨大な量のデータを一瞬で分析し、異常値や不審な点を洗い出すことが可能です。

クライアントの売り上げデータを分析し、節税対策や経営改善に関する提案をAIが行うことで、最適なアドバイスを提供し、クライアントの満足度を高めることが可能です。また、経理データの中に隠れた不正やミスをAIが発見してくれる可能性もあります。

会計データの自動仕訳

従来、取引ごとの仕訳は税理士やスタッフが手作業で行っており、非常に時間と労力を要していました。しかし、AIの活用で、日々発生する大量の会計データの自動仕訳ができます。

具体的には、AIが銀行口座やクレジットカードの明細を読み取り、それぞれの取引を適切な勘定科目に振り分けてくれます。また、過去の仕訳データから学習し、より正確な仕訳も可能です。これにより、仕訳の精度が向上するだけでなく、人的ミスのリスクも軽減されます。

領収書データの自動読み取り

AIによるOCR(光学文字認識)技術を用いて、領収書に記載された文字や数字を認識し、データ化する機能は、すでに多くの会計ソフトやアプリで取り入れられています。領収書の種類や形式を自動的に判別し、適切な項目にデータを振り分けることできるこの機能により、データ入力の精度が向上するだけでなく、人的ミスのリスクも軽減されます。

まとめ

AIの普及によって税理士の仕事が奪われるという懸念や、AIを活用するメリットについて紹介しました。AIは税理士の業務を効率化し、顧客対応や大量データの分析、基本文章の作成などを支援しますが、信頼性の確保や個別の状況に応じた判断、コミュニケーションはAIには代替できません。これらの特性を理解し、上手にAIを活用することで、より効果的に顧客に対応し、業務の質を向上させることができます。

税理士.ch 編集部

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