2027年度 介護報酬改定に向けた審議が始動 <小濱道博先生の介護特化塾 vol.17>
本コラムでは、介護経営コンサルタントとして、日本トップクラスの小濱道博先生が、介護業界の「知って得する」トピックスを取り上げて解説します。会計事務所の皆様に、介護マーケットの魅力・重要性のほか、介護特化を進めるためのヒントや戦略などを毎回お届けします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.152(2026.6)に掲載されたものです。
小濱介護経営事務所 代表
C-SR(一社)介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
小濱 道博 先生
2027年度介護報酬改定に向けた審議が2026年4月に正式に始動した。今回の改定は単なる報酬点数の見直しではなく、2040年を見据えた制度の抜本的な再設計を意図しており、顧問先に介護事業者を抱える会計事務所にとっても、その影響を正確に把握しておくことが不可欠である。
財政制度分科会の議論において、介護サービスは「利益率が高い産業」と位置づけられ、訪問介護や居宅介護支援を中心に報酬の適正化が必要との方向性が明確に打ち出された。しかしこの評価には重大な留保が必要である。高収益の実態は、住宅型有料老人ホームなどに併設された事業所が同一建物内でサービスを完結させることで移動コストを極小化しているモデルに偏っており、一般在宅を対象とする事業所の収益性は全く異なる。この構造的な偏りが平均値を押し上げ、「業界全体が儲かっている」という誤解を生んでいる。税務顧問としては、顧問先の事業モデルが併設型か在宅型かを明確に区別した上で、今後の経営リスクを分析することが求められる。
2027年度改定では、同一建物減算の引き上げと、併設型・在宅型の報酬体系の分離が具体的な論点となる見通しである。併設モデルに依存した収益構造を持つ事業者は、改定を境に損益が大きく悪化する可能性がある。同時に、利用者負担については2割負担の対象が中間所得層まで拡大される方向であり、ケアマネジメントへの利用者負担導入や介護老人保健施設の多床室室料の自己負担化も検討されている。利用者側の負担増は請求業務の複雑化をもたらし、事務コストの増加として事業者の収益を直撃する。財務数値の変動要因として、これらを早期に織り込んだ資金繰りシミュレーションを顧問先と共有しておくことが重要である。
AI・ICTの活用は、2026年度診療報酬改定ですでに医療分野において人員配置基準の緩和という経営インセンティブに直結する形で制度化されており、この流れは2027年度の介護報酬改定においてさらに強化される。ICT導入は任意の選択肢から加算取得の前提条件へと転換しつつあり、導入が遅れた事業所は加算機会を失い、人材確保においても競合に後れを取ることになる。一方でセキュリティ対策の不備は、情報漏洩リスクや行政指導のリスクを招く。デジタル投資の効果と費用対効果を財務的に検証し、投資判断の根拠を明確にする支援が、顧問税理士に求められる新たな役割となっている。
2027年度改定の審議は2026年12月に基本的な考え方がとりまとめられ、翌年1月には改定案の諮問・答申が予定されている。経営判断の猶予はすでに1年を切っている。併設型モデルの収益是正、負担拡大、施設コストの自己負担化、ICT必須化が同時進行するこの構造転換において、顧問先が現状維持を選択することは最大のリスクである。制度変化を前提として経営を再設計するための伴走支援こそが、今、果たすべき役割である。
小濱 道博
こはま・みちひろ/介護経営コンサルタントとして、全国各地で介護事業全般の経営支援、コンプライアンス支援に 特化した活動を行う。2009年にC-MAS 介護事業経営研究会の立ち上げに関与。 税理士、社労士など200を超す専門士業事務所との全国ネットワーク網を構築し、 国内全域の介護事業経営者へのリアルタイムな情報提供と介護事業経営の支援活動を行う。 介護経営セミナーの講演実績は、全国で年間300件以上。 書籍の大部分はAmazonの介護書籍で第一位を獲得。
