医療分野におけるAI実装のうねりと次期介護報酬改定への影響
<小濱道博先生の介護特化塾 vol.16>

本コラムでは、介護経営コンサルタントとして、日本トップクラスの小濱道博先生が、介護業界の「知って得する」トピックスを取り上げて解説します。会計事務所の皆様に、介護マーケットの魅力・重要性のほか、介護特化を進めるためのヒントや戦略などを毎回お届けします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.151(2026.5)に掲載されたものです。


小濱介護経営事務所 代表
C-SR(一社)介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
小濱 道博 先生

2026年度診療報酬改定は、医療業界のみならず日本の社会保障制度全体における大きな転換点となった。特筆すべきは、生成AIなどの最先端テクノロジーが単なる業務効率化の推奨ツールという枠を超え、医療機関の収益や人員配置の基準に直接的に組み込まれたことである。

最も象徴的なのが、生成AIの活用を要件とした人員配置基準の大胆な緩和である。医師事務作業補助体制加算においては、生成AIを用いた文書作成補助システムなどを組織的に導入し活用することで、医師事務作業補助者の配置人数を最大1.3人分として多めに算入できる特例が新設された。病棟においても、AIによる自動的なサマリー生成などの記録支援機器や見守りセンサー等を導入することで、看護要員の配置基準を1割以内で柔軟化することが認められた。国はこれらを後押しする一方で、利用するシステムがAI事業者ガイドラインを遵守していることや、職員への適切な研修の実施を必須要件とした。安全性と倫理面を担保しつつ、AI投資を直接的な経営メリットへと変換する強力なインセンティブを用意したのである。

この医療分野におけるAI実装のうねりは、翌年に控える2027年度の介護報酬改定にも甚大な影響を与えるだろう。介護業界は医療業界以上に深刻な人材不足に直面しており、従来の労働集約型モデルを維持することは極めて困難である。今回の診療報酬改定でAI活用が人員配置基準の緩和として評価されたことは、次期介護報酬改定における最大の布石と言える。見守りシステムやAIを用いた介護記録の自動生成ツールなどの導入が、現行の人員基準をさらに弾力化するための絶対条件となる可能性は高い。

このような劇的な環境変化の中、医療や介護事業者をクライアントに持つ職業会計人の役割も根本からの変革を迫られている。これまでITやAIの導入は、単なる経費や業務効率化のための先行投資とみなされがちであった。しかし2026年の改定を境に、AI投資は加算の取得や人員配置基準の緩和といった、売上と人件費のコントロールに直結する極めて重要な経営戦略へ変貌を遂げた。これからの会計人には、過去の財務数値をまとめるだけの業務は通用しない。

クライアントにAIを前提とした経営指導を行う以上、職業会計人自身がAIテクノロジーを最大限に活用し、自らの業務プロセスを高度化させておくことは言うまでもない。定型業務は速やかにAIへ委ね、専門家は制度の行間を読み解き、経営者の意思決定に寄り添う対人支援へリソースを集中させるべきである。2026年の改定が示したのは、AIを使いこなす者とそうでない者の間に生じる決定的な格差である。AI活用はもはや選択肢ではなく、激動の時代を生き抜き、顧客の事業を守り抜くために職業会計人が避けては通れない必須の要件となった。

小濱 道博

こはま・みちひろ/介護経営コンサルタントとして、全国各地で介護事業全般の経営支援、コンプライアンス支援に 特化した活動を行う。2009年にC-MAS 介護事業経営研究会の立ち上げに関与。 税理士、社労士など200を超す専門士業事務所との全国ネットワーク網を構築し、 国内全域の介護事業経営者へのリアルタイムな情報提供と介護事業経営の支援活動を行う。 介護経営セミナーの講演実績は、全国で年間300件以上。 書籍の大部分はAmazonの介護書籍で第一位を獲得。

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