<第4回>AIが進化するほど、税理士が必要になる理由
~AI時代の社長・経理・税理士の連携体制の作り方~

― AI時代に最も怖いのは「間違いが潜んでいるデータ」
AIの話題になると多くの人が「AIはこんなことまでできる」「AIはこんなことを話しかけてくれる」など、機能の話題が中心になります。それを聞けば聞くほど、ある前提条件が極めて重要になってくると日々感じています。それは、AIに少しでも間違った指示出しをしてしまったり、間違ったデータを取り込んでしまったりしたら、それらは全て間違った回答になってしまう、ということです。今後AIの精度が上がれば上がるほど、会社の実務にも活用できるようになってくるわけですが、そうなればなるほど、「正しいデータを保有している会社」とそうでない会社とでは、格差が一気に広がる時代になるということです。
これは何を意味するかというと、これまでは、「優秀な人材を確保できる資金力・ブランド力」のある企業のほうが、そうでない企業よりもあらゆる面で有利でした。しかしこれからは、少数精鋭の会社でも、経営活動の中で「正しいデータ」を愚直にせっせと集め、それをAIの力を借りてさまざまな分析をしてもらいながらアイデア、施策を繰り出すことが可能になります。つまり、少数精鋭の会社でも一気に業績を拡大できる「ジャイアントキリング(大物食い)」も可能な時代になるということだと思います。税理士の先生方のクライアント様の中にも、そのようなジャイアントキリングを起こせる可能性を秘めた企業がたくさんいらっしゃるはずです。
ただ、その可能性を現実にするためには、「正しいデータ」が絶対条件となります。
正しいデータを保持する条件はいくつかあります。
1.申請ミス・処理のミスがないこと
会計データ内での入力ミスや、仕訳入力の元となる請求書や領収書などと会計データとの突合でわかる計上タイミングのズレといった処理ミスなどです。これらに関しては、税理士の先生方がチェック可能な領域です。
2.申請漏れがないこと
申請漏れに関しては、税理士の先生方でもチェックが難しい領域です。毎月発生しているデータがこの月だけ計上されていない、といった予測ができるものもありますが、単発の案件などは税理士の先生方はクライアント先に常駐しているわけではありませんので把握のしようがありません。そのため、会社には経理社員が必要となるわけです。優秀な経理社員は、ただ経理処理をするだけではなく、社内で起こっていることを常時把握した上で、会計データと突合をし、その上で税理士の先生に報告、提出しています。たとえば経理社員が会計データをチェックしながら現場社員に「〇〇さん、今月納品したA社の売上請求書、申請し忘れていない?」「社長、先日購入した備品の支払請求書、まだ手元にお持ちじゃないですか」など、優秀な経理社員は「現実と会計内のデータ」を突合することができますし、実際にやっています。そうすることで正しいデータを保持し続けることができます。
3.不正がないこと
社長・現場社員・経理社員。いずれも「不正をしてやろう」と思えば誰でも立場的にはできてしまうものです。しかしほとんどの人は自制能力があるのでやらないというだけのことです。しかし、過度なプレッシャーやストレス、借金などの個人的な理由などによって、不正が起きるリスクはどの会社でも可能性はあります。たとえば社長が経理社員に対して赤字の数字を黒字に無理やり変えるよう仕訳の操作を指示する、現場社員が私物の領収書を申請したりキックバック・架空発注をしたりしてしまう、経理社員が帳簿を操作してお金を横領してしまう…。ただ、このようなことはダブルチェック体制や不正をけん制する体制ができていればほぼ起こりません。その「最後の砦」となるのが税理士の先生であると私は確信しています。
なぜかというと、以前、企業不正の案件を担当した際、その案件の全てが顧問契約をしている税理士事務所が「名ばかり税理士」で、実際に帳簿もチェックしていなければ、定期的な経営者面談すらもしていなかったからです。逆に言えば税理士として「当たり前のこと」さえきちんと見てくださっていれば、それだけでもクライアントにとっては大きなけん制となり、不正も起きず経営も傾かなかっただろうということを実感しました。
正しいデータの取得、維持、活用には、経営者・経理社員・税理士、それぞれがモラルを持ち、それぞれが果たすべき責務を果たすことで初めて、AIが有用に機能するということです。
最終回では、AI時代に伸びる会社の共通点をまとめます。
前田 康二郎
経営データ戦略アドバイザー・作家/流創株式会社代表取締役。 学習院大学経済学部経営学科卒業。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長兼IPO担当として株式上場を達成。その後、中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は、AI導入前の社内体制構築・経営データ整備支援など、多岐にわたりコンサルティング、研修、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)他多数。Podcast番組『THE VENTURE』 パーソナリティ。

