遺言書の効力の範囲と効力のない遺言への対処法

遺言書は被相続人の最終意思の意味があるため、できる限り尊重されるべきですが、書き方によっては効力が生じないので注意が必要です。

遺言書の効力の範囲と効力のない遺言が出てきた場合の対処法、効力のない遺言の予防策についておさらいします。

目次

遺言書に効力が生じない2つの理由

遺言書に効力が生じない理由は次の2つです。

  • 遺言書の形式に問題がある。
  • 遺言書の内容に問題がある。

それぞれ確認していきましょう。

遺言書の形式

遺言書は、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つに分けることができます。
民法では、それ以外にも様々な形態の遺言が定められていますが、ほとんどの場合は、この2つのいずれかの形で遺言します。

公正証書遺言は、形式が問題になって無効になることは基本的にありません。遺言書の形式が理由で効力が生じなくなるのは、自筆証書遺言です。

自筆証書遺言は、

  • 遺言者が自分の手でペンで書くこと。
  • 日付と氏名を忘れないこと。
  • 印鑑を押すこと。

この3点がポイントです(民法968条1項)。

自筆証書遺言の形式が原因で無効になるケース

自筆証書遺言は形式が原因で無効になることも少なくありません。
よくあるパターンが次のとおりです。

  • 本文をパソコンなどで作成した遺言書
  • 修正方法を間違えている遺言書
  • 遺言者以外の人が書いた遺言書
  • 署名を忘れた遺言書
  • 押印を忘れた遺言書
  • 日付の記載を忘れた遺言書
  • 作成日とは違う日付を記載した遺言書
  • 2人以上の共同遺言になっている遺言書

一つ一つ見ていきましょう。

本文をパソコンなどで作成した遺言書

今は、パソコンで文書を作るのが当たり前なので、遺言書もついつい、パソコンで書いてしまう人も少なくありません。しかし、遺言書の本文をパソコンで書いても無効なので、注意を促しましょう。

修正方法を間違えている遺言書

修正液を使ったり、塗りつぶしてしまう場合は無効になるので注意しましょう。
文章の加除や変更は、

  • その場所を指示し、これを変更した旨を付記する。
  • 署名する。
  • 変更の場所に印を押す。

というルールがあります(民法968条3項)。
自筆で書かなければならないことは知っていても、修正方法は知らない方も多いので、しっかりアドバイスしましょう。

遺言者以外の人が書いた遺言書

本人が病気などでペンを持てないので家族などが代わりに書いてしまうことがあります。しかし、たとえ、本人の意思どおりの内容でも無効になるので注意しましょう。

ぎりぎりで有効なのは、本人がペンを持ち、他の人が添え手したケースです(最判昭和62年10月8日 民集 第41巻7号1471頁)。

本人がペンを持てない場合は、公正証書遺言の作成を案内しましょう。本人が公証役場に出向けない場合は、公証人が出張してくれることもあります。

署名を忘れた遺言書

署名は、フルネームで記載するのが一般的です。

氏または名だけでも誰が書いたものかはっきりしていれば問題ないこともありますが、トラブル防止のためにはフルネームで記載するようアドバイスしましょう。

押印を忘れた遺言書

役所の書類などで印鑑を不要とするケースが増えているため、遺言書も印鑑がいらないと勘違いされている方も少なくありません。印鑑がないと無効になることを周知しましょう。

印鑑は、実印である必要はありませんが、トラブル防止のためには実印が最適です。なお、拇印(指印)でもよいとするのが最高裁の判例(最判平成元年2月16日 民集 第43巻2号45頁)なので、実印がなく緊急性が高い場合はその旨を案内しましょう。

日付の記載を忘れた遺言書

遺言書を複数書いており、前の遺言と後の遺言とで抵触する部分がある場合は、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条)。

そのため、遺言書をいつ作成したのか? という日付の記載が重要になります。意外に忘れがちなので、周知しましょう。

作成日とは違う日付を記載した遺言書

遺言書の日付は、作成した日付を記載します。
ゲン担ぎなどで作成日とは違う日付を記載してしまうと原則無効なので注意しましょう。

また、「昭和四拾壱年七月吉日」と記載した日付が無効とされた判例があります(最判昭和54年5月31日 民集 第33巻4号445頁)。

2人以上の共同遺言になっている遺言書

夫婦がお互いが亡くなった時に備えて、同じ遺言書にそれぞれの遺言内容を書いてしまうことがあります。こうした遺言は、共同遺言と言い、無効とされているので注意しましょう(民法975条)。

遺言の内容

遺言書に書いたことは何でも効力が生じるわけではありません。
民法によって効力のある内容と、効力のない内容がはっきりと区別されています。

財産に関する遺言

自分の財産をどのように相続してほしいかという点は遺言を書くときの大きな目的の一つだと思います。遺言書に書いておくことで効力が生じるのは次の事項です。

  • 相続分の指定(民法902条)
  • 遺産分割の方法の指定(民法908条)
  • 遺贈(民法964条)
  • 特別受益の持ち戻しの免除(民法903条)
  • 配偶者居住権の設定(民法1028条)
  • 生命保険金の受取人の変更

法定相続人への相続は、遺言書を残さなくても生じますが、法定相続人以外の人へ遺贈したい場合は、遺贈の意思をはっきりと遺言書に書くことが大切です。

また、生命保険金の受取人は、2親等以内の親族に限るとしているケースが多いため、受取人とすることができる範囲は、生命保険会社に確認が必要です。

身分に関する遺言

遺言者と他の人との身分関係に関する遺言です。認知していない子どもがいる場合に、認知することで相続人の地位を与えたり、相続人から廃除したい人がいる場合に記載します。

主に次のような項目です。

  • 子の認知(民法781条)
  • 推定相続人の廃除(民法893条)
  • 未成年後見人の指定(民法839条)
  • 未成年後見監督人の指定(民法848条)

遺言の執行に関する事項

遺言の内容は、法定相続人全員の一致によって、無視することも可能です。

そのため、遺言の内容を確実に執行してほしい場合は、遺言執行者の指定(民法1006条)を行うことが大切です。遺言執行者は、特別な資格がなくても誰でもなれるため、親族などが指定されることもありますが、できれば利害関係のない第三者が良いでしょう。

税理士が遺言書の原案作成に関与した場合は、遺言執行者にも税理士を指定するよう案内すると、いざ相続が開始したときに、相続手続きや相続税の申告などの仕事に繋げられます。

効力のない遺言内容

遺言書に書いても効力が生じない項目もあります。問題となりやすい項目は次のとおりです。

  • 付言事項
  • 遺留分を侵害する遺言
  • 結婚、離婚、養子縁組

一つ一つ確認しましょう。

付言事項

遺言書には、法的に効力が認められている事項以外の事項も記載することができます。
これらの事項は、付言事項と言いますが次のような項目が代表例です。

  • 遺言書を書いた理由の説明
  • 家族や親しい人へのメッセージ
  • 自分の死後の葬儀や法要の希望
  • 遺体の処置方法の希望

これらの事項は書き残しても、実現してもらえるとは限りません。

特に、自分の死後のことについて確実に実現してほしいことがある場合は、遺言書とは別に、死後事務委任契約を結ぶ必要がある旨を案内しましょう。

遺留分を侵害する遺言

遺留分とは兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限認められている相続分のことです(民法1042条)。

一般的には、それぞれの法定相続分の2分の1については、遺留分の主張が可能となっているので、相続分の指定などの際に注意を促す必要があります。

遺留分を侵害する遺言は無効ではありません。
法定相続人が納得していれば実現可能ですし、遺留分侵害額請求権も相続開始から1年経過すれば、時効により消滅します(民法1048条)。

ただ、相続争いになるリスクがあるのでできる限り、遺留分に配慮すべきです。

結婚、離婚、養子縁組

結婚、離婚、養子縁組はいずれも相手方との話し合いが必要なので、遺言書だけで一方的に実現することはできません。内縁の配偶者に相続させたければ、亡くなる前に婚姻届を出しておくか、遺産を遺贈する旨をはっきり書く必要があります。

配偶者に相続させたくない場合は、亡くなる前に離婚を成立させる必要があります。養子縁組は、相続税の基礎控除額の増額を狙って行うこともありますが、やはり、生前に済ませなければ実現できません。

効力の怪しい遺言への対処法

遺言の形式を満たしていないために効力がない場合は、その遺言書は相続手続きで利用することはできません。この場合は、法定相続人同士で遺産分割協議を行うしかありませんが、その際に、遺言内容を考慮することは考えられます。

遺言の内容が無効な場合は、無効な部分を無視して、有効な部分のみを実現することになります。遺言の効力があるのかどうかは、専門的な知識がないと判断できないため、弁護士や税理士に相談するように案内しましょう。

遺言の内容を巡って争いが生じている場合は、家庭裁判所での調停や裁判といった手続きが必要なので弁護士へ相談するよう案内するしかありません。

効力の怪しい遺言を生じさせないようにするには?

効力があるかどうかわからない遺言書は、大抵の場合、自筆証書遺言です。遺言者にはっきりとした希望があっても、実現できるかどうかは、専門家のチェックが必要です。

公正証書遺言とすることで、効力の生じない遺言を回避することが可能です。税理士が有効な自筆証書遺言の書き方をアドバイスすることもできますが、最終的に書くのは遺言者本人ですから、アドバイスが正確に伝わらないリスクもあります。

やはり、確実に有効な遺言を残したければ、公正証書遺言とするように案内すべきです。

まとめ

遺言書を書くことは、簡単そうに見えても効力が生じないことは意外に多いものです。
相談を受けた際は、有効な遺言書の書き方をアドバイスするだけでなく、公正証書遺言とすることで、万全を期するのが最善です。

税理士.ch 編集部

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