日産自動車が賃上げ税制適用不可<気になる税務トピックVol.24>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.128(2024.6)に掲載されたものです。


白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

日産自動車が賃上げ税制適用不可

資本金10億円以上で従業員1,000人以上の企業は、マルチステークホルダー方針を宣言し、政府が公表している「パートナーシップ構築宣言」の専用サイトに掲載されていることが大企業向け賃上げ税制の適用要件となっている。日産自動車は「下請け代金の減額禁止」に違反したことで専用サイトへの掲載が取りやめとなり、結果として賃上げ税制が受けられなくなったとのことだ。マルチステークホルダー方針の掲載など形式だけのものだと思っていたら、こういう実害もあるのだ。

人気プロ野球選手が高級クラブの飲食費で税務署とトラブルに

読売ジャイアンツの坂本勇人選手が1億円の申告漏れを税務当局より指摘されたが、修正申告に応じておらず、税務署とトラブルになっていると週刊誌が報道している(デイリー新潮2024/5/15)

昨シーズン終了後から始まった渋谷署による税務調査では、坂本選手が毎年の確定申告で銀座や六本木の高級クラブなどの飲食費を必要経費として計上していたが、金額にして年間2千万円、直近5年は毎年のようにこの支出を経費計上しており、総額で約1億円もの過大な経費の計上が確認されたとのことだ。坂本選手側は「これまで飲食費は認められてきた」と主張しているそうだが、過去認めていたのだから今回も認めろというのは調査では禁句だろう。

それにしても調査中の情報が報道されることは、通常まずない。国税側からのリークなのか、身内によるものかは不明だが、報道されて表の事案になってしまうと交際費として認められる余地は低くなってしまう。法人については、中小企業であれば年間800万円、大企業では一人当たり1万円の飲食代しか計上できないため、飲食費も認められ易いのが実務だ。しかし、個人事業主だと限度額はない。いずれにしても妥協して現場で解決すべきだったとしか言いようがない。

相続登記の申請義務化

6月1日より相続登記の義務化が始まる。令和6年4月1日より前に相続した不動産も、相続登記されていないものは義務化の対象だ。正当な理由がないのに相続登記をしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があるのだが、実際にどのような場面で科されるかは実務の運用を待つことになるだろう。

法務省の「相続登記の申請義務化に関するQ&A」にフローチャートがあるので確認しておきたい。令和6年4月1日より前に相続開始の場合と、令和6年4月1日以降に相続開始の場合に分けて、さらに、遺言の有無、分割協議がまとまっているか否か、争いがあるかで対応が分かれる。

これによると、4月1日より前の相続の場合、遺産分割協議がまとまっているなら令和9年3月31日までに相続登記が必要となる。分割協議がまとまっていない、または争いがあるという場合だと令和9年3月31日までに相続人申告登記だけはやらないといけない。これは相続登記の義務を履行する簡易な方法だが、公示効果がなく単なる申出となるようだ。

また、遺言による不動産の取得がある場合、遺言の内容に基づく所有権移転登記が必要となり、このリミットがやはり令和9年3月31日となっている。

白井 一馬

しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。

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