合同会社の社員に対する 事前確定届出給与の取扱い<気になる税務トピックVol.34>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.138(2025.4)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
合同会社の社員に対する事前確定届出給与の取扱い
東京国税局は2月28日、合同会社の社員に事前確定届出給与を支給する場合の文書回答事例を公表した。事前確定届出給与の期限について「定時社員総会の日から1か月を経過する日」と説明している。
株式会社では、「定時株主総会の開催日」を「職務の執行の開始の日」として事前確定届出給与の支給を決議するのが一般的だ。しかし合同会社では、会社法上、任期や選任手続きに関する規定がないため、社員職務の執行開始日を明確に決める必要がない。そうすると「就任年度の翌事業年度の職務執行開始の日の届出期限がいつになるのか」という疑問があったわけだ。
借地権の経済的利益に相続時精算課税
相続時精算課税を選択すると、贈与税が無申告のまま除斥期間が経過しても贈与者の相続時には持戻し計算が必要とされる。典型的には名義預金だ。亡くなる何年も前に生じた名義預金が生前贈与と認定されると遺産に加算しなければならない。名義預金であれば被相続人の遺産になる。いずれにしても相続税の修正申告は避けられないことになる。
団塊世代が超高齢になりこれから大相続時代を迎える。相続時精算課税に基礎控除が創設され、同制度を選択する納税者の増加を誘引する改正が行われたのは、相続税の調査を大量に実施する中で名義預金の問題を効率よく処理するためだと思う。
さて、贈与税の除斥期間が経過しているみなし贈与について遺産に加算すべきとする更正処分の事例がある(週刊T&Amaster No.1060 2025年1月27日)。
平成21年11月に、父親から現金610万円の贈与を受けた相続人は相続時精算課税を選択した。よって平成21年分以後の贈与は相続時精算課税の適用を受けることになるが、実は同じ平成21年に相続人らは父親の土地に建物を建築するため賃貸借契約を締結し、借地権を設定していた。これは上記の現金贈与よりも前のことだった。
父親に支払う地代が少額だったため相続人は借地権相当額の経済的利益を受けたと税務署は認定した。父親に相続が開始したのが令和元年5月だったが、相続税の申告にあたっては借地権相当額を相続財産に加算していなかった。この経済的利益を遺産に加算すべきとして相続税の更正処分を受けたわけだ。
相続人は、借地権相当額の贈与に係る贈与税についての更正決定等の除斥期間は既に経過していたから、課税処分は違法であると主張したが東京地裁は認めなかった(令和7年1月16日判決)。
この事例を受けて、相続時精算課税についての実務をあらためて整理しておこう。
まず、①大昔の名義預金、②租税回避的な生前贈与について無申告だった場合-の2つのケースでは、今後、税務調査で積極的な調査対象となり指摘を受ける事例が増えるだろう。そして、不動産や非上場株式などの評価について否認される不安がある場合に、暦年課税のリスクを避けるため相続時精算課税を選択するという実務が定着するだろう。税理士はこれらをしっかり区分してどう対応すべきか、実務感覚を磨いておくことが必要だ。

白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。