相続税の申告事績公表<気になる税務トピックVol.32>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.136(2025.2)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
相続税の申告事績公表
国税庁から令和6年度における相続税の課税割合は死亡した人の9.9%だったと公表されている。若年で死亡した人や妻の死亡も含まれるから仮に65歳以上の男性が被相続人の場合だと課税割合はさらに上昇する。
課税割合は都心と地方では大きく異なる。東京都心だと自宅と預金があればほとんど相続税が必要になるだろう。
自宅敷地に小規模宅地特例が適用出来るか否かが税負担の明暗を分けることになる。路線価200万円で70坪だと小規模宅地特例でなんと1億円超の評価減。1次相続だと配偶者が取得すれば無条件に特定居住用宅地の特例が使えるが、小規模宅地特例の適用が大幅に減る2次相続が過酷だ。相続人に同居してもらうことも真剣に考えるべきかもしれない。
共有名義の空き家譲渡特例
新たに更新された質疑応答事例では、いわゆる空き家譲渡特例(措法35③)において、共有名義の家屋について敷地に空き家譲渡特例が使えると解説されている(国税庁HP 質疑応答事例 譲渡所得「相続により取得した共有名義の家屋を取り壊し、その家屋の敷地を譲渡した場合の被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」)。
たとえば父に相続があり、父と父の親族が共有する自宅家屋(1/2)と敷地全体を子供が相続したときは、敷地全体に3千万円控除が使えるということだ。家屋が共有であっても被相続人は敷地全体を被相続人が居住用に供しているからだ。
空き家譲渡特例は、家屋と敷地の両方を相続・遺贈で取得することが要件となっており、それぞれ別の相続人が取得すると適用できない。たとえば、家屋は長男、敷地は次男が取得すると敷地については空き家譲渡特例が適用できない。この制度は家屋についての特例であり、敷地にも適用しようと思えば同じ相続人がセットで取得する必要があるのだ。
また、2人以上の相続人が家屋と敷地を共同相続した場合は各々が3千万円控除を適用できるが、令和5年改正で、相続人が3人以上の場合だと控除額が1人2千万円に縮小されているので注意が必要だ。
質疑応答のように家屋が共有でなく、被相続人が土地だけ所有していた場合だと空き家譲渡特例は適用できない。たとえば母親名義の土地に息子名義の家屋が建っていた場合だ。母親に相続があり息子が土地を相続したときは、相続後に家屋を取壊して売却しても空き家譲渡特例は適用できない。息子は家屋を相続していないためだ。
要するに、居住用宅地の譲渡特例は生前(措置法35①)、相続後(措置法35③)を問わず敷地を家屋と同時に売ることが基本となる。よって、空き家譲渡特例については家屋と敷地の両方を同じ相続人が取得して、家屋と敷地を同時に譲渡することが要件になるわけだ。
もちろん、相続人が空き家のまま譲渡せず相続後に居住してから売却すれば、空き家譲渡特例ではなく1項の居住用財産の3千万円控除が使える。ただし3千万円控除を受けるためだけに居住するのは否認リスクがあるので注意が必要だ。

白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。