カスハラ対策が法的義務になります
<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.49>

昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.153(2026.7)に掲載されたものです。


弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生

以前このコラムでカスタマーハラスメント(カスハラ)を取り上げ、東京都のカスハラ防止条例をご紹介しました。その後、国レベルでも法整備が進み、2025年6月に改正労働施策総合推進法が成立しました。本年(2026年)10月1日から、カスハラ対策が全事業者の法的義務になります。施行まであと数か月ですので、今回は企業として何を準備しなければならないかを整理します。

まず義務を負う企業等の範囲ですが、従業員を1人でも雇用するすべての事業主が対象です。中小企業や個人事業主であっても、パートやアルバイトを含め従業員がいれば義務を負います。企業が講じなければならない措置の柱は、①カスハラを容認しないという方針の明確化と社内外への周知、②従業員が被害を相談できる窓口の整備、③カスハラが発生した場合の適切な対応や被害を受けた従業員の支援、④研修の実施などの取り組みです。違反に対する直接の刑事罰はありませんが、行政からの勧告に従わない場合には企業名が公表されます。また、対策を怠った結果として従業員の心身に重大な影響が生じるなどすれば、カスハラの行為者のみならず雇用主である企業も安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるリスクがあります。

ここで一つ注意していただきたいことがあります。カスハラを憎むあまり、現場の従業員が「面倒な客はすべてカスハラ」として対応を拒否してしまうリスクです。実際、カスハラという言葉が広まって以降、こちら側に落ち度があるなど本来対応すべき正当なクレームに対して「それはカスハラです」とレッテルを貼り、適切な対応をしなかったためにトラブルがかえって大きくなったケースを見かけるようになりました。

法律上、カスハラとは「社会通念上許容される範囲を超えた言動により労働者の就業環境が害されること」と定義されています。ポイントは「社会通念上許容される範囲を超えた」という部分です。商品やサービスに不具合があり、その改善や説明を求めるクレームは、厳しい口調になりがちな場面ですが、基本的にはカスハラには該当しません。人格を否定するような暴言や長時間の拘束、SNSで従業員個人に対して執拗に攻撃するといった言動面において社会的に許されない行為、また単なる難癖や法的責任を超える過度な要求など内容面において社会的に許されない要求が、カスハラとして拒絶すべき対象です。

また、企業側に何かしらの落ち度があった場合、たとえ顧客がカスハラ的な言動でクレームをつけてきたとしても、それがカスハラか否かという問題とは別に、もともとの債務不履行責任の問題があります。企業側に落ち度があり対応が必要なケースでは、適切かつ迅速に謝罪や補償の提案をし、カスハラ的な言動に発展しないよう事を収めることこそが重要です。

企業としては、カスハラ対応マニュアルを作る際に、カスハラか否かの区別を明確に盛り込んでおくことが極めて重要です。正当なクレームにはきちんと向き合い、カスハラには毅然と対処する。この線引きを現場の従業員が自信を持って判断できるよう、具体的な事例を挙げて研修を行うことが、義務化への対応であると同時に、顧客対応の質を落とさないための 鍵になるのではないでしょうか。

中澤 佑一

なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。

「登録する」をクリックすると、認証用メールが送信されます。メール内のリンクにアクセスし、登録が正式に完了します。

売上アップの秘訣や事務所経営に役立つ情報が満載
税理士.chの最新記事をメールでお知らせ