銀行からの電話、本物ですか?
<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.50>
昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.154(2026.8)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
企業の法人口座から預金が不正に送金される被害が急増しています。警察庁の発表によれば、2025年の法人ネットバンキングを狙った不正送金被害は約45億円にのぼり、1社で4億円を超える被害も報告されています。本年6月には警察庁、金融庁、日本サイバー犯罪対策センター(JC3)が相次いで注意喚起を行いました。その手口は「ボイスフィッシング」と呼ばれるもので、電話を起点にした巧妙な詐欺です。
手口はこうです。企業の代表電話や経理部門に銀行を名乗る自動音声の電話がかかってきます。「インターネットバンキングをご利用の方は1番を押してください」と案内され、番号を押すとオペレーター役(犯人)に切り替わります。
「システム更新のため再認証が必要です」などと説明され、メールアドレスを聞かれます。伝えてしまうとフィッシングメールが届き、偽のログイン画面でID・パスワードが盗まれます。さらに最近の手口では、「セキュリティ強化ソフト」と称して企業のPCに遠隔操作ソフトまでインストールさせ、犯人が遠隔操作で企業のPCから直接ネットバンキングにログインし送金を実行します。
なぜこの手口に騙されてしまうのでしょうか。従来のフィッシング詐欺は、突然届く怪しいメールが入口でした。「不審なメールは開くな」という教育はかなり浸透しており、見知らぬメールに警戒する人は増えています。しかしボイスフィッシングでは、先に電話がかかってきて、その電話の中で「今からメールを送ります」と予告されます。直後にメールが届くと、「さっき銀行が言っていたあれだ」と思い込み、警戒心が大きく下がってしまうのです。先に電話で信頼関係を作ってからメールを送るという二段構えが、従来のフィッシングとの決定的な違いです。さらに厄介なのは、月末の支払い集中日など、まさにネットバンキングで振込作業をしているタイミングで電話が来ると、自分が今やっている作業に関連する連絡だと思い込みやすいという点です。件数をこなすことに意識が向いている最中に「システム更新の確認」と言われれば、普段なら不審に思う人でもつい応じてしまうおそれがあります。
加えて、遠隔操作の手口は従来の対策をことごとく無力化します。銀行は不正送金を防ぐために、ログイン端末のIPアドレスや電子証明書をチェックしています。ところが、犯人が企業のPC自体を遠隔操作して送金する場合、銀行側から見れば「いつものPCから、いつものIPアドレスで、正規のIDでログインしている」ように見えるため、不正を検知できません。技術的な防御をすり抜けるこの点で、従来のフィッシングよりも格段に危険と言えます。
対策の基本は、「銀行が電話でメールアドレスや暗証番号を聞くことは絶対にない」と社内に徹底することです。銀行を名乗る電話で何か求められたら応じず、自分で銀行の営業店に折り返して確認する。これを経理担当者だけでなく代表電話を受ける従業員全員に周知してください。また、ネットバンキングの送金に複数人の承認を必須とする体制も有効です。法人口座を持つすべての企業が標的になり得るという前提で、備えていただきたいと思います。
中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。
