顧問先への注目提案 企業版ふるさと納税活用事例(Vol.1)
企業版ふるさと納税制度について
―制度の概要、活用するメリットや事例を紹介―
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
内閣府地方創生推進事務局 地域連携班
山中 凌
昨今、人口減少や少子高齢化が進み、地域の公共サービスの担い手が不足してきています。一方で社会課題は複雑化してきており、それらを自治体のみで解決していくことが難しい時代となりつつあります。こうした中、地域の社会課題の解決に積極的に取り組んでくださる企業や人材が増えてきており、そのような皆様のお気持ちや志に投資するために2016年に生まれたのが、この「企業版ふるさと納税」制度です。
この制度は、「1回お金をもらって終わり」というものではなく、これをきっかけとして官民連携で地方創生を進めていく、重要な最初の一歩となる効果的なツールになりうると考えています。制度の概要を一言で申しますと、「自治体が行う地方創生の取り組みに対し、企業様から寄附をいただいた場合に、その寄附についての法人関係税を税額控除する」という仕組みです。
現行制度の適用期限が今年度末までとなっていますが、自治体や経済界の皆様から要望もいただいており、来年度以降も制度の継続ができるよう我々としてもこれから要望していくところです。
制度のポイントとして、まず一番大きなところが、企業様が寄附をしやすい仕組みになっているという点です。通常、企業様から自治体に寄附をいただくと、特例で全額が損金に算入される仕組みになっています。この法人関係税というのはおおよそ30%前後の税率になりますから、計算すると約3割の税の軽減効果があるところです。
2回の税制改正を受けて、そこにさらに6割分の税額控除を上乗せし、最大で9割までの税の軽減効果が得られるとしたものが、この「企業版ふるさと納税」です。1,000万円を寄附いただくと、最大約9割、約900万円の法人関係税の軽減が受けられます。法人住民税の税額の上限があり、常に9割になるものではありませんが、9割とまではいかなくても、8割、7割とより多くの軽減効果が得られる制度です。
2つ目の大きなポイントは、個人のふるさと納税と最も異なるところで、経済的な見返りだけでなく返礼品も禁止しており、企業様からご寄附をいただいた場合は、基本的に自治体のホームページを使って公表するなどの紹介にとどめていただいております。首長さんとの対話、ホームページや広報誌への掲載、感謝状の贈呈式などに魅力を感じている企業様もいますので、自治体の皆様もそうした対応を調整してくださいと研修会などでお願いをしています。
3つ目のポイントは、寄附額は事業費の範囲内、つまり制度が対象外になる自治体がいくつかあるということです。地方交付税の不交付団体である東京都に加え、地方交付税の不交付団体で、なおかつ三大都市圏の既成市街地に税金が入っている市区町村は、この制度を使うことができません。該当するのは、基本的に首都圏の市区町村だけですので、それ以外の自治体はすべて使っていただける制度です。
もう1つ、自社の所在する地方公共団体への寄附は対象外です。例えば、北海道札幌市にある企業であれば、札幌市と北海道庁に寄附するのは、元々、法人住民税を納めている関係もあり制度の対象外になります。
一方で、札幌市に本社がある企業様が旭川市や函館市に寄附していただく場合は、制度を使っていただけます。
次に、自治体が寄附を受け取るまでの流れをご説明します。各自治体ほとんどすべての団体が、地方版総合戦略を転記するような形で、こうしたことに「企業版ふるさと納税」を活用して地方税を取り決めるという地域再生計画を作っています。それを我々の方で認定すると寄附を送っていただく状況が整うのですが、制度対象外の東京都を除いて、すべての都道府県がこの計画を持っています。 また参加している市町村も、1,598市町村まで伸びてきており、ほとんどの自治体が使うことのできる状況が整いつつあります。最新の数値をご紹介しますと令和4年度に寄附額も340億円を超え、件数も8,390件まで伸びてきました。制度開始以降、一度でも受け取ったことのある自治体は1,361団体と、寄附をしていただく側も受け取る団体側も、どちらもすそ野が広がってきているという状況です。
また、「企業版ふるさと納税」の人材派遣型もあります。制度の枠組みはまったく同じですが、事業費に寄附をいただくところに人件費部分も含めて寄附をいただき、人材費を含めた事業費ということで人件費分に合わせた人材を派遣していただく制度です。
企業様にとっては、地方創生に役立つのはもちろんのこと、自分たちのノウハウや人材のパワーを地方貢献に活かすことができると好評いただいています。
今年4月1日時点で派遣された方が延べ157名、活用団体は119団体と、かなり広がってきた制度です。
ここからは令和5年度の大臣表彰の事例をご紹介していきます。この表彰制度は平成30年度から始まったもので、昨年度は自治体部門で5団体、企業部門で3団体が表彰されました。
◎北海道南幌町様
地方創生の拠点整備の交付金と「企業版ふるさと納税」を併用する形で事業費を捻出し、子育て屋内施設を整備したもので、令和5年5月の開業から12月まで15万人の来場者を集めました。
◎岩手県紫波町様
元々地方活性化の取り組みとして有名だったのですが、バレーボール、スポーツを活用した地域活性化に取り組んでいる事例です。
◎神奈川県平塚市様
波力発電分野での新産業の創出や地域活性化のために産学公で協議会を設立し、波力発電の海域実証や電池推進船の漁業活用に向けた実証試験を行っています。
◎山梨県都留市様
株式会社ニコン様がシニア人材の有効活用を目的に立ち上げた会社から派遣された人材を活用し、探求型の学習塾を立ち上げるなど、資金調達を行うために派遣されたシニア人材の方々の知見を活かした、地域と企業様の課題がマッチした事例です。
◎鹿児島県曾於市様
畜産業を基幹産業とする地域ならではの取り組みで、獣医学部の学生が実習を行う拠点施設の整備などを行ったものです。
続いて企業部門もご紹介していきます。
◎大塚商会様
愛媛県、高知県内の12市町村と協定を結び、災害時に活用するシャワーキットや簡易トイレを災害時に相互連携をして支援し合う仕組みを構築したものです。実際に24年1月の能登半島地震の際にも、寄附されたシャワーキットが被災地で活用されました。
◎資生堂ジャパン様
若い女性が地域に定着しないという課題を持っていた山形市が女性の人材の活躍のために、ワークショップなどの取り組みを行う事業に対して寄附を行ったものです。中長期的には女性の活躍やさらなる社会進出によって化粧品の使用拡大につながることが期待されたもので、企業様の特性と地域の課題がマッチした好事例となりました。
◎三菱UFJ銀行様
北海道内の自治体を対象に地域課題解決プロジェクトの公募・選定を行ったもので、選定の際には事業の紹介動画を作成し、SNSで配信してZ世代の声を参考に寄附先の選定を行ったものです。北海道庁の「ゼロカーボン北海道」の取り組みというモデルで、道庁で設置された基金の運用に対する寄附を行った取り組みです。
企業様のメリットとして、「PRになりました」「SDGsやESGに寄与していることをアピールできました」という声もございました。「被災地の復興に役立たせてもらいました」といった声もいただいております。
企業様に寄附をいただく場合の大まかな流れは次の通りです。
- 寄附の方針の検討と寄附先の地方公共団体を選定
- 社内提案資料の作成、社内調整
- 実際に地方公共団体に寄附の申し出、自治体側との事業の調整
- 感謝状贈呈式の実施やプレスリリース、自治体のホームページ、広報誌などへの紹介
寄附による企業様の知名度向上などイメージアップに向けた部分の調整 - 税務処理の手続き
最近では企業様から「自治体の方に地方創生を一緒に頑張りませんか」と持ち込んでいただくことも増えております。寄附を検討されている場合も含め、そこまでガチガチに詰めたものではなく、まずはアイディア状態でも、話し合いの中で一緒に内容を詰めていく形で進められたらよいと考えています。
続きまして、「企業版ふるさと納税」を活用するポイントについてです。
制度開始当初はオーナーさんの出身地だから、工場や支店があるからなどの理由で寄附をする形が多かったのですが、プロジェクトのテーマに合わせて自治体の事業に寄附をするとか、企業様の課題解決や長期的に見れば事業につながるようなものに寄附をいただく事例も増えてきています。企業様と自治体それぞれが持っている課題を上手く結び付けて、より官民連携によって地方創生を進めていくためのヒントがあると思っていますので、ぜひそうした観点でもこの制度を見ていただければと思います。
企業の皆様には最大で9割の税軽減効果があることと、通常の寄附をいだたくよりはプラスαの控除が受けられるという観点でもご検討いただければなとも思います。
2、3年単位ではメリットにならなくとも、長期的に見れば自分たちの会社の課題解決につながる、そうした観点から地方創生というものを捉えていただければと考えています。
自治体の皆様にお伝えしたいのは、「企業版ふるさと納税」をシティプロモーションとして、企業様と一緒に事業の構想段階からどうすれば自分たちの地域を良くできるかを考えて取り組んでいただくのも1つのポイントだということです。寄附を募集するには首長さんに動いていただくトップセールスも重要ですし、例えばパンフレットやホームページでもいいのですが、独自性を出していくのも企業様にとっては重要なポイントです、ともお話ししています。
こうした理由があるからうちに寄附をお願いします、とアピールすることが寄附につながるポイントだと考えています。そして、寄附をもらった後は進捗状況や、どういった成果が出ているかをきちんと報告していただき、関係性をしっかり築いていく、きめ細かなフォローをお願いしますという話をさせていただいています。
最後になりますが、当事務局ではより一層の地方創生につなげることを目的に、官民連携の場として設置した「地方創生SDGs官民連携プラットホーム」の枠組みや「企業版ふるさと納税分科会」というものがあり、寄附を募集している自治体と検討されている企業様のマッチング会を開催しています。
また「内閣府企業版ふるさと納税マッチング・アドバイザー」という派遣事業で、本制度の活用促進を目的としてマッチングや、地方公共団体主催で研修を開催する際にアドバイザー派遣を行っています。
実際にマッチング会の開催を検討されているというお話があれば、ぜひ事務局までご連絡ください。
(7月8日(月)開催のセミナー「顧問先への注目提案 企業版ふるさと納税活用事例」より)
<お問い合わせ先>
内閣府地方創生推進事務局(企業版ふるさと納税担当)
Tel:03-6257-1421/E-Mail:kigyou-furusato@cas.go.jp
山中 凌
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
内閣府地方創生推進事務局 地域連携班
北海道南幌町出身。2015年に北海道南幌町役場に入庁。2023年より内閣府に出向し、
企業版ふるさと納税の広報や活用促進等に取り組む。主に、「企業と地方公共団体のマッチング会」
や「企業版ふるさと納税大臣表彰」を担当。