キャリアアップ助成金(正社員化コース)の常識の間違い
やまがみ社会保険労務士事務所 社会保険労務士
山上 幸一
令和4年度改正で、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給要件が厳格化
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、令和3年度までは、期間契約社員を正社員にして賃金を3%アップすれば、OKという認識でした。労働局助成金センターでも、「初めて、助成金に取り組む場合にはキャリアアップ助成金がお勧めです。」と言っていたぐらいです。
ところが、令和2年からのコロナ禍で、雇用調整助成金が爆発的に支給され、助成金財源が枯渇したため、令和4年度改正で、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給要件が厳格化されました。
中小企業枠の現状の助成金支給額は以下の通りです。
- 有期 → 正規:1人当たり【80万円 】第1期…6か月40万円/第2期…さらに6か月40万円
- 無期 → 正規:1人当たり【40万円 】第1期…6か月20万円/第2期…さらに6か月20万円
常識の間違い1:正社員賃金規程において、従来から賞与の制度はあったが、「賞与は支給しない。ただし、業績によっては支給することがある。」と規定したままになっていた。
【こんなことになる】
正社員賃金規程では、賞与または退職金の制度が必要です。さらに賞与の制度では、「賞与は支給しない。ただし、業績によっては支給することがある。」のような、原則として不支給の場合や、賞与を支給することが明瞭でない場合は、支給対象外となります。
【解決策】
原則として賞与を支給とする賞与規程を整備する。
第〇条(賞与)
1. 賞与は、原則として、下記の算定対象期間に在籍した労働者に対し、会社の業績等を勘案して下記の支給日に支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期、または支給しないことがある。
算定対象期間 | 支給日 |
10月1日から3月31日まで | 6月10日 |
4月1日から9月30日まで | 12月10日 |
2. 前項の賞与の額は、会社の業績及び労働者の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する。
常識の間違い2:正社員賃金規程では、従来から昇給制度の記載はなく、個別雇用契約書に昇給制度を記載していた。
【こんなことになる】
正社員賃金規程で、昇給の制度が必要です。昇給制度がない場合には、支給対象外となります。個別雇用契約書に昇給制度を記載していても、正社員賃金規程等の就業規則に記載がなければ支給対象外となります。
【解決策】
昇給規程を整備する。
第〇条(昇給)
- 昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年4月1日をもって行うものとする。
- 顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず昇給を行うことがある。
- 昇給額は、労働者の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。
常識の間違い3:対象労働者の正社員雇用契約書に試用期間6か月との記載があった。
【こんなことになる】
正社員雇用契約書に試用期間の記載があると、無期雇用から正社員とみなして、試用期間終了日(6か月後)で転換とみなし(正社員になった期間が遅くなり、3%アップ計算もやり直し)、無期 → 正規として、40万円(20万円、20万円)/ 1人支給となります。
【解決策】
(1)正社員雇用契約書には試用期間の定めを記載しないこと。
(2)正社員就業規則に試用期間の規定がある場合
① 有期契約社員からの正社員転換には、試用期間の規定を適用しない。と除外規定を明記すること。
②または、試用期間の規程そのものを削除すること。
常識の間違い4:有期契約社員就業規則を作成して、賞与無しとしていたが、その施行日(適用日)は正社員転換日であった。
【こんなことになる】
賃金の額または計算方法が「正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けていないため、支給対象外となります。
【解決策】
有期契約社員就業規則を作成(改定)して、その施行日(適用日)から6か月以上経過してから、正社員転換すること。
常識の間違い5:有期契約社員就業規則を作成して、有期契約社員の定義を記載したが、契約期間の定めに係る規定を記載しなかった。
【こんなことになる】
適用される雇用区分の就業規則等において契約期間の定めに係る規定がない場合は、転換前の雇用形態を無期雇用労働者として取り扱われます。結果として、無期雇用から正社員とみなして、無期 → 正規として、40万円(20万円、20万円)/1人支給となります。
【解決策】
「有期契約社員の雇用契約期間は1年とする。」または、「雇用契約期間は1年以内とし、個別に定める。」などの契約期間の定めに係る規定を定めること。
【正規雇用労働者に適用される就業規則、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者とは】
■正規雇用労働者の定義と対象となる労働者要件
同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されている労働者。ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る。
※賞与:原則として不支給の場合や、賞与を支給することが明瞭でない場合は、支給対象外となります。
なお、「賞与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある。」との記載だけをもって不支給となることはありません(補完的に支給実態等を確認することがあります。)。
※昇給:就業規則等に客観的な昇給基準等の規定がある場合には、賃金改定の規定(年1回賃金を見直す等)や降給の可能性のある規定であっても、支給対象となり得ます。
※賞与、昇給、退職金:社会通念上、正規雇用労働者の待遇として相当な制度である必要があります。キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)18ページ 上1行
※企業規模や職種、地域の賃金水準等を勘案した、通常の正規雇用労働者の労働条件として妥当な額。本助成金の賞与・退職金制度導入コースにおいては、非正規雇用労働者を対象とした処遇改善の基準として、6か月あたり5万円以上の賞与支給、1万8千円以上の退職金積立を要件としています。
キャリアアップ助成金Q&A(令和6年度版)2ページ 下13行
【正社員転換時に試用期間の定めがあった場合の取り扱い】
■正規雇用労働者の定義と対象となる労働者要件
※正社員化時に試用期間ありとして雇用契約書の交付を受けた者は、試用期間中は正社員化が完了したものとはみなさず、賃金上昇要件や支給申請期間等において、試用期間終了日の翌日に正社員化が完了したものと読み替える(ただし、以下の対象労働者要件においては、事業所における正社員化日を基準として、賃金の額又は計算方法が正規雇用労働者と異なる就業規則等の適用を受けていたことを確認する。)。キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)18ページ 上7行
試用期間は、転換前のキャリアアップの取組の際に、適正の見極めや訓練等を実施することができますので、正社員化後に設けることの無いようご留意ください(無期→正規と見做します)。
キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)18ページ上26行
【有期契約社員就業規則の適用期間は6か月以上必要となる】
対象となる労働者要件
賃金の額または計算方法が「正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けて雇用している有期または無期雇用労働者
・「正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等」が適用されている非正規雇用労働者の正社員転換が必要となります。(実態に差があったとしても規定の差が無い場合は対象となりません)
※基本給、賞与、退職金、各種手当等について、いずれか一つ以上で正規雇用労働者と異なる制度を明示的に定めていれば支給対象となり得ます(通勤手当を除く。)。キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)18ページ上27行
【有期契約社員就業規則では、契約期間の定めが必要】
・適用される雇用区分の就業規則等において契約期間の定めに係る規定がない場合は、転換前の雇用形態を無期雇用労働者として取り扱います。
キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)18ページ上2行
セミナー情報
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<第16回>助成金収益化実践塾秋
山上 幸一
やまがみ社会保険労務士事務所 社会保険労務士
教育訓練機関27年在籍の経験を活かし、教育訓練・人事制度の助成金申請を得意とする。
助成金申請とそれに関連する就業規則の作成が業務の90%を占める「助成金専門社労士」。
開業8年で、15都道府県・延べ1,200コース超(約14億円)の助成金申請実績を誇る。
保有資格は、社会保険労務士の他、職業訓練指導員、日商簿記1級、税理士簿記論、
宅地建物取引士、FPなど。平成28年度は、助成金388コース(約1.5億円)を対応した実績を持つ。