総則6項でまた国敗訴<気になる税務トピックVol.33>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.137(2025.3)に掲載されたものです。


白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

 非上場株式の相続税評価を巡る総則6項適用における東京地裁の判決は、純資産価額方式を適用する国の主張を認めず、純資産価額方式と類似業種比準方式との併用方式を適用すべきとする納税者の請求を認めた形だ。

 被相続人は、生前に36億円の現金を金銭出資し、さらに比準要素1を回避するための臨時配当を実施。この結果、相続人は評価通達に基づき小会社評価(併用方式)を選択し、株式の評価額を21億円として相続税を申告した。しかし、税務調査の結果、課税庁は総則6項を適用し純資産価額37億円として更正処分を行った。

 相続人側が申告した評価額は21億2,513万4,000円(1株あたり1,858円)であったのに対し、国側が主張した純資産価額評価は37億3,843万7,000円(1株あたり3,443円)。また、一連の対策を行わず現金で保有していた場合の価額は38億3,398万8,000円であるとされた。

 裁判所は、節税効果が約49.2%の軽減に留まっており、タワーマンション判決のように相続税負担がゼロになるような極端なケースではないとした。通達が併用方式を認めている以上これを是認すべきとした。

 明らかに租税回避事案と思われるが、仙台薬局事件(東京高裁令和6年8月28日)に続き国側は敗訴してしまった。国は控訴したとのことだが、こうした金融機関主導による節税提案は、近い将来予想される類似業種比準方式の見直しに大きな影響があるはずだ。

内縁関係の女性の口座に入金した2億円についての
贈与税決定処分を東京高裁が取り消す

 内縁関係の女性の口座に入金された2億円近い額について、女性と内縁関係にあったとされる男性が原資を出した部分について税務署は贈与税の決定処分を行った。これに対し、女性が婚姻費用分担義務の履行として受け取ったものだと主張し処分の取消しを求めたところ、東京高裁は令和6年12月12日、地裁の判決を変更し、納税者の主張を全面的に認めた。国側は上告しなかったため判決が確定しているとのことだ。

 内縁関係にも法律婚と同様に婚姻費用分担義務の規定(民法760条)が準用される。男性は50億円近い資産を有しており、賃借していた住居の月額賃料が135万円だった。一般的な婚姻費用分担額として非常に高額であるものの、男性は50億円近い資産を有していたことや、内縁女性は身体上の障害で日常生活を送るのが困難な状態が続いていたこと、住居の月額賃料が135万円で住居費も本件各金員に含まれることからすれば、入金の経緯に特段の不自然、不合理があるとはいえないとした。

 本件各金員の相当部分は預金口座を開設できなかった男性のために使用されたとある。口座を開設できないとはどのような人物だったのだろうか。税務署は租税回避を疑ったのだろうか。税務調査以外に資金源を解明する必要があったのだろう。いや、いずれも個人的な想像ではあるが色々と思いを巡らしてしまう事例だ。

白井 一馬

しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。

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