類似業種比準価額の見直しを会計検査院が指摘<気になる税務トピックVol.30>
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.134(2024.12)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
ここ数年、相続税の節税を目的とする非上場株式の評価圧縮手法が総則6項によって否定される事件が増えているが、これが通達改正に繋がるかもしれない。会計検査院は、令和6年11月6日に公表された決算検査報告の中で類似業種比準価額が低すぎると指摘した。
類似業種比準価額は、平成バブル崩壊に伴い株式市場が大きく低迷したときに、評価水準の引き下げが行われた。また、景気低迷期が続いたことから、相続税や贈与税の負担軽減を図るために見直しが行われた側面もある。また、中小企業の事業承継に対する配慮から評価を引き下げて負担軽減を認める政策的な通達改正も見られた。
その結果、中小企業では自社株を類似業種比準方式で評価できるように組織再編を実行する、資産を組み替えるなどの節税事例が少なくない。節税以外に実施の目的が説明できないような目に余る急激な評価引下げに対しては総則6項が発動し純資産評価等で評価されることも多い。現在の非上場株の対策はいずれも類似業種比準方式を使った節税だ。金融機関が積極的に提案して実行されることも多い。会計検査院の報告はこういった行き過ぎた節税を抑制する意図もあると思う。
たとえば兄弟会社を経営するオーナー株主であれば適格株式交換でこの2社を親子関係にしたら1社分の株式が個人財産からが(ほぼ)消える。適格株式交換で子会社株を受け入れた親会社が大会社だと、親会社の株式価値はほとんど増えないからだ。
上場企業オーナーだと、資産管理会社を作って上場株を現物出資する。要するにオーナーの個人財産を上場株から非上場株に入れ替える。この非上場株が類似業種比準方式で評価出来たら財産は激減する。旧トステム、キーエンス、HOYAなどの著名企業において総則6項が適用された事件は、手法は異なっても基本的な評価引下げの仕組みは同じだ。
さらには、オーナーが多額の借入で自社株を購入する。この時の購入代金の評価は法人税や所得税の通達を使って純資産評価に基づいて評価する。そしてオーナーの相続時は類似業種比準方式で評価できれば個人財産は大きく圧縮される。要するにタワマン節税と同じことが出来るわけだが、非上場株だと不動産とは金額の桁が違う。数百億円の資産圧縮効果もあり得る。
すでに類似業種比準方式が安いことを悪用した節税を提案・実行している専門家にとっては評価を引き上げる通達改正があったら納税者への説明に追われることになろう。
もちろん、節税を規制するだけではない。令和4年最高裁判決をきっかけに区分所有マンションの評価が見直されたが、時価と相続評価の乖離が大きなタワーマンションだけでなく、すべての区分所有マンションの評価が上がり相続増税となったように、中小企業経営者の相続税を増税することを目的とした改正になる。
大きく評価が引き上げられるようだと、駆け込みの対策が実行されるだろう。事業承継税制などの特例の存在価値が増すことにもなろう。評価引き上げの改正は節税の価値を増すことになり、失敗した時のリスクも増すことになる。
白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。