貸付金債権の評価は額面で<気になる税務トピックVol.23>
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.127(2024.5)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
主たる事業として収益事業を営んでいるとの認定で共益型と認められず
会員制遊技施設を主たる事業として運営している一般社団法人が、非営利型法人に該当し収益事業を行っていないとの理由で更正の請求をしたところ、そもそも非営利型法人には該当しないと認定された事例(令和5年1月20日付、非公開裁決)が税のしるべ令和6年3月25日号に掲載されている。
法人税法上の非営利型法人には非営利徹底型(プチ慈善型や将来の公益社団法人)と、共益型(学術団体や紳士クラブ型)があるが、今回は後者に関する事例。これに該当するためには、主たる事業として収益事業を営んではならないとの要件がある(法令3②三)。主たる事業はあくまで共益事業であって、その事業の資金に充てるため収益事業を営むのが本来の共益型のあり方だ。儲けることが目的の法人はダメよ、という当然の要件。
この一般社団法人が行う会員制の遊技施設運営は席貸業に該当するが、不特定多数の娯楽等に供する席貸業に該当せず、実費を超えない程度の対価しか徴収していないから収益事業に該当しないと一般社団法人が主張したのに対し、遊技施設を利用者に本来の用途に従い利用させる遊技所業として収益事業に該当すると審判所は判断。
しかもそれが主たる事業に該当するので非営利型法人にそもそも該当しないと認定された。つまり全所得課税の一般社団法人としてすべての所得を申告する必要があることになる。
貸付金債権の評価は額面で
被相続人から相続した同族会社に対する貸付金については額面評価が実務であり、同族会社が仮に債務超過であっても減額を認める判例や裁決はほとんどない。同様の結論の判例が税のしるべ令和6年4月15日号で紹介されている(東京地裁3月26日)。
約5億円の貸付金を約2億6千万円と評価した納税者の処理は否定され、額面での評価と判断された。同族会社は債務超過だったが、借入金の93.6%は同族関係者からのものであり、役員報酬は支払われていた。回収可能性を見積もっての貸付金の評価が技術的に難しいことや、課税庁とすれば相続財産を圧縮する目的で同族会社に貸し付けるという節税を許さないという立場もあるだろう。
協同組合を株式会社化しても青色欠損金は引き継ぐことができる
適格合併で青色欠損金を引き継ぐには、2社の間に5年超継続して50%超の支配関係があることが必要。では協同組合が株式会社に組織変更してから、50%超を出資してきた組合員である株式会社を消滅会社として合併する場合はどうか。
支配関係の継続が認められ消滅会社の青色欠損金の引継ぎは可能になる。福岡国税局の文書回答事例だ。なお、登記上は共同組合の解散と株式会社の設立が行われ出資は株式へと変わるが、これは登記の技術的なものであり税務の判断には影響しない。
白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。