良いインフレと悪いインフレ…日本と米国のインフレの違い(小宮一慶先生 経営コラムVol.63)

株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶 先生

2023/3/2
本コラムでは『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。

日本でも消費者物価の上昇が続いています。昨年末にとうとう前年比で4%となりました。

物価上昇は国民生活にとって大きな問題ですが、日本は別の面で大きな問題を抱えています。このことは、米国と比較すると鮮明です。

まず米国の状況から見ていきましょう。米国の消費者物価上昇率は、昨年6月に9.1%でピークでした。そこから徐々にですが低下しています。12月は6.5%です。

一方、企業の仕入れを表す卸売物価は昨年前半には11%台にまで上昇しましたが、12月で6.2%にまで低下しました。企業は仕入れの上昇分を最終消費財に転嫁できていると言えます。

それがなぜ可能かと言えば、雇用の調子が良く、給与もそれに応じてかなり順調に上昇しているからです。ですから、企業は仕入れ価格の上昇分を「遠慮なく」最終消費財に転嫁していると言えるのです。

もちろん、コロナバブルが終わった住宅やITなどの業種は縮小傾向で、米国景気全体はピークをつけた感がありますが、それでも景気は今のところある程度底堅く推移しています。

インフレ率は中央銀行の目標の2%からはかなり乖離していますが、資源などの価格上昇による「コストプッシュ」インフレというよりは、給与上昇による要因がとって代わり、悪いインフレから良いインフレに変わりつつあります。

一方、日本の消費者物価は4%の上昇ですが、企業の仕入れを表す企業物価は12月では10.2%の上昇です。日本では、米国と違い、企業の仕入れ分の増加をいまだに全額は最終消費財に転嫁できていないのです。

そういうと、過去最高益を出している企業が多くあるという反論を受けそうですが、それらの多くはグローバル企業です。日本国内では企業は儲かっていないのです。とくに中小企業の多くは仕入れ価格上昇を価格転嫁できずに苦しんでいます。

一方、給与の上昇率を見ると、昨年4月以降は消費者物価上昇率が上回っています。つまり実質賃金はマイナスが続いているのです。この状況では、日本のGDPの55%程度を支える家計の支出の増加は見込めません。

このような状況で、仕入れ価格上昇に耐えられなくなっている企業が、価格を上げており、しばらくは物価上昇が続きそうです。それも「恐る恐る」上げている状況です。そして、日本で起こっているのは、「コストプッシュ」の悪いインフレです。今後の賃上げやインバウンドが日本経済の追い風とはなりますが、日本全体では景気の十分な拡大はなかなか望めないと考えます。

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