アーンアウト条項の解釈<元国税調査官の告白 税務調査㊙ノートVol.21>
元国税調査官 税理士
松嶋 洋
2021/11/5
元国税調査官であり、現在は税務調査に特化したコンサルタントとして活躍する松嶋洋先生が、調査の論点となりやすい税法上の論点、税務調査への効果的な対応等について、法律、実務の両面から解説します。※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.96(2021.10)に掲載されたものです。
アーンアウト条項の解釈
近年、税務上大きな疑義がある項目の一つに、M&Aのアーンアウト条項があります。アーンアウト条項とは、M&Aがクロージングした後、特定の目標を達成すれば追加で買収金額を支払うという条項をいいます。この追加で払う金額が、M&Aの株の譲渡対価の一部として、株の譲渡所得になるか否かが問題になります。この点、国税の内規では、雑所得になると判断されています。
資産課税課情報 「株式譲渡益課税のあらまし Q&A」の送付について(情報)
平成31年1月30日 国税庁課税部資産課税課
【情報公開法第9条第1項による開示情報】(TAINS 資産課税課情報H310130-003)
各アーンアウト対価~については、原則、それぞれの対価の支払が確定した年分の雑所得~所得税はいわゆる権利確定主義を採用していることからすると、株式譲渡契約に係るアーンアウト対価については、一定の条件~が成就したとき~に支払われる~こととされており、クロージング時においてその支払が確定したということはできず、株式等の譲渡による譲渡所得等には該当しない~株式譲渡契約に係るアーンアウト対価は、譲渡所得には該当しないものの、株式の譲渡と密接に関連するモノであって、それがされた事情緒に照らし偶発的に生じた利益とは言えないものであることから、「資産の譲渡の対価としての性質」を有するものとして、各アーンアウト対価の支払が具体的に確定した年分の雑所得として課税~
上記の見解は、以下の判決を前提としています。
大阪高裁平成28年10月6日判決(Z266-12913)
原判決認定の資産の譲渡所得に対する課税の趣旨や所得税法上の資産の取得費等の控除の仕組みなどからすれば、ある所得が譲渡所得に該当するためには、その所得が譲渡に基因して譲渡の機会に生じたものであることを要するというべきであり、資産の譲渡の対価であれば譲渡所得に該当すると解すべきであるとはいえない。そして、本件各金員が本件持分の譲渡に基因して譲渡の機会に生じたものということができないことは、原判決が認定説示するとおりである。
すなわち、「その所得が譲渡に基因して譲渡の機会に生じたものであることを要する」という条件が譲渡所得にはあるとしており、アーンアウト条項のように、後日金額が確定するものは、これには当たらないとしているのです。
しかしながら、アーンアウト条項の対価が、株の譲渡の対価であることは誰しも異論がないはずで、本来これは譲渡所得とすべきでしょう。実際のところ、以下の裁決例もあります。
平成29年2月2日裁決(F0-1-768)
~過去の未達分が埋め合わせられるものとされていたことに加え、請求人乙と同時にA社株式を譲渡したものに係る譲渡契約には、調整条項のような条項はなく、代金全額が一括で支払われるものとされていたこととの均衡も考慮すれば、本件調整条項は、基本的には、計画値がいずれの事業年度においても達成され、調整金額が満額支払われることを想定して設けられたものとみるのが相当~A社株式の引渡しがあった実行日に、譲渡に係る収入金額たる譲渡代金の全額が確定的に発生~譲渡代金の全額であると認められる。
本事例は、「調整金額が満額支払われることを想定」しているため、アーンアウト条項の調整金額は譲渡所得になるのであり、それ以外は雑所得であると批判的な見解があります。しかし、あくまでも私見ですが、未払残業代は後日支払を受ける権利が確定したとしても、遡ってその残業を行った年分について修正申告を行いますので、これと同様の取扱いとするのが常識的な解釈と考えます。
いずれにせよ、国税の内規で「雑所得」とされていますので、それ以外の所得で申告する際は、そのリスクに注意する必要があります。