倒産防止共済の税務リスク<元国税調査官の告白 税務調査㊙ノートVol.23>
元国税調査官 税理士
松嶋 洋
2022/1/7
元国税調査官であり、現在は税務調査に特化したコンサルタントとして活躍する松嶋洋先生が、調査の論点となりやすい税法上の論点、税務調査への効果的な対応等について、法律、実務の両面から解説します。 ※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.98(2021.12)に掲載されたものです。
倒産防止共済の税務リスク
倒産防止共済は、所得税や法人税において有効な節税になりますが、これに関し、個人事業主について必要書類の添付もれが多数あることについて、会計検査院より指摘がなされたというニュースが報道されました。従来、所得税については必要書類について国税で用意した様式がなかったこともあり、結果として添付していないケースが多かったと言われています。
個人はもちろんですが、法人についても以下の通り明細書の添付要件がありますので、添付がなければ原則として損金算入は認められません。倒産防止共済に係る明細(別表十(七))の添付もれについては、かつては「現時点では添付漏れがあった場合でも、その後提出したにもかかわらず損金算入額が否認されたという話はあまり聞かない。」(「東京地方税理士会税務相談事例Q&A0106 法人税 倒産防止共済掛金の損金算入について」(TAINS 法人事例東地会020106))といった指摘もありましたが、数年前から税務調査で厳しくなったという印象があります。しかし、今回この指摘が出たことで、ますます厳しくなると考えられます。
租税特別措置法66条の11(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例) 2項
前項の規定(注:倒産防止共済掛金の損金算入の規定)は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。
なお、所得税に関してもそうですが、万一必要となる明細書等の添付を忘れてしまった場合には、後日提出等することなくそのままにしておくしかないでしょう。流石にリカバリーは利きませんので、税務調査がないまま除斥期間が経過するか、もしくは国税調査官の知識不足により税務調査に来られても指摘を受けないか、それを祈るしかないと言えます。
とりわけ、倒産防止共済は資産計上して別表4で減算処理する場合は別にして、全額費用処理していれば、申告書を見ただけでは分かりません。このため、倒産防止共済の掛金については、最低限損益計算書で費用処理しておいた方が望ましいと思われます。
ところで、倒産防止共済の損金算入は租税特別措置法で認められているものですから、所定の事項が記載された適用額明細書についても提出する必要があります。この適用額明細書の提出及び記載についても、損金算入の要件になっていますが、以下の通り原則として後日提出が可能ですので、早急に是正すれば問題ないと考えられます。
租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律3条(適用額明細書の提出義務)
2 ~適用額明細書を添付せず、又は虚偽の記載をした適用額明細書を添付して法人税申告書を提出した法人については、当該法人税申告書に係る事業年度又は連結事業年度において適用を受けようとする法人税関係特別措置の適用は、ないものとする。
3 税務署長は、第一項の規定による適用額明細書の添付がない法人税申告書又は同項の規定による適用額明細書の記載に虚偽がある法人税申告書の提出があった場合においても、誤りのない適用額明細書の提出があったときは、当該適用額明細書に係る法人税関係特別措置を適用することができる。ただし、故意に、適用額明細書を添付せず、又は虚偽の記載をした適用額明細書を添付して法人税申告書を提出したと認められる場合は、この限りでない。