不動産所得の過年度修正<元国税調査官の告白 税務調査㊙ノートVol.24>

元国税調査官 税理士
松嶋 洋

2022/2/4

元国税調査官であり、現在は税務調査に特化したコンサルタントとして活躍する松嶋洋先生が、調査の論点となりやすい税法上の論点、税務調査への効果的な対応等について、法律、実務の両面から解説します。 
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.99(2022.1)に掲載されたものです。

不動産所得の過年度修正


個人の大家が不動産の管理料を誤って過去管理会社に過大に支払っており、その是正を行ったような場合、その税務上の取扱いについて、遡及修正するか否か、その処理が問題になります。法人税の取扱いは、現時点で全額修正を行うべきと解されます。

最高裁平成4年10月29日判決(Z193-7013)
過大支払の電気料金等を電力会社から返還を受けた場合につき、右返還請求権は、計器用変成器の設定誤りが発見されたという新たな事実の発生を受けて、電力会社と上告人会社との間において、返還すべき金額について合意が成立したことによつて確定したとみるのが相当であるとして、同日の属する事業年度の益金に算入すべき~

実際のところ、法人税の場合、収益は権利確定、費用は債務確定という考え方に基づき、以下の通達の通り遡及修正が制限されることがあります。

法人税基本通達2-2-16(前期損益修正)
当該事業年度前の各事業年度~においてその収益の額を益金の額に算入した資産の販売又は譲渡、役務の提供その他の取引について当該事業年度において契約の解除又は取消し、返品等の事実が生じた場合でも、これらの事実に基づいて生じた損失の額は、当該事業年度の損金の額に算入するのであるから留意する。

ただし、単なる請求もれ、会計処理の誤りは、遡及修正する必要があるでしょう。

東京地裁平成27年9月25日判決(Z265-12725)
法人税法上、修正申告や更正の制度があり、後に修正すべきことが発覚した場合、過去の事業年度に遡って修正することが予定されているのであって、企業会計上固有の問題に基づき行われているにすぎない前期損益修正の処理を、それが企業会計上広く行われているという理由だけで採用することはできないというべきである。そうすると、単なる計上漏れのように、本来の事業年度で計上すべきであった損益を、後の事業年度において、前期損益修正として計上するような処理を公正処理基準に該当するものとして認めることはできないといわざるを得ない。

しかし、所得税は取扱いが異なります。所得税には「事業」と「業務」という二つの概念があるからです。例えば、不動産所得については、事業的規模と業務的規模があります。「業務」的規模については遡及修正になる反面、「事業」的規模の場合、一括で収益計上するのが妥当と考えられます。この点、以下の更正の請求事由に係る規定で明らかと考えられます。

所得税法施行令274条(更正の請求の特例の対象となる事実)
法第152条(各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例)に規定する政令で定める事実は、次に掲げる事実とする。
一 確定申告書を提出し、又は決定を受けた居住者の当該申告書又は決定に係る年分の各種所得の金額(事業所得の金額並びに事業から生じた不動産所得の金額及び山林所得の金額を除く。次号において同じ。)の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたこと~

ここでいう所得税法152条は、遡及修正する場合の更正の請求について定めたものですが、この対象から上記の1号で、「事業所得の金額並びに事業から生じた不動産所得の金額及び山林所得の金額」が除かれています。「事業」については原則遡及修正しないためこのような取扱いとなっていると解されます。

即ち、事業的規模であれば過年分の全額を修正し、業務的規模であれば除斥期間により5年分の修正になると考えられます。「事業」と「業務」で課税所得が異なるため注意が必要です。

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