会計事務所は『一般企業化』をどう加速すべきか Vol.4
《テーマ3》一般企業化を加速させる新規事業について

特別対談 会計事務所は『一般企業化』をどう加速すべきか

(写真左から)
グロースリンク税理士法人 代表社員・税理士 鶴田 幸久
税理士法人アーリークロス 代表社員・税理士 小西 慎太郎
株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広
税理士法人SS総合会計 代表社員・税理士 鈴木 宏典
御堂筋税理士法人 代表社員・税理士 才木 正之

会計事務所の中心である税務・会計のビジネスを拡大するには、どうしても“人の手”が欠かせない。すなわち人材確保が極めて大切だが、いま起きている人材難は、深刻化することはあれども改善は見込めない状況だ。そのため、会計事務所が税務・会計に依存してばかりでは、その経営はいずれ尻すぼみになることは明らか。こうした時代の流れに対抗するため、いま成長している多くの事務所では「一般企業化」を進め、「新規事業」の立ち上げや、組織の体制構築を進めている。そこで今回、御堂筋税理士法人(大阪府大阪市)の才木正之先生、税理士法人SS総合会計(静岡県浜松市)の鈴木宏典先生、グロースリンク税理士法人(愛知県名古屋市)の鶴田幸久先生、税理士法人アーリークロス(福岡県福岡市)の小西慎太郎先生に、「伸びる事務所の勝利の方程式」「会計事務所の一般企業化」をテーマに、大いに語っていただいた。
【ファシリテーター:株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広】

吉岡:さて、税理士法人グループは税務・会計が軸であることは間違いないのですが、この事業を拡大するには単純に人数が必要です。いま直面している人材難は、深刻化することはあれども改善は見込めない状況ですから、税務・会計に依存してばかりでは、いずれ尻すぼみになることは明らかです。
すなわち、会計事務所も今後は新規事業を立ち上げていくことが必須になると考えられます。そこでお伺いしたいのですが、皆さまが今後チャレンジしてみたい、もしくはすでにチャレンジしようとしている新規事業はございますか?
才木:我々はこの数年間、M&Aの専任を置いて積極的に展開し、非常に好調です。ここから派生してプリンシパル投資、すなわち「企業に直接出資し、経営に参画をする」ということに取り組んでみたいと考えています。

吉岡:才木先生や御堂筋の専門家が、プロ経営者として中に入り込むということですね。
才木:その通りです。例えば、保有する遊休資産の価値に気づかれていない中小企業がたくさんありますよね。そこで、特に不動産を持つ会社に出資し、内部に入り込んでその有効活用を進めるなど、さまざまな角度からアプローチができるのではないかと思います。今後、ますますM&Aが活発になるのは確実ですが、会計事務所の場合、M&A専門ブティックと違って、譲渡後に売り手、買い手に対して幅広い支援ができます。そのひとつのアプローチとしてプリンシパル投資に注目しています。

鈴木:正直に言うと、才木先生のような格好良いビジネスプランはありません。会計事務所としてこれまで取り組めなかった領域、例えば相続税申告や対策、相続手続き、M&Aなどのような事業に取り組んで行きたいと考えています。私はこれまで「地道に人を育てる」ことにこだわってきたのですが、それに固執したことが新しい事業にチャレンジできなかった理由だと最近気づきました。ですから、今後は「相続の専門家を招き入れて相続部隊を作る」ところから始めて、それを徐々に事業化していく予定です。所内に相続部隊がないのに、相続ができる人材が育つはずがありません。まずは組織を作って、その中で人を育てるという発想を組織全体に定着させていきます。

鶴田:コロナ禍になった時、業種をチェンジしたり、本業だけでなく、その時できることに取り組んで生き延びた会社がたくさんありました。このような柔軟さは経営において極めて大切ですし、会計事務所とそれ以外の一般企業の大きな違いと言っても良いでしょう。我々には税務という絶対的な仕事があるので、大前提として、そこからピボットする発想は起こりにくいと思いますし、税務という軸からずらす必要もないと思っています。ただ、商品やマーケットを変えるという発想はとても大切です。この意味で、私はM&A事業に大きな意義があると思います。M&Aを支援すると、通常とは異なる税務の仕事が発生しますし、たくさんの業種の企業と関与することができます。また、マッチング先を探す際には「この会社とこの会社が一緒になると、こんなシナジーがあるな」という風に、ビジネス感覚を養うことにもつながるのですね。

それから、私は以前から顧問先同士のトップ面談をセッティングする機会が多かったのですが、M&Aに関わるようになり、そのような機会が圧倒的に増加しました。これによって何が起こるかというと、我々が事業会社をM&Aする機会も増えるだろうということです。実際、弊所は不動産会社をM&Aで取得したことがあります。会計事務所の一般企業化を「会計事務所というドメインから離れる柔軟性を持つ」と定義するなら、私はM&Aに携わることは、一般企業化をする上で大事なことだと考えており、いまこの事業にかなり力を入れて取り組んでいます。

小西:会計事務所は、顧客の継続率が非常に高いビジネスです。要は、毎月お金をいただけるストックのお客様が数百、数千といらっしゃるのです。にもかかわらず生産性は低い。これこそが私たち自身の最大の問題だと思っています。そこで私たちは、既存顧客へのクロスセルに注力をしています。メニューとしては「相続関係」「事業承継」「M&A」「経理DX」「労務」「不動産」「人材」です。特に人材に関しては、今後、ますます人手不足が深刻化し、そこに巨大なビジネスチャンスが生じることは明らかですから、もうすでに動き始めています。
それから、我々はDXを軸にした業務改善など先進的な取り組みをしてきたのですが、現状、そうしたノウハウをお客様に還元しきれていないと感じています。ですから、社内に蓄積したノウハウを「コンサルティング」という形で、お客様や、地元福岡の企業にもっとお返ししていきたいと思っています。あとは、以前にM&AでグループジョインしたWEB系の会社があるので、WEBの制作やマーケティングといった領域から関連業種を拡大していきたいと考えています。

吉岡:ありがとうございます。会計事務所の新規ビジネスに対する考え方はとても参考になります。
では、最後になりますが、改めて会計業界、会計事務所として残すべきこと、守るべきものを教えてください。
小西:プロフェッショナリズムです。我々は税務の専門家ですから、当たり前ですがお客様より詳しいですよね。つまり、嘘をつこうと思えば嘘をつくことができる。

世の中のあらゆる業種がそうだと思いますが、嘘をつくことで儲けることはできてしまうのです。でも、それをやってしまうと、いずれは我々にとって最も重要なお客様との信頼関係を失うことになるので、どんな事業をするにせよ、プロフェッショナリズムだけは失ってはいけないと思います。
鶴田:小西先生と似ていますが、税理士は国家資格に基づく仕事なので、コンプライアンス意識を常に高く持ち続けなければなりません。特に一般企業化すると、有資格者ではない社員が必然的に多くなるので、これまで会計事務所が当たり前に持っていた“モラル”が薄まる可能性があります。コンプライアンスは、会社を大きくすることとセットである必要があります。
鈴木:私も皆さんと一緒ですね。最近は、税務に関しても「経営が上手くいくなら、確立されたビジネスモデルを回すだけで良い」という風潮があるように感じます。税務の細部にこだわったり、難しいコンサルにチャレンジすることに対して「一生懸命やるのが馬鹿を見る」ような傾向がありますよね。私は最近、海外の企業を視察する機会が多いのですが、そこで感じるのは「日本人は愚直に頑張ることが得意だし、そうすることで海外勢に勝てるな」ということです。中長期的に見て、やはり“質”が競争優位になると思うので、これをしっかりと追求したいですね。
才木:本当に皆さんと考えることが一緒でホッとします。私も同じです。弊所のクレドには「リーガルマインド」「プロフェッショナリズム」とあるのですが、税理士はリーガルマインド、つまり法律の背景を読んで正しい行いをすべきであることがひとつ。それから「プロフェッショナリズム」は、小西先生、鈴木先生がお話しされたことと一緒です。会計事務所というのは、ビジネスをする上で最強のプラットフォームです。お客様が士学顧問として契約する中で、会計事務所がお客様に最も近い存在なのですから。我々はそのような存在だからこそ、きちんとお役に立たなければなりません。弊所は金融機関出身のメンバーが全所員の20%を超えてきており、いわゆる一般的な会計事務所とは異なる人材構成ですが、ベースにあるのは「お客様のお役に立つ」という考え方。まさにサービス業そのものですから、しっかりと「顧客に選ばれる会社」になることが最も大切だと思います。

吉岡:最近では「ビジネスの主体として、会計事務所ほど優れたものはない」とすら感じるほどです。それだけ会計事務所のビジネスは、他のあらゆるビジネスと非常に親和性が高い。
ただ、その親和性の高さは、我々が“プロフェッショナル”であることに起因しています。だからこそ、お客様との信頼関係を失うような行為は慎まなければなりませんし、お客様にとっての“見本”であることも非常に大切だと思います。

本日は、長い時間にわたり、たくさんのお話を聞かせていただき誠にありがとうございました。
今回の対談が、会計事務所の未来のあり方、これからのビジネスについて考える機会になると嬉しく思います。

将来的に、会計事務所の経営スタイルは、①記帳処理や経理代行で稼ぐ作業中心型、②M&Aや事業承継、経営コンサルで稼ぐ経営支援型、③その2つを合わせたハイブリッド型の3つに集約されると考えられる。それぞれに異なるメリットがある。
ただ、どの形態であっても、業界を牽引する稼げる事務所へと脱皮するには、既存の会計業務以外の周辺業務にも積極的にチャレンジする必要があるだろう。守備範囲を広げて事務所の規模を拡大し、売り上げを伸ばす。あわせて内部の組織体制も整えて、優秀な人材が最大限に能力を発揮できるような「活躍の場」をつくる。それこそが「一般企業化」なのではないだろうか。顧客のすべてを知り得る、ビジネス上の最大のパートナーである会計事務所こそ、最も一般企業化にふさわしい業態かもしれない。プロフェッショナルとしてのマインドは維持したままで、業務内容の幅と深度を進化させる。この流れが本格化することが、これからの会計業界の発展に必ずつながるはずだ。
吉岡 高広

プロフィール
さいき・まさゆき

「クライアントの真の社外取締役でありたい。」大阪府立大学卒業後、税理士小笠原士郎事務所(現御堂筋税理士法人)に入社、10年間は税務業務、財務コンサルティング業務を中心、その後は、税務業務全般と企業組織変革、営業チームマネジメントコンサルタントとして業務を遂行。またセミナー講師としても三菱東京UFJリサーチ、大阪商工会議所等に登壇。現在は、御堂筋税理士法人代表社員(CEO)として、組織のマネジメント業務も行っている。

すずき・ひろのり

同志社大学法学部・法学研究科卒。税務、財務コンサルティングに加え、コーチング・経営計画・経営会議を通じたマネジメントアドバイザリーサービス(MAS)を得意とする。SS総合会計グループの二代目経営者として、70人を超える社員・パートスタッフとともに500社を超える中小企業の顧問をしている。近時では、地元向けセミナーイベントSSフェスタで200人を超える集客に成功。顧問先に対して、日々経営指導に励んでいる。若手経営者向け経営塾「経営輝塾」を37期まで開催。また中小企業のみならず、同業者である税理士のビジョンも叶えるべく、東京・大阪・名古屋・福岡など日本各地でセミナーを行い、MAS事業化・人材育成等会計事務所の仕組化を全国に広げている。これらを通じてSS総合会計グループのブランディング活動を積極的に行っている。著書に『デキる二代目社長は知っている事業承継5つの鉄則』がある。

つるた・ゆきひさ

1975年、愛知県岡崎市生まれ。岡崎高校、名古屋市立大学卒。税理士、中小企業診断士、M&Aアドバイザー、医療経営コンサルタント。2006年に独立開業し、2012年に税理士法人鶴田会計を設立。2020年4月に社名をグロースリンク税理士法人に変更し、同5月に名古屋の新たなランドマークとして注目を集めるグローバルゲートへ移転。

こにし・しんたろう

慶應義塾大学 経済学部在学中に公認会計士試験に合格。卒業後はあらた監査法人(現:PwC Japan有限責任監査法人)で監査業務に従事。その後2012年に独立し、小西公認会計士事務所を開業。2018年に税理士法人アーリークロスを設立し、代表社員に就任。従業員数20名規模から160名を超える規模へと組織を拡大させる。会計事務所博覧会2022特別セミナー『若き税理士 プロ経営者としての「思考と展開」 驚異的な成長を遂げる事務所は“何か”が違う』への登壇をはじめ、講演・メディア掲載実績多数。

  

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