会計事務所は『一般企業化』をどう加速すべきか Vol.3
《テーマ2》一般企業化するにあたっての組織運営について

特別対談 会計事務所は『一般企業化』をどう加速すべきか

(写真左から)
グロースリンク税理士法人 代表社員・税理士 鶴田 幸久
税理士法人アーリークロス 代表社員・税理士 小西 慎太郎
株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広
税理士法人SS総合会計 代表社員・税理士 鈴木 宏典
御堂筋税理士法人 代表社員・税理士 才木 正之

会計事務所の中心である税務・会計のビジネスを拡大するには、どうしても“人の手”が欠かせない。すなわち人材確保が極めて大切だが、いま起きている人材難は、深刻化することはあれども改善は見込めない状況だ。そのため、会計事務所が税務・会計に依存してばかりでは、その経営はいずれ尻すぼみになることは明らか。こうした時代の流れに対抗するため、いま成長している多くの事務所では「一般企業化」を進め、「新規事業」の立ち上げや、組織の体制構築を進めている。そこで今回、御堂筋税理士法人(大阪府大阪市)の才木正之先生、税理士法人SS総合会計(静岡県浜松市)の鈴木宏典先生、グロースリンク税理士法人(愛知県名古屋市)の鶴田幸久先生、税理士法人アーリークロス(福岡県福岡市)の小西慎太郎先生に、「伸びる事務所の勝利の方程式」「会計事務所の一般企業化」をテーマに、大いに語っていただいた。
【ファシリテーター:株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広】

吉岡:ここからは、本日のメインテーマである「会計事務所の一般企業化」について先生方と考えていきたいと思います。
そこで、まずは「一般企業化」とはどのようなものなのか。そして、会計事務所が一般企業化を進めるためのポイントはどこにあるのか。ぜひ語っていただきたいと思います。
才木:私たち士業は、お客様から「先生、先生」と呼ばれるので、中には勘違いを起こしてしまう人もいますが、一般企業化を目指すならば「お客様とはあくまで対等であるべき」というのが私の考えです。最近は「会計事務所はサービス業」という考え方もだいぶ広まってきましたが、弊所でも「お客様と目線を合わせる」ことはとても大切にしています。私の反省も込めてお話ししますが、顧問先の社長様が「先生今忙しいでしょ、また今度でいいよ」と気を使ってくださるシーンが結構ありますよね。こういうことがある時点で、もはやフェアではありません。サービス業としての立ち位置をしっかりと考え直すことが重要だと考えています。
鈴木:税理士だから「税務と監査をします」ではなく、それを超えて、さまざまな経営課題の解決を支援することが重要だと考えています。そうすることでDXや事業承継、M&A、信託、MASもそうですが、たくさんのビジネスチャンスが生まれてきますよね。それから、中小企業の経営をサポートしていると、時に自分達だけでは解決できない課題にぶつかることもあります。そのような時に「できない」と言うのではなく、専門家や業者の方と提携することで解決の道筋を付けていくことが、税理士業を超えて一般企業化していくためのスタンダードな方法だと考えており、弊所ではそれを実践しています。


鶴田:私が思う一般企業化とは、規模を大きくしていくことです。弊所が10人だった時、所員に十分な給与を払ってあげることができませんでした。でも、規模が大きくなった現在は、少なくとも10人だった頃より多く払うことができています。会計業界は、独立すれば勤務時代よりお金を稼ぐことができます。でも、自分の事務所で働く所員に自分と同じような高給を払えるかといえば、そこには大きな壁がありますよね。小さな事務所が乱立している状態では、業界の給与相場は絶対に上がりません。業界全体の待遇を改善していくためにも、大きな組織で運営する事務所をエリア内に1つと言わず、2つ、3つと増やしていく必要があると思います。
そこで問題になるのが「資格」です。資格がなくても優秀な人材はたくさんいるのですが、一方で資格がないとできない仕事が多数存在しており、それが一般企業化の大きな壁になっているのではないでしょうか。「税理士ではないけれど優秀な人」が活躍できるフィールドが増えれば、業界の給与相場は必ず上がっていくと思います。
小西:鶴田先生と同じく、私も小さな事務所が乱立している状態は好ましくないと考えています。「こうやった方が効率が良く、採算性も高い」という、いわゆる会計事務所のベストプラクティスは絶対にあると思うのですが、現状は所長先生のお考えなどによって百者百様の経営スタイルがあります。業務の進め方についても、色々なパターンや流派が生まれてしまっている。そうした前例に乗っかるのではなく、本当に効率的かつミスが起きない仕組みをしっかり作っていくことが一般企業化だと思います。
それから教育ですね。いまだに「所長先生の背中を見て覚えろ」「本を読んでどうにかしろ」という部分が残っている業界なので、これは変えていく必要があります。まさに一般企業のように、新卒採用で採って、育成して、ノウハウを教えて、きちんと効率的なやり方をみんなが学習して、高い生産性で運営する。そのような状態を目指していくべきだと思います。

吉岡:たくさんの事務所を取材させていただいていますが、コロナ禍以降、「働く人に選ばれる」という、一般企業が当然備えている考え方が実践できる事務所は伸びている印象があります。
そして「働く人に選ばれる」ためには投資が必要なのですが、業界全体の課題として、この投資に対する意識が弱い気がします。

才木:そうですね。私はビズアップ総研さんのセミナー講師として10年以上、受講者の先生方と関わってきましたが、彼らの悩みを聞いていると、まさに投資の意識が薄い気がします。「何かやりたいけれど、原資がありません」と言ってなかなか投資に回すことができない。「卵が先か、鶏が先か」という話になってしまいますが、やはり投資をする意思がなければ、一般企業化はできないと思います。


吉岡:投資の話にも関連しますが、業務の「兼任」も悪しき文化かもしれませんね。
税務の担当者に採用や広報まで兼務させている事務所は珍しくありませんが、“兼任しまくり”の状態では、やりたいことは何ひとつできないと思います。業務を分けることも一般企業化の条件ではないでしょうか。
鈴木:当たり前のように一般企業がやっていることですね。
鶴田:一般企業化のファーストステップは新卒採用だと思います。私自身、会計事務所の勤務経験しかないので一般企業がどんなものなのか知らないのですが、新卒採用に取り組むのなら、一般企業と比較されても大丈夫なよう環境を整えることが絶対条件になります。新卒採用を始めると「一般企業と比べられる」という意識が生まれるので、自然と「残業代を払わないと」「勤務時間を何とかしないと」となるのですよね。

吉岡:同業ばかりで比較していると、なかなか気づけないことがありますね。
鶴田:そこに気づいたとしても、すぐに全部をやり切れるわけではありません。でも、根気強く改善を続けていると、自分の事務所や業界のことを俯瞰的に見ることができるようになると思います。

吉岡:一般企業化を推進していく重要ポイントとして、鶴田先生から「業法の問題が足枷になっている」というご意見を事前にいただいています。これについて詳しく教えてください
鶴田:税理士法人では、社員税理士は無限連帯責任を負い、出資持分は純資産価額方式で評価されます。本来、一般企業であれば純資産を手厚くすることは「会社を強くする」ことですが、税理士法人が同じことをすると、結果的に私たちの事業承継対策上、非常に不利になります。ですから、税理士法人の内部留保をためていくのか、関連会社に流していくのか、常にそういう葛藤があります。しかし、ビジネスを拡大する上で、例えば融資を受けるシーンを想定すると、銀行は税理士法人の決算書で会社を評価します。あるいはM&Aをはじめ何かに投資をする場合も、税理士法人の決算書だけを見れば決して“良くは見えない”ので、非常にジレンマを感じています。税理士法人という枠組みの使い勝手が悪いと感じるポイントのひとつですね。

それから、ご承知の通り、我々が拠点を出すときは、必ずそこに社員税理士を置かなければなりません。私もどんどん拠点を出していきたいのですが、結局、有資格者を拠点に置かないといけないという制約があるのです。しかも、社員税理士でなければならない。この問題があるせいで、我々は事業拡大がしづらいという問題があります。
小西:残念ながら、そのような問題意識を持っている税理士先生は少ないですよね。拡大志向の強い事務所が増えて初めて、意見として聞いてもらえるのではないでしょうか。

吉岡:ビジネス上の制約をどのように変えていくのか、我々も真剣に考えなければなりませんね。
さて、才木先生は一般企業化のポイントについてどのようなお考えをお持ちでしょうか。
才木:先ほど鶴田先生が少しお話しされていましたが、やはりお給料の問題をどうするか考える必要があります。岸田前総理は「2030年代半ばまでに最低賃金1,500円」を目指していましたが、石破総理はこれを2020年代に前倒ししました。つまり、あと5年で1,500円にすると言っているのです。とすれば、いま時給1,000円で多くの人材を確保している事務所は、5年で1.5倍にしなければなりません。それだけでなく、業界の外から優秀な人材を招き入れていくためにも、業界全体で賃上げについて考えていく必要があると思います。

吉岡:でも、給与を引き上げる以上は、それに見合う高い生産性を持って働いてもらわなければなりません。
才木:それはおっしゃる通りですが、我々のような経営層は「給与を上げる」という前提で事業を組み立てていく必要があるでしょう。もうすでに中途人材に提示する金額は高騰しているわけですし、今後も下がるとは考えづらいです。
鈴木:ここ1年間で随分上がったように感じますね。
才木:その高騰した金額って、皆さんの事務所の給与制度から見て妥当な水準ですか?すでにイレギュラーなレベルに達していませんか?もしそうだとすれば、人事制度、給与制度も緊急で書き換えないといけない状況です。御堂筋では先手を打って、今年の年末までに各コースの賃金テーブルを見直し、年収ベースアップを行う予定です。
鶴田:今後も、明らかに人件費は上がっていきますが、それを払うには原資がいるので、顧問料やサービス単価を引き上げていかなければなりません。そのためには優秀な人材が必要ですし、しっかりブランディングをして“言い値”を受け入れていただける状態に持っていく必要があります。
鈴木:規模という意味では、両極端になっていくのだと思います。小さい事務所の強みは、はっきり言ってしまえば「所長先生が来てくれること」以外に見当たりません。そう考えると、今後はひとり税理士の事務所が増えていくのかもしれませんね。
小西:地域性もあるかもしれないですね。私は福岡ですが、あまりに人が採れないので、近隣の競合事務所は明らかに拡大を頑張らなくなっています。結果、そのエリアで受け入れられる企業の数が相当絞られてしまい、ほとんどの事務所が値段で勝負しなくなりました。むしろ「他で受けてくれる所はないですよ」とお伝えして、値上げを承諾していただくこともできるので、顧問料の相場は上がってきている印象です。
才木:最近の話ですが、BIG4が顧問に入っている企業が「やはり中小企業にあった税理士法人を探したい」という理由で大手税理士法人に打診したけれど、「うちは無理です」と散々断られた挙句に、弊所に辿り着いたスイッチ案件がありました。もともとかなりの顧問料を払っていたようなので、弊所にとってすごく良いお話なのですが、一方で大手でも人の確保が難しくなっており、採用基準を落とした結果、サービスの質もだいぶ落ちているのだなと感じます。

鈴木:「大手だから良い」が幻想であることに、だいぶ気づき始めているのですね。
小西:はい。だから私たちは強気で攻めた方が良いです。少なくともいまの相場は絶対に安すぎるので、これを引き上げていきたい。あるおひとりでやられている税理士の先生に、顧問料を聞いたらうちの新卒の子より安くて本当に驚きました。我々のような事務所が相場を上げる努力をしないと、ひとり事務所の顧問料も上がっていかないと思います。

鶴田:相場を上げるために、やはり私は大きくなる必要があると思います。たとえば、名古屋にも、うちと同じかそれ以上の大型事務所がいくつかありますが、我々も何かの金額を決める時は必ずそういう事務所の動きを参考にしますし、他事務所さんもうちの価格を参考にしていると思います。「この提案ならあそこはこのくらいだ」とか、「インボイスであそこはこれだけ顧問料を上げたから、うちも上げようか」みたいな話に絶対なるのです。
地域のリーディングカンパニーが値上げをすれば、相場は上がっていくと確信しているので、私たちもそのような存在であり続けたいですね。

吉岡:業界を代表する皆さまのような事務所が、業界の外でも存在感を発揮することはとても重要だと考えています。目指すは「地域ナンバーワン“事務所”」ではなく、「地域ナンバーワン“企業”」ですね。そうなる事務所がたくさん出てくれば、私たち会計事務所業界は、メインのお客様である「企業」や「経営者」だけでなく、日本の社会全体にも、これまで以上に貢献することができると確信しています。

規模の大きなリーディングカンパニーが、業界の相場を決める。それは会計業界も同じで、給与水準や福利厚生の在り方、働き方について、大規模な事務所が持つ影響力は大きい。だからこそ、会計業界の発展のためにも、専任の採用担当や広報担当など、多様な人材を集めて幅広い事業に取り組めるような、意欲と余力のある稼げる大型事務所が必要なのだ。
売り手優位の状況が続く中、企業には「選んで頂く」くらいの謙虚さが求められている。単に、良い給料を払うだけでは不十分で、育児や介護の際の休職制度をはじめ福利厚生や社内環境なども充実させることで、良い人材ははじめて振り向いてくれる。一般企業化を目指すうえでは、やはり会計事務所もこうした制度を積極的に取り入れる必要があるだろう。それは、既存の職員に対しても大きなメリットになるはずだ。教育・研修も含めて、新人をはじめとする職員に組織としてどのような投資ができるのか。試行錯誤も含め、会計事務所として、新たなチャレンジに取り組む絶好の機会を迎えていると言えるのではないだろうか。
吉岡 高広

プロフィール
さいき・まさゆき

「クライアントの真の社外取締役でありたい。」大阪府立大学卒業後、税理士小笠原士郎事務所(現御堂筋税理士法人)に入社、10年間は税務業務、財務コンサルティング業務を中心、その後は、税務業務全般と企業組織変革、営業チームマネジメントコンサルタントとして業務を遂行。またセミナー講師としても三菱東京UFJリサーチ、大阪商工会議所等に登壇。現在は、御堂筋税理士法人代表社員(CEO)として、組織のマネジメント業務も行っている。

すずき・ひろのり

同志社大学法学部・法学研究科卒。税務、財務コンサルティングに加え、コーチング・経営計画・経営会議を通じたマネジメントアドバイザリーサービス(MAS)を得意とする。SS総合会計グループの二代目経営者として、70人を超える社員・パートスタッフとともに500社を超える中小企業の顧問をしている。近時では、地元向けセミナーイベントSSフェスタで200人を超える集客に成功。顧問先に対して、日々経営指導に励んでいる。若手経営者向け経営塾「経営輝塾」を37期まで開催。また中小企業のみならず、同業者である税理士のビジョンも叶えるべく、東京・大阪・名古屋・福岡など日本各地でセミナーを行い、MAS事業化・人材育成等会計事務所の仕組化を全国に広げている。これらを通じてSS総合会計グループのブランディング活動を積極的に行っている。著書に『デキる二代目社長は知っている事業承継5つの鉄則』がある。

つるた・ゆきひさ

1975年、愛知県岡崎市生まれ。岡崎高校、名古屋市立大学卒。税理士、中小企業診断士、M&Aアドバイザー、医療経営コンサルタント。2006年に独立開業し、2012年に税理士法人鶴田会計を設立。2020年4月に社名をグロースリンク税理士法人に変更し、同5月に名古屋の新たなランドマークとして注目を集めるグローバルゲートへ移転。

こにし・しんたろう

慶應義塾大学 経済学部在学中に公認会計士試験に合格。卒業後はあらた監査法人(現:PwC Japan有限責任監査法人)で監査業務に従事。その後2012年に独立し、小西公認会計士事務所を開業。2018年に税理士法人アーリークロスを設立し、代表社員に就任。従業員数20名規模から160名を超える規模へと組織を拡大させる。会計事務所博覧会2022特別セミナー『若き税理士 プロ経営者としての「思考と展開」 驚異的な成長を遂げる事務所は“何か”が違う』への登壇をはじめ、講演・メディア掲載実績多数。

  

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