会計事務所は『一般企業化』をどう加速すべきか Vol.2
《テーマ1-2》伸びる事務所の勝利の方程式とは

特別対談 会計事務所は『一般企業化』をどう加速すべきか

(写真左から)
グロースリンク税理士法人 代表社員・税理士 鶴田 幸久
税理士法人アーリークロス 代表社員・税理士 小西 慎太郎
株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広
税理士法人SS総合会計 代表社員・税理士 鈴木 宏典
御堂筋税理士法人 代表社員・税理士 才木 正之

会計事務所の中心である税務・会計のビジネスを拡大するには、どうしても“人の手”が欠かせない。すなわち人材確保が極めて大切だが、いま起きている人材難は、深刻化することはあれども改善は見込めない状況だ。そのため、会計事務所が税務・会計に依存してばかりでは、その経営はいずれ尻すぼみになることは明らか。こうした時代の流れに対抗するため、いま成長している多くの事務所では「一般企業化」を進め、「新規事業」の立ち上げや、組織の体制構築を進めている。そこで今回、御堂筋税理士法人(大阪府大阪市)の才木正之先生、税理士法人SS総合会計(静岡県浜松市)の鈴木宏典先生、グロースリンク税理士法人(愛知県名古屋市)の鶴田幸久先生、税理士法人アーリークロス(福岡県福岡市)の小西慎太郎先生に、「伸びる事務所の勝利の方程式」「会計事務所の一般企業化」をテーマに、大いに語っていただいた。
【ファシリテーター:株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広】

業務運営のデジタル化について

吉岡:では次に、業務運営のデジタル化についてお伺いしたいと思います。
人材難へのアプローチとして「採用の専任を置く」ことの重要性が先生方から示されましたが、同時に効率化や生産性の向上を進めることもとても大切だと思います。
このテーマについては、業界内でも三者三様の取り組みが進んでいる状況ですが、鈴木先生はどのような取り組みを進めていらっしゃいますか?

鈴木:これまでは紙の業務管理表を所長である父がチェックしていたためDX化が難しかったのですが、父も80歳になりいよいよ現場から離れるので、このタイミングでDX化を進めるプロジェクトを立ち上げました。ひとまず業務フローを全て見える化し、同時にペーパーレス化していく予定です。業務管理システムも色々と迷ったのですが、使いやすいという声が多かったMicrosoft 365を採用しました。


吉岡:歴史のある事務所は長年作り上げてきた業務フローが根付いているので、DX化に踏み切るタイミングが難しいですよね。そんな中で「経理DXコンサル」のサービスもスタートしたそうですね。
鈴木:アーリークロスさんに教えていただきながらスタートしました。弊所はMASに力を入れていますが、実はこれが経理DXと非常に相性が良いのです。MASによる経営改善は、未来予測と実数値を突き合わせることが一番のベースになります。ところが、経理業務が滞ってしまい、実数値が出てくるのが遅くなる企業がとても多いのです。当然、実数値が出てこなければ適切な経営判断ができないので、いつまで経っても会社は良くなりません。そのような会社に対して、経理全体の最適化をコンサルティングしています。このような活動を始めた結果、思っていたよりもたくさんのコンサル案件を獲得することができましたし、そこを起点としてMASや税務顧問契約も多数獲得することができました。1年目にしてとても良い流れができたので、この取り組みはもっとレベルアップさせていく予定です。本当に小西先生には感謝しています。

吉岡:では小西先生、業務運営のデジタル化について状況を教えてください。
小西:いま鈴木先生からお話があった業務の見える化やペーパーレス化は一通り達成されています。弊所はkintoneベースですが、すでに数百にも上る社内アプリを運用しているので、社内SEを5名採用しています。彼らはシステムのことだけを担当するのではなく、きちんと会社全体の業務フローを理解した上で、それを最適化していくことをミッションにしています。

吉岡:IT人材のスキルやレベルは様々ですが、どのような人材を採用されているのですか?
小西:ベースがkintoneのローコードツールですし、複雑なプログラムを書く必要はないので、技術力よりコミュニケーション能力が高い人を採用しています。

吉岡:鶴田先生は社内の業務管理をどうしているのですか。
鶴田:様々なシステムやアプリケーションをつぎはぎで使っており、それを統一するシステムは外注で開発しました。具体的には、請求管理はオリジナル、日報をはじめとした時間管理はマイコモンです。そこから投下時間などのデータを引っ張ってきて、顧客別の収支管理や原価計算ができるシステムをオリジナルで開発しています。

吉岡:所内のDX推進、あるいはDXコンサルを事業展開するにあたりSEを採用するのがトレンドですが、最近ではローコードやノーコードの業務管理アプリもたくさん登場していることから、「DX=SEが必要」という認識も今後は変わっていくように感じています。中小の事務所でもDXに取り組みやすい土壌は整いつつあるので、まずはDXにチャレンジしてみることがとても大切だと思います。

デジタル化について
御堂筋SS総合グロースリンクアーリークロス
新業務管理ソフト楽々シリーズ→BIツールkintone、Microsoft365のSharepoint【税務】スプレッドシート、マイコモン 
【労務】kintone
kintone
コミュニケーション
ツール
Microsoft 365ChatworkChatwork、ZoomChatwork
SE人数2人1人1人5人
顧問先DX化
支援サービス
IT補助金を使った導入支援(solaboと協業)経理DXコンサルを提供提供している提供している

拠点化について

吉岡:「勝利の方程式」の最後のブロックです。
近年、税理士先生の高齢化問題もあり、M&Aによって広域で拠点展開する事務所も増えてきました。
ビジネスの拡大、集客、人材確保という文脈ではメリットが大きい一方で、先生方の目が行き届かないのでマネジメントはどうしても難しくなります。そこで、いま流行りの拠点化について皆さまのご意見をお伺いしたいと思います。

鶴田:私は名古屋駅前で創業したのですが、しばらくして地元の岡崎市に出店しました。そのまましばらく2拠点だったのですが、3年前に大阪の事務所を承継する機会があり、それで大阪支店を開設しました。また、最近になって大阪南部にもう1拠点、さらに渋谷にも1拠点を出店しています。今後の目標としては、2030年までに東京、大阪、名古屋を中心に全国10拠点です。拠点化を進めて感じたことは、スタッフのライフステージの変化に対応できるようになったということです。例えば、名古屋駅前の拠点には、岐阜や三重、愛知県内でも岡崎や豊橋から出勤してくるメンバーが少なくありません。でも、親の介護が必要になったり、結婚して奥さんの実家近くに住みたいなど、ライフステージの変化が絶対に起こります。そうやって名古屋駅に通うのが物理的に厳しくなると、従来だったら退職するしかありませんでした。しかし、拠点が増えてくると、「奥さんの実家が奈良なので大阪に転勤させてください」という風に、ポジティブなローテーションが可能になります。そういう事案が最近はかなり増えているので、そこは大きなメリットだと感じています。ですから、将来は岐阜や四日市、豊橋にも出店したいと考えています。

吉岡:拠点を出すルールは何か決められているのですか?
鶴田:基本的にはマネージャーになった人が拠点長として手を挙げるなら出店します。税理士を常駐させる必要があるので「いつでもどうぞ」とはいきませんが、基本的にマネージャーの資格の有無は関係ありません。

吉岡:ありがとうございます。小西先生もいろんなエリアに出店していますね。
小西:弊所は福岡でスタートし、2拠点目は沖縄県那覇市に出店しました。市場的な理由というよりは、那覇出身の税理士が入社したことがきっかけです。次の鹿児島事務所も同様に鹿児島にIターンする税理士が入社したことがきっかけでした。ここまでは計画的に出店したのではなく、何らかのご縁をいただいたエリアに出店してきた経緯があります。拠点化を進めて良かったのは、鶴田先生のお話と同じで、組織内で人が動けるという部分と、新規の開拓営業をしたい若手にチャンスが与えられるところでしょうか。福岡の市場は元々いるメンバーがすでに開拓しているので、若手が新たに開拓する機会がなかなかありません。でも、最近出した東京や大阪ならば新規開拓は重要なミッションですから、開拓の好きなメンバーが輝くことができるのは良かった点ですね。

吉岡:昔より減ったとはいえ、独立志向のある優秀な資格者はいます。そういうメンバーをつなぎ止める方法としても、拠点長というキャリアを用意することは有効ですよね。
鶴田:それは本当にそう思います。実際、私は「将来独立するなら、拠点長になってほしい」と伝えています。

ただ、独立すること自体は止められないですし、独立しても良い関係を築くことができます。中には、外注として付き合うのではなく、同じ看板を背負ってくれる人も出てくる可能性もあるでしょう。それから、出店に関しては、コロナ禍のタイミングでZoomでの面談がスタンダードになったこともすごく影響しています。実際弊所ではZoomを前提とした顧問契約をはじめた結果、東京のお客様がものすごく増えました。Zoomが前提とはいえ、お客様が増えた以上は拠点を構えたいということで出店したのが、渋谷オフィスです。

吉岡:お客様が増えた以上は、やはり現地に拠点がある方が安心できますか。
鶴田:物理的に距離が近い方が、お客様にとっても安心でしょうし、東京での採用がスムーズに進めば、今後はお客様のニーズに合わせて現地の担当者に変更することも考えています。Zoomを前提としていると追加で何かをご提案することも難しいですし、拠点があることは我々にとって“バッファー”にもなります。要は、大阪で人が足りない時に東京に助けてもらったり、もちろん逆のケースもあるでしょう。そういう意味で、拠点を増やしていくことはメリットが大きいなと感じます。

吉岡:「採用の幅を広げるために拠点を出す」のも最近はトレンドになりつつありますね。
小西:確かにそうですね。私の場合、大学は東京、前職も東京だったので、福岡ではリファラルができなかったのですが、東京に拠点があれば、昔の同期や先輩に声をかけることができます。実際、いま東京で社員税理士をしてもらっている方は、以前の先輩から紹介いただいた方です。

吉岡:「大阪のお客様を名古屋で」「名古屋のお客様を東京で」という状況も普通になっていくと思いますが、その辺りはどのように運用されているのですか?
鶴田:個人的には、名古屋のお客様は名古屋で対応した方が良いと思っているので、現時点では緊急時に限定しています。つい先日、名古屋で医療の担当者が足りない状況になったのですが、運良く大阪で医療に強い方が採れたため、その方に名古屋のドクターを担当してもらうことになりました。最近は、顧問契約の際に「基本はZoom」だとお伝えしているので、お客様の側も「担当は名古屋の人じゃないと嫌」なんてことは仰いません。広域で顧問契約を獲得できるようになったのが、ビジネス的には非常に大きいですね。

小西:弊所でもたとえば、福岡で受注して、東京で申告書を作って、鹿児島の税理士がチェックするというような業務体制が可能になっています。エリアを問わず人材を採用して活躍してもらうことができるのです。これは複数拠点があるメリットです。採用が厳しい状況ですからその体制を作るのはハードルが高いと思いますが、多拠点だとフレキシブルな運用が可能になるので、各拠点が受注可能な業務の幅も格段に広がります。あとは沖縄で営業活動を行う際、名刺に「那覇事務所」と書いてあると、それだけで反応が良いですね。

Zoomがスタンダードになりつつあるとはいえ、現地に物理的なオフィスがあることに安心感を覚えるお客様はまだまだ多いようです。

吉岡:グロースリンクさんは歯科のお客様も多いですよね。ドクターの方々は、対面でなくても特に問題なさそうですか?
鶴田:お医者様に限った話ではないかもしれませんが、やはり多忙ゆえに「話が早い」対面対応を求められるドクターは多いです。特に、昔からお付き合いのある方はあまり変わらないですね。一方、新規契約はZoom前提の価格表にしており、訪問の場合は基本プラス1万円、遠方の場合はさらに上げ幅を高く設定しているので、全体としてZoom面談の比率は上がっています。とはいえ業務の性質上、診療後=夜訪問の対応を求められることもまだありますので、弊所では夜対応がある日などは翌朝の出勤時間を遅くできるなど、職員に負担がかからないように様々な改善策を講じて対応をしています。

吉岡:医業特化の事務所には切っても切れないお話で、鶴田先生のお気持ちは本当によくわかります。
さて、お話を伺っていると、拠点化については「人」に関する部分で絶大なメリットを感じることが多いようですね。今後、M&A等によって規模を拡大する事務所がどんどん出てくると思いますので、業界再編の動きには注目しておかなければなりません。

SEに頼らなくてもDX化はできる。重要なのは、何をDX化するべきなのか、その課題や目的を探り当てる力だろう。業界の常識にとらわれずに、業務の改善・効率化を進められる柔軟な発想の持ち主が、成長を目指すこれからの会計業界には求められている。
それができる有能な人材に振り向いてもらうためにも、事務所の規模を拡大し、各地に拠点を設けるという発想も面白い。稼げる会計事務所の拠点が全国に点在すれば、地元志向の働き方を求める若者たちの受け皿にもなるし、雇用が活発になれば、地域経済の好循環にもつながる。好循環の起点となるような会計事務所は当然「賃上げ」の恩恵に預かれるだろうし、様々な才能を持った優秀な人材も引き寄せることができる。さらに他にも新たに拠点を設けるという展開も十分に考えられるだろう。
吉岡 高広

プロフィール
さいき・まさゆき

「クライアントの真の社外取締役でありたい。」大阪府立大学卒業後、税理士小笠原士郎事務所(現御堂筋税理士法人)に入社、10年間は税務業務、財務コンサルティング業務を中心、その後は、税務業務全般と企業組織変革、営業チームマネジメントコンサルタントとして業務を遂行。またセミナー講師としても三菱東京UFJリサーチ、大阪商工会議所等に登壇。現在は、御堂筋税理士法人代表社員(CEO)として、組織のマネジメント業務も行っている。

すずき・ひろのり

同志社大学法学部・法学研究科卒。税務、財務コンサルティングに加え、コーチング・経営計画・経営会議を通じたマネジメントアドバイザリーサービス(MAS)を得意とする。SS総合会計グループの二代目経営者として、70人を超える社員・パートスタッフとともに500社を超える中小企業の顧問をしている。近時では、地元向けセミナーイベントSSフェスタで200人を超える集客に成功。顧問先に対して、日々経営指導に励んでいる。若手経営者向け経営塾「経営輝塾」を37期まで開催。また中小企業のみならず、同業者である税理士のビジョンも叶えるべく、東京・大阪・名古屋・福岡など日本各地でセミナーを行い、MAS事業化・人材育成等会計事務所の仕組化を全国に広げている。これらを通じてSS総合会計グループのブランディング活動を積極的に行っている。著書に『デキる二代目社長は知っている事業承継5つの鉄則』がある。

つるた・ゆきひさ

1975年、愛知県岡崎市生まれ。岡崎高校、名古屋市立大学卒。税理士、中小企業診断士、M&Aアドバイザー、医療経営コンサルタント。2006年に独立開業し、2012年に税理士法人鶴田会計を設立。2020年4月に社名をグロースリンク税理士法人に変更し、同5月に名古屋の新たなランドマークとして注目を集めるグローバルゲートへ移転。

こにし・しんたろう

慶應義塾大学 経済学部在学中に公認会計士試験に合格。卒業後はあらた監査法人(現:PwC Japan有限責任監査法人)で監査業務に従事。その後2012年に独立し、小西公認会計士事務所を開業。2018年に税理士法人アーリークロスを設立し、代表社員に就任。従業員数20名規模から160名を超える規模へと組織を拡大させる。会計事務所博覧会2022特別セミナー『若き税理士 プロ経営者としての「思考と展開」 驚異的な成長を遂げる事務所は“何か”が違う』への登壇をはじめ、講演・メディア掲載実績多数。

  

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