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概算要求・事項要求とは?令和9年度予算から読み解く仕組みと税務実務への影響

概算要求・事項要求とは?令和9年度予算から読み解く仕組みと税務実務への影響

夏の終わりには「各省庁が概算要求を提出」というニュースが流れます。予算編成の季節を告げる、霞が関の風物詩です。

概算要求は予算編成の入口であり、要求額がそのまま政府案になるわけではありません。さらに、金額を示さず政策項目だけを掲げる事項要求が加わると、表面上の総額だけでは予算の膨らみを測れなくなります。

数字の確度を見誤れば、経営者や顧問先の投資計画や資金繰りにも影響します。この記事では令和9年度予算の最新方針を手掛かりに、両者の意味、予算が固まるまでの流れ、税務に携わる実務家が経営者や経営者や顧問先へ伝える際の着眼点を整理します。

概算要求と事項要求が注目される背景

概算要求の季節は、翌年度の政策が初めて金額を伴って見え始める時期です。省庁の重点分野を早く把握できる半面、要求、査定、予算成立という段階の違いを外すと、経営者や顧問先の投資判断を誤らせます。

政府の予算編成は、6月から7月ごろに骨太の方針が示され、夏に概算要求基準が定まり、各省庁が8月末までに要求を提出する流れで進みます。9月以降、財務省の査定、省庁間の調整、大臣折衝を経て、年末に政府案が閣議決定されます。政府案は年明けに国会へ提出され、議決を経て予算として成立します。

したがって、夏の資料から読み取れるのは、政府全体として確定した支出ではなく、各省庁が次年度に実施したい政策と、その時点の希望額です。それでも、設備投資、研究開発、地域振興、社会保障、公共調達に関わる企業にとっては、翌年度の需要を占う早期資料になります。税務に携わる実務家には、ニュースの金額を紹介するだけでなく、現在地が予算編成のどの段階なのかを添える役割があります。

概算要求とは何か

概算要求は、各省庁が翌年度に必要と見込む経費をまとめ、財務省へ提出する手続きです。要求の自由度と財政規律を両立させるため、毎年、経費区分ごとの取扱いが先に示されます。

財政法に基づく予算編成の出発点

財政法第17条は、内閣総理大臣と各省大臣に、所管する歳入、歳出などの見積書を作成して財務大臣へ送るよう定めています。同法第18条により、財務大臣は見積りを調整して概算を作り、閣議決定を経ます。概算要求は、この法定手続きに沿って、各省庁が翌年度の政策を予算の言葉へ置き換える場面に当たります。(参考:財政法第十七条 | e-Gov法令検索

「概算」という語から粗い試算にも見えますが、要求書には事業の目的、積算根拠、前年度額との比較、政策評価などが盛り込まれます。財務省は秋から冬にかけ、対象者、単価、実施期間、既存事業との重複、過年度の執行率まで確かめて査定します。要求額は交渉の出発点であり、採択額でも支出上限でもありません。

概算要求基準とシーリング

各省庁の希望を単純に積み上げれば、歳出は際限なく増えます。そこで政府は、要求前に概算要求基準を示し、経費ごとの要求方法や上限をそろえます。天井を意味する「シーリング」という呼び名も、この上限管理に由来します。

要求上限が導入されたのは昭和36年度予算からです。昭和57年度予算では、前年度と同額までとするゼロ・シーリングも採用されました。その後は、重点分野を別枠で要望できる方式などが加わります。現在も社会保障、義務的経費、裁量的経費、重点政策を別々に扱うため、総額だけでなく、別枠の範囲と追加要望の扱いを確かめる必要があります。

事項要求とは何か

事項要求は、概算要求時点で金額を確定しにくい政策について、事業の項目を先に要求し、金額を年末までの編成過程で詰める方法です。政策を予算協議のテーブルに載せる働きがあります。

金額を示さず政策項目を要求する理由

制度設計が続いている政策、経済情勢や物価を見極めたい施策、関係省庁との調整が残る事業では、8月末に精度の高い所要額を出せない場合があります。無理に仮の金額を置けば、前提が変わったときに数字だけが独り歩きします。そこで「この政策を予算編成の対象にする」と事項を示し、対象範囲、単価、財源などを査定の中で固めます。

事項要求も、事業の必要性を説明し、財務省の査定を受けます。令和5年9月の財務大臣会見でも、所要額の見込みが難しい事業には事項要求が生じ得るものの、最終的な予算は厳格な査定を経て決まると説明されました。白紙委任や内定と読むのは早計です。

要求総額を見るときの盲点

金額のない事項要求は、各省庁の概算要求額を合計しても集計に入りません。このため、前年より要求総額が何兆円増えたという数字だけでは、潜在的な歳出規模を捉えきれません。反対に、大きな要求額が公表されても、査定前の希望額である以上、そのまま財政支出の増加を意味しません。

報道を読む順序は、金額入りの要求総額、事項要求の対象分野、年末の政府案、国会成立額の四段階です。前年との比較でも、事項要求から金額要求へ移った事業や、当初予算と補正予算の間を移動した施策があれば、見かけの増減が生じます。同じ範囲、同じ段階にそろえて比べなければ、予算の方向を取り違えます。

令和9年度の概算要求基準を読む

令和8年7月30日に閣議了解された令和9年度の基準は、成長投資を通常歳出と分け、恒常的な施策を当初予算へ移す姿勢を打ち出しました。事項要求の存在感も高まります。(参照:第12回記者会見要旨:令和8年 会議結果 | 内閣府

「強く豊かな日本」投資枠と事項要求

令和9年度予算では、国内投資を通じて潜在成長率を引き上げるため、通常歳出とは別に「『強く豊かな日本』投資枠」が新設されました。要求上限を設けず、事項要求も利用できます。複数年度の計画を基本とし、経済安全保障上とくに重要な分野では、財源を複数年度で確保して特別会計で別枠管理する案も検討されます。

もう一つの特徴は、補正予算への依存から離れ、恒常的な施策を当初予算へ計上する方針です。従来、補正予算に載っていた事業が当初予算へ移れば、当初予算同士の比較では増額に見えます。令和9年度の数字は、令和8年度当初予算だけでなく、直近の補正予算を含む実質的な政策規模と照らす必要があります。

経費区分ごとに異なる要求ルール

令和8年度一般会計当初予算は122.3兆円です。これを土台に、令和9年度の年金・医療等は前年度当初予算額に自然増3,900億円を加えた範囲で要求し、経済・物価動向などを踏まえる増加分は編成過程で加算します。防衛力整備計画対象経費は同計画を踏まえた所要額、地方交付税交付金等は骨太の方針2026との整合性に留意した額を要求します。

裁量的経費に当たるその他の経費は、前年度当初予算相当額の範囲で要求したうえ、その20%以内を追加要望できます。さらに投資枠や事項要求も使えるため、20%だけを見て全体の上限と考えるのは適切でありません。令和8年9月4日に財務省が公表したところによると、令和9年度の概算請求は過去最大となる143兆656億円でした。(参照:令和9年度一般会計概算要求・要望額・『「強く豊かな日本」投資枠』等 | 財務省

税務に携わる実務家が経営者や顧問先へ説明する実務

経営者や顧問先が知りたいのは、政策用語よりも、自社が使える制度なのか、いつ投資判断へ織り込めるのかという点です。確定度と会計・税務の時期を分けて説明すると誤解を防げます。

補助金は「要求」から「公募」まで追う

経営者や顧問先から「概算要求に載った補助金は来年使えますか」と聞かれたら、現段階では省庁の要求であり、制度の実施、予算額、補助率、対象経費は未確定だと伝えます。その後、年末の政府案、国会での予算成立、担当省庁の実施要領、公募開始、交付決定へと確認を進めます。事項要求なら金額も未定であり、事業計画の参考情報と資金繰りの確定情報を明確に分けます。

設備投資では、公募前の契約や支出が対象外になる場合があり、補助金を見込んで発注時期を先に決めるのは危険です。採択後は収益計上の時期、消費税上の扱い、固定資産取得に充てた国庫補助金等の圧縮記帳を検討します。交付要綱、資金の出所、対象資産、返還不要が確定する時点を資料で確認します。

税制改正要望と混同しない

夏には各省庁の税制改正要望も公表されます。予算の概算要求が歳出を中心とする入口なのに対し、税制改正要望は控除、税額控除、特別償却、税率などの改正を求める別の手続きです。同じ政策を補助金と税制の両面で支える場合もありますが、一方への掲載だけで他方まで決まるわけではありません。

経営者や顧問先には、税制改正要望、与党税制改正大綱、税制改正法案、成立・公布、適用開始という順に確度が上がると説明します。「来年は減税になるらしい」という相談には、対象法人、取得期限、最低投資額、所得要件、他制度との重複適用まで法令で確かめてから試算します。概算要求と同じく、要望段階の制度を申告見込みへ先取りしない姿勢が肝心です。

マクロの方向を経営者や顧問先の数字へ

概算要求は、政府がどの産業や地域へ需要を作ろうとしているか、公共調達や研究開発がどこへ向かうかを映します。投資枠に関連する企業なら、直接の補助対象でなくても、取引先の設備投資や受注環境が変わる可能性があります。

上限のない要求や事項要求が増えれば、政府案が固まるまで財政規模を評価しにくくなります。歳出拡大は需要を押し上げる半面、国債費や金利の議論にもつながります。税務に携わる実務家は、受注時期、自己負担、入金までの立替資金、不採択時の代替案を数値化します。マクロの方針を複数の資金繰りシナリオへ組み込むところに、経営者や顧問先支援の価値があります。

まとめ

概算要求は翌年度予算の出発点、事項要求は金額を後で詰める政策項目です。どちらも政策の方向を示しますが、支出や制度の確定を意味しません。税務関係者は段階を見分けて実務へつなげます。

令和9年度は、新たな投資枠、補正予算から当初予算への移行、事項要求の活用が重なるため、要求総額だけでは実像を読みにくい年度です。各省庁の要求資料で政策の方向をつかみ、年末の政府案、国会審議、制度ごとの公募要領へ順に確認範囲を狭めていきましょう。

経営者や顧問先への説明では、「検討中」「政府案」「成立済み」「公募開始」を言い分け、補助金を除いた資金繰りも併記します。この読み方を共有すれば、期待先行の投資を避けながら、政策転換が生む機会には早めに備えられます。

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