令和7年税制改正で「年収103万円の壁」はどうなる?事業者へ与える影響についても解説
2024年の年末に令和7年度税制改正大綱が発表され、大きな話題となっています。
今回の改正では個人所得課税や法人課税、資産課税などさまざまな税制が改正される見込みですが、中でも注目されているのが所得税控除と扶養控除の上限引き上げです。これにより、いわゆる「年収103万円の壁」が見直され、所得税の控除額が123万円へ引き上げられるほか、それに伴いさまざまな改正が行われるこことなっています。
本記事では、令和7年税制改正により「年収103万円の壁」はどうなるのか、またそれが労働者や事業者に与える影響についてもわかりやすく解説していきます。
目次
「年収103万円の壁」とは?
そもそも「年収103万の壁」とは何なのでしょうか。これは、所得税控除や扶養控除を受けられなくなる年間所得の境界線を指す言葉で、超えてしまうと納税負担が増加するため私たちの生活に重要な影響を与えます。
まず、年収103万円の壁が注目されるのは「配偶者控除」です。配偶者控除とは、主に労働者がその配偶者に対して所得控除を受けられるというもので、配偶者の年収が103万円未満であれば控除を受けることができます。しかし、配偶者の年収が103万円を超えてしまうとその分所得税の負担が増えてしまいます。
また、年収103万円の壁は扶養している子供とも関係しています。19歳以上23歳未満の学生の年収が103万円未満であれば63万円まで控除を受けることができる「扶養控除」ですが、子供の年収が103万円をこえてしまうと扶養から外れ、控除されていた63万円分が一挙に課税対象となってしまうのです。
このように、年収103万円という金額は大変重要な境界線となっており、多くの配偶者や子供が年収を103万円未満に抑えることを意識して働いているのが現状なのです。
令和7年税制改正の背景
今回の税制改正の決定には、一体どんな社会的背景があるのでしょうか。以下に解説していきます。
「働き控え」の問題
令和7年税制改正の背景の一つとして、「働き控え」が挙げられます。先述の通り、多くの配偶者や子が年収を103万円以下に抑えるために、勤務時間を少なくして「働き控え」をしているというのが現状です。特に19歳以上23歳未満の学生が103万円を超える収入を得ると、扶養する親は特定扶養控除を受けられなくなり、例えば年収500万円の世帯では、所得税と住民税を合わせて約10万円もの増税となるケースもあります。
近年は人手不足が深刻化しているのにも関わらず、年収103万円の壁があることにより、もっと働きたい人が働けず、もっと働いて欲しい企業があるのに働いてもらえない、という矛盾が生じているのです。
「年収103万円の壁」をなくすことで「働き控え」をなくし、人手不足を解消したいという狙いがあります。
最低賃金や物価の上昇に対応する
令和7年税制改正のもう一つの目的は、最低賃金や物価上昇に対応することです。
「年収103万円の壁」ができたのは1995年のことですが、それから約30年間で最低賃金は大幅に上昇しました。それにも関わらず所得税控除額は同じであったため、これは実質的な増税となってしまっています。
また、インフレに伴う物価上昇により実質賃金はマイナスとなっているため、今回の制度改正により国民の税負担を是正するという狙いがあるのです。
令和7年税制改正での変更点
それでは、具体的には令和7年税制改正では「年収103万円の壁」に関するどのような変更点があるのでしょうか。以下に解説していきます。
基礎控除・給与所得控除の引き上げ
今回の改正では、所得税の基礎控除を48万円から58万円に、給与所得控除の最低額を55万円から65万円にそれぞれ10万円ずつ引き上げるため、合計123万円までは所得税が控除されることとなりました。これにより「年収103万円の壁」はなくなり、控除額が減ってしまう新たなラインは123万円となります。つまり「年収103万円の壁」ではなく「年収123万円の壁」になったというわけです。
特定扶養控除の要件引き上げ(特定親族特別控除の新設)
しかしながら、控除額が123万円に引き上げられても、扶養内の大学生の年収が123万円を超えた場合、扶養する親が特定扶養控除を受けられなくなる問題は残ってしまいます。
この対策として、「特定親族特別控除(仮称)」が新設されることになりました。これが適用されることにより、19歳以上23歳未満の学生が123万円以上(~150万円未満)の収入を得た場合でも、従来通りの特定扶養親族の控除額(63万円)が適用され、親の税負担が増えない仕組みとなります。また、150万円を超えても段階的に控除額を減らす仕組みが導入され、急激な税負担増を防ぐことができるのです。
令和7年税制改正が与える影響について
今回の税制改正は、労働者や事業者にどのような影響を与えるのでしょうか。以下に解説していきます。
働き手の増加
「年収103万円の壁」から「年収123万円の壁」へ収入上限を引き上げられ、より多くの人が働きやすくなることで、人手不足が解消されることが期待されています。さらに、企業への労働力の供給が増えることによって、日本経済が活性化することが期待されています。
世帯の手取り額の増加
所得税の非課税枠が10万円増加することで、手取り額の増加が見込めるでしょう。具体的な節税効果としては、年収300万円の場合、約年5,000円、500万円・600万円の場合、約年1万円、800万円・1000万円の場合、約年2万円程度の手取り増加が見込まれています。
国や地方自治体などの減収
政府は、今回の税制改正により国と地方自治体などの税収が大きく減収となることを見込んでいます。手取り収入が増えることで国民の消費の活性化につながれば、税収を増やす効果もあるという見方もありますが、消費活性化による税収アップは見込まれる減収を大きく下回っており、今回の税制改正による税収減が国や地方自治体の負荷となることは避けられないでしょう。
改正に向け、事業者が備えておくべきこと
今回の税制改正に向けて、事業者が備えておくべきことは何なのでしょうか。以下に解説していきます。
多様な働き方へのニーズに応える
特にパートタイマーや非正規雇用者の働き方の大きな変化が予想されますので、事業者は柔軟な勤務体制の導入を検討すると良いでしょう。より柔軟な勤務時間や給与設定を提供することで、従業員の就業意欲向上と人材確保につながります。
給与規定等を見直す
たとえ所得控除額が123万円に引き上げられたとしても、社内給与規定の扶養手当などの上限年収が103万のままであったりすると、従業員の働き控えが解消されることはありません。103万円から123万円に引き上げられる控除額に合わせて、正規雇用者・非正規雇用者を問わず、給与体系を見直すと良いでしょう。
人事・給与システムの更新
新しい控除額や特定親族特別控除に対応できるよう、人事・給与システムの更新や見直しを行いましょう。年末調整や源泉徴収処理が正確に実行されるように備え、運用マニュアルの整備などもしておくと良いでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本記事では令和7年税制改正により「年収103万円の壁」はどうなるのか、またそれが労働者や事業者に与える影響について解説してきました。
要約すると、
- 「年収103万円の壁」が原因で、扶養親族の働き控えによる人手不足の助長や、最低賃金や物価上昇に税収制度がそぐわないといった問題が生じていた
- 令和7年税制改正により、所得税の基礎控除と給与所得控除の上限を引き上げることで、問題視さてれきた「年収103万円の壁」ではなく「年収123万円の壁」になる
- 「特定親族特別控除(仮称)」が新設され、19歳以上23歳未満の学生が123万円を超え、150万円未満の収入を得た場合、従来通りの特定扶養親族の控除額(63万円)が適用され、親の税負担が増えない仕組みとなる
- 控除上限が引き上げられたことで、働き控えの改善や、減税効果による消費者の購買意欲の向上が期待できる
- 税の減収により国や地方自治体の負担が増加することが懸念されており、新たな財源の確保や新たな税制施行などが求められている
令和7年税制改正での所得税控除と扶養控除の上限引き上げはこのような流れとなっています。今回の税制改正による所得税控除と扶養控除の上限引き上げは、事業者の経営だけではなく、すべての国民生活に直結する重大なトピックです。
正しく理解し、最新の情報を把握することで、事業者や、さらにはその家族へのより良い支援へと繋がるでしょう。
本記事が少しでも参考になれば幸いです。
税理士.ch 編集部
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