令和6年度税制改正「異次元の少子化対策」に合わせた扶養控除の見直し
令和6年度税制改正では、政府が進めている「異次元の少子化対策」の一環として子育て世代の扶養控除等の見直しが行われました。
高校生世代については、児童手当の対象となる一方で、扶養控除の額が引き下げられてしまいます。ただ、手取り額は給与収入にかかわらず増える設計になっています。
また、ひとり親控除の拡充、子育て世代向けの住宅ローン減税の優遇措置なども盛り込まれています。
それぞれの制度について基礎からおさらいしましょう。
目次
扶養控除とは
扶養控除とは、家族に控除対象の扶養親族がいる場合、その人の課税所得から一定額を指し引ける制度です。
親族を扶養している人は、生活費の負担が重くなることから、経済的な負担を軽減する狙いがあります。
扶養控除の対象となる親族は
扶養控除の対象となる扶養親族とは次の要件を満たす人です。
- 控除を受ける年の12月31日時点の年齢が16歳以上であること
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)であること
- 納税者と生計を一にしていること
- 年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入の場合、年収103万円以下)であること
- 青色申告者の事業専従者として給与を受けていない、または白色申告者の事業専従者でないこと
扶養控除の金額
所得税と住民税の扶養控除の金額は次のようになっています。
扶養親族 | 所得税分 | 住民税分 |
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | 33万円 |
特定扶養親族 | 63万円 | 45万円 |
同居老人扶養親族以外の者 | 48万円 | 38万円 |
同居老人扶養親族 | 58万円 | 45万円 |
※特定扶養親族とは、その年12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満の人のことです。
※老人扶養親族とは、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の人のことです。
この中で、特定扶養親族は、大学生の世代で特に経済的負担が重くなることから、最も控除額が多くなっています。
令和6年度税制改正で見直しの対象になった扶養控除とは
今回見直しの対象になったのは、16歳から18歳の扶養親族を対象とした扶養控除です。
この年代の所得税分の扶養控除の金額は、一般の控除対象扶養親族として、38万円となっていますが、25万円に引き下げられる事になりました。同時に、住民税分の扶養控除の金額も33万円から12万円に引き下げられます。
具体的には高校生の子どもを対象とした扶養控除の金額が引き下げられたことになります。なお、所得税分の扶養控除25万円、住民税分の扶養控除12万円という数字は、特定扶養親族に対する控除の上乗せ部分に相当する金額です。
令和6年度税制改正での扶養控除見直しとともに児童手当が拡充
高校生の子どもを対象とした扶養控除の金額が引き下げられたのは、児童手当が拡充されたことに伴う措置です。政府は「異次元の少子化対策」の一環として、児童手当を従来の中学卒業までから、高校卒業までに延長しました。
また、所得制限を撤廃し、多子世帯に対する児童手当を増額しています。その結果、児童手当は次のようになります。
対象児童 | 0歳から18歳まで |
児童手当の金額 | 第二子まで月額1.5万円第三子以降月額3万円 |
所得制限 | なし |
なお、0歳から15歳の子どもは扶養控除の対象となっていません。
つまり、高校生世代は、児童手当がもらえるようになると同時に、扶養控除の金額は引き下げられたものの扶養控除が適用できる年代になります。
令和6年度税制改正での扶養控除見直しと児童手当拡充による全体的な影響
高校生世代は教育費がかかる世代であることから、児童手当を拡充するとともに、扶養控除の金額を引き下げつつも維持しました。
扶養控除の縮小により所得税と住民税の負担は増加しますが、児童手当の拡充により、高校生世代の子どもがいる世帯の手取り額は増額される設計になっています。
給与収入の少ない世帯だと、子ども1人につき、最大で12万円増加します。給与収入の多い世帯は恩恵が少ないものの、それでも、少なくとも3.9万円手取りが増える形になります。
給与収入 | 課税所得 | 手取り増加額 |
240万円程度まで | 0万円 | 12万円 |
560万円程度まで | 195万円 | 9.2万円 |
750万円程度まで | 330万円 | 8.6万円 |
1,160万円程度まで | 695万円 | 7.2万円 |
1,340万円程度まで | 900万円 | 6.8万円 |
2,260万円程度まで | 1,800万円 | 5.5万円 |
4,400万円程度まで | 4,000万円 | 4.6万円 |
4,400万円超 | 4,000万円超 | 3.9万円 |
ひとり親控除の拡充
ひとり親控除の拡充としては、ひとり親控除を受けられる所得金額を引き上げるとともに、控除額も引き上げられました。
ひとり親控除とは
ひとり親控除は、令和2年(2020年)の税制改正により導入された制度です。シングルマザー、シングルファザーといったひとり親の過程は子育てにかかる負担が重い点を鑑みて、一定金額の所得控除を受けられる税制優遇措置が設けられました。
従来の寡婦控除よりも利用しやすい制度となっています。
ひとり親控除の対象者
ひとり親控除を受けられるのは、次の条件をすべて満たす人です。
- その年の12月31日時点で婚姻をしていない、または配偶者の生死が明らかでないこと。
- 事実上婚姻関係があると認められる人がいないこと。
- 生計を一にする子どもがいること。
- 合計所得金額が500万円以下であること。
なお、子どもがアルバイトなどをしている場合は、その年分の総所得金額等が48万円以下であることが条件です。また、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていないことも条件となっています。
ひとり親控除の金額
ひとり親控除の対象者となった場合、ひとり親控除として、所得税分につき35万円、住民税分につき30万円の所得控除を受けられます。
令和6年度税制改正での変更点
従来は、ひとり親控除を受けられる対象者は、合計所得金額が「500万円以下」の人に限られていました。
これを改めて、合計所得金額が「1,000万円以下」に引き上げられました。また、ひとり親控除の金額も、所得税分につき「35万円」から「38万円」、住民税分につき「30万円」から「33万円」に引き上げられました。
住宅ローン減税の優遇措置
住宅ローン減税の借入限度額は、令和6年(2024年)から引き下げられます。ただ、子育て世代の場合は、優遇措置として従来の借入限度額が維持されます。
住宅ローン減税とは
住宅ローン減税とは、住宅ローンを借りて住宅を取得した場合に、住宅取得者が支払うべき金利の負担軽減を図る制度です。
毎年末の住宅ローン残高又は住宅の取得対価のうちいずれか少ない方の金額の 0.7%が所得税の額から控除されます。所得税から控除しきれない分は住民税から控除されます。
控除期間は、新築の場合は13年間、既存住宅の場合は10年間となっています。また、住宅ローンの借入限度額は、住宅の性能に応じて異なっており、令和5年(2023年)までに入居した場合は、次のような分類になっています。
長期優良住宅・低炭素住宅 | 5,000万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 |
なお、令和6年(2024年)からは、住宅ローンの借入限度額が次のように改められます。
長期優良住宅・低炭素住宅 | 4,500万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 3,000万円 |
子育て世帯・若者夫婦世帯への住宅ローン減税の優遇措置
子育て世帯・若者夫婦世帯については、令和6年(2024年)以降も借入限度額が令和5年(2023年)の金額で維持されることになりました。
子育て世帯とは、令和6年(2024年)12月31日の時点で年齢19歳未満の扶養親族がいる家庭のことです。また、若者夫婦世帯とは、令和6年(2024年)12月31日の時点で年齢40歳未満であって配偶者を有する者、又は年齢40歳以上であって年齢40歳未満の配偶者を有する者を意味します。
一般生命保険料控除の適用限度額の引き上げ
生命保険の支払額については、所得税の課税対象から差し引かれる措置が取られています。これを「生命保険料控除」と言いますが、生命保険の支払額の全額が差し引かれるわけではなく、次のように限度額が設けられています。
平成23年12月31日以前に締結した生命保険契約等(旧契約)
区分 | 所得税 | 個人住民税 |
一般生命保険料 | 5万円 | 3.5万円 |
個人年金保険料控除 | 5万円 | 3.5万円 |
合計適用限度額 | 10万円 | 7万円 |
平成24年1月1日以後に締結した生命保険契約等(新契約)
区分 | 所得税 | 個人住民税 |
一般生命保険料 | 4万円 | 2.8万円 |
介護医療保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 |
個人年金保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 |
合計適用限度額 | 12万円 | 7万円 |
2024年度(令和6年度)税制改正により、子育て世代については、平成24年1月1日以後に締結した生命保険契約等(新契約)の一般生命保険料についての限度額が引き上げられる見込みとなりました。
具体的には、「23歳未満扶養親族」がいる場合は、所得税分が「4万円」から「6万円」に引き上げられます。ただし、合計適用限度額は「12万円」のまま変更はありません。
子育て世代では、扶養者に万が一のことがあった場合に備えて生命保険に加入するニーズがあるため、所得税面で優遇することにより支援する狙いがあります。
なお、一般生命保険料控除の適用限度額の引き上げは、令和6年(2024年)から適用されるわけではなく、令和7年(2025年)度税制改正において検討し結論を得る方向となっています。
まとめ
令和6年度税制改正における扶養控除等の見直しは、政府が進めている「異次元の少子化対策」の一環として行われるもので、子育て世代にとっては有利な制度になっています。
全面的な改正ではないものの細かい数字が変わっているため、この記事を参考に知識を整理してください。
【まとめ記事】令和6年度 税制改正について、仕組みや変更点を紹介
税理士.ch 編集部
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