会計事務所は『一般企業化』をどう加速すべきかVol.1
《テーマ1-1》伸びる事務所の勝利の方程式とは

特別対談 会計事務所は『一般企業化』をどう加速すべきか

(写真左から)
グロースリンク税理士法人 代表社員・税理士 鶴田 幸久
税理士法人アーリークロス 代表社員・税理士 小西 慎太郎
株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広
税理士法人SS総合会計 代表社員・税理士 鈴木 宏典
御堂筋税理士法人 代表社員・税理士 才木 正之

会計事務所の中心である税務・会計のビジネスを拡大するには、どうしても“人の手”が欠かせない。すなわち人材確保が極めて大切だが、いま起きている人材難は、深刻化することはあれども改善は見込めない状況だ。そのため、会計事務所が税務・会計に依存してばかりでは、その経営はいずれ尻すぼみになることは明らか。こうした時代の流れに対抗するため、いま成長している多くの事務所では「一般企業化」を目指し、税務や会計にとらわれない事業の立ち上げを進めている。そこで今回、御堂筋税理士法人(大阪府大阪市)の才木正之先生、税理士法人SS総合会計(静岡県浜松市)の鈴木宏典先生、グロースリンク税理士法人(愛知県名古屋市)の鶴田幸久先生、税理士法人アーリークロス(福岡県福岡市)の小西慎太郎先生に、「伸びる事務所の勝利の方程式」「会計事務所の一般企業化」をテーマに、大いに語っていただいた。
【ファシリテーター:株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広】

吉岡:いま大きく成長している事務所は、推し並べて集客力、採用力、業務運営力、拠点化の4項目に優れている傾向があります。
今回はこの4つの取り組みについて、皆さまにそれぞれ話をお聞きしていきたいと思います。

集客力について

吉岡:最初のテーマは「集客力」です。ここでは小西先生と鈴木先生にお話を伺います。
トップバッターは、小西先生にお願いします。事前にご提出いただいたシートでは「継続的に値上げをしながら、受注をする」ということをポイントに挙げてくださいましたが、これについて詳しく教えてください。

小西先生(以下小西):正直にお話しすると、あまり変わったことは行っていません。集客の軸はWEBと紹介営業の2つで、紹介営業には既存の顧問先と提携先のいずれも含んでいます。弊グループには社労士法人やWEBの制作会社がありますし、最近では不動産会社や人材紹介会社もスタートしたので、お客様の経営課題に対してソリューションが提供されていない“空白地帯”を埋め、それによってLTV(Life Time Value)を高めることを意識して活動しています。また、弊所では昨年のインボイス制度開始を機に値上げをしましたが、足元では物価や人件費が上がり続けている状況ですから、継続的にしっかり値上げし続けることも重要だと考えています。

才木先生(以下才木):値上げはどのようなタイミングで、またどのような建て付けで行ったのですか?
小西:直近では、物価上昇と人件費上昇を背景として全クライアントに実施しました。もちろん、お応えいただけたお客様もあれば、状況を見て見送ったお客様もありますが、値上げの打診自体は、すべてのお客様に対して一律に行いました。
才木:売上に対して、どのくらいのインパクトがありましたか?
小西:値上げで売上は3割増加しました。上げ幅はお客様の状況によってまちまちですが多くは1〜2万円です。顧問先数に影響が出ることも懸念しましたが、結果的にほぼ増減はありませんでした。

吉岡:売上1.3倍ですか。インパクトはかなり大きいですね。
才木:弊所も含め、まだ値上げしていない事務所は売上が伸ばせそうですね。ただ、値上げを打診するにはしっかりとした準備が必要です。当然、お客様からの抵抗や、最悪の場合は顧問先を離脱されることも予想されるので、反論対処も詰めておく必要があります。それから、スタッフの負担を柔らげる対策も必要ですね。特にメンタルの準備とケア。値上げをお願いすることは私でも気が進まないので、話を切り出す現場のスタッフは尚のことだと思います。

吉岡:値上げの打診の“やり方”をスタッフ個々に委ねるのではなく、所内で統一された仕組みで実施する必要がありそうですね。ところで小西先生、集客はWEBと紹介が中心とのことですが、両者の比率はどのようになっていますか?
小西:相続業務は別ですが、顧問先については7〜8割が紹介、残りがWEBです。

吉岡:少し意外ですね。もっとWEBに強いイメージがあります。
小西:もちろんWEBにも力を入れているのですが、紹介で獲得できた顧問先数に応じて、広告出稿する量(金額)を調整しています。「紹介が思ったより少ないぞ」という時はWEBを増やす、そのようなイメージです。

吉岡:集客に強い事務所は、必要な時に、必要な分だけWEB広告を使っていますよね。たとえば、人が採れたら、その人に回す案件を確保するために広告を出す、といったように。でも裏を返せば「WEBに頼る必要がない」のですから、逆説的ではありますが、「質を高めて紹介を得る」ことが大切であることがわかります。それでは鈴木先生が集客に関して取り組まれていることを教えてください。
鈴木:私たちの場合、オンラインではなく、オフラインでの集客が中心です。企業経営者を対象とした「経営塾」を開催し、コミュニティを作ることによって案件を掘り起こしています。

吉岡:鈴木先生のタレント力ありきの戦略ですね。
鈴木:「タレント力ありき」と言われれば、その通りかもしれません。経営塾は全9講、1講5千円で受講できます。集客について正直にお話しすると、「1講5千円だから、騙されたと思って代表の話を聞いてみてください」と職員が案内しているくらいで、単純ですが集客効果は高いです。また、金融機関の支店長や保険の代理店の方などビジネスパートナーの方にも参加していただき、各方面との関係強化を図っています。現在、経営塾は37期まで開催しており受講者もかなり増えてきたので、最近では、過去の参加者を集めて交流会を開くようにしています。

吉岡:顧客やビジネスパートナーのファン化を進めているのですね。
鶴田先生(以下鶴田):ファン化という意味では、YouTubeなど動画によるプロモーションも有効だと思うのですが、その辺りはされていないのですか?
鈴木:現時点では、自分の中で使い方が定まっていません。個人の納税者を対象とする有名な税理士YouTuberがいらっしゃいますが、その方と同じことをしても我々のターゲット層と明らかに違いますし、ターゲットとコンテンツをどう調整していくべきか、そのあたりの答えが出せずにいます。でも、単純に経営に関するコンテンツならすぐにでも始められるので、ちょっとデビューしてみますか!

吉岡:鈴木先生のYouTubeデビュー、楽しみです。才木先生も十分にアクセスを集められそうですね。
才木:弊所は個人にキャラクターが付くことを明確に避けています。なぜなら集客が属人化してしまうからです。私個人が目立ちすぎると、私自身の集客力は強力になりますが、それによって事務所全体の集客力はむしろ落ちてしまう可能性がありますし、仮に私がいなくなった場合は集客力を維持することができません。個を中心としたプロモーション活動は、積極的には行わない方針です。

吉岡:“先進的”と言われることが多い皆さまの事務所ですが、集客は意外とアナログが強いようですね。エリアナンバーワンの事務所を数多く取材させていただいていますが、まだまだ紹介で集客できている事務所も少なくありません。今後、さらにデジタル化が進んだとしても、「サービスの質を高めて、紹介を得る」という戦略は王道であり続けるのかもしれませんね。

■ 集客への取り組み
御堂筋SS総合グロースリンクアーリークロス
新規獲得件数(年間)32件34件267件140件
取り組み銀行セミナーから長期間での契約経営輝塾セミナーから税務・MASへの契約毎週の営業会議による管理人手不足の会計事務所からの紹介案件
※いずれの事務所もWEB集客メインではなく、顧問先やルート先からの「紹介」が新規獲得の中心となっている。
値上げ状況
御堂筋SS総合グロースリンクアーリークロス
実施状況×名古屋:〇
大阪:×
値上げに成功した
顧問先割合
約4割約3割約6割
値上げ幅月額1~2万円月額5,000円~1万円月額1~3万円
実施の影響来期は値上げに挑戦予定年間約3,000万円の売上増加年間約1,400万円の売上増加年間約8,000万円の売上増加

採用について

吉岡:次は採用戦略について意見を交わしていきたいのですが、才木先生、採用についてはどのような取り組みをされていますか?

才木:決して採れていないわけではありませんが、私たちの狙う数字には届いていません。弊所のように50〜60人を超えるくらいの規模になると、やはり採用の専任者を置く必要があると痛感します。4年前に人材派遣会社出身のスタッフが入所し、彼がコンサル人材を30名以上採用してくれたのでコンサル部門は伸びているのですが、税務は経験者採用で、しかも採用レベルを上げて絞っているので思ったほど増えていません。トータルでは増えているので、社内的には“ひとまずOK”という評価です。今後の戦略ですが、まずは専任を置くとともに、「HR戦略室」を立ち上げ、採用だけではなくて「オンボーディング」や「離職防止」についてもKPIを設定して進めていこうと考えています。

吉岡:採用の仕組み化を進め、組織で取り組まれるということですね。他の先生方は、採用の専任者は置かれていますか?
鈴木:弊所の場合は、広報・マーケティングと兼任ですが採用担当者はいます。社内の明るく前向きな雰囲気が伝わるよう、職員たちへのインタビューや社内イベントなどの様子をSNSでどんどん発信しているので、それを見て応募してくれる人も多いですよ。
鶴田:弊所は他の業務と兼務している人事の担当者が3名いて、新卒と中途で担当を分けています。今期は半年経過時点で27名採用しました。新卒は10名採用予定で、現状は8名に内定を出しています。全体では45名の採用を計画しており、そのうち35名が税務、労務、後は司法書士やリスクマネジメント担当というイメージです。階層で言うと、税務のマネージャークラスが2、3名採れたら理想で、残りは中堅どころの人材と、内勤の処理部隊を数名という感じで考えています。

吉岡:ありがとうございます。経験者、マネージャークラスの採用にはエージェントを使われているのですか?

鶴田:はい、エージェントですね。ビズリーチなどの媒体も使っていますが、人材紹介会社の方が多いです。そういえば先日、出身大学の会計系ゼミの先生にご挨拶に伺ったのですが、そうしたら開口一番、「学生は税理士を見ていないよ」と言われてしまいました。確かに、最近は税理士の合格者数が減っている一方で、公認会計士の合格者数は増加しています。それに加えて、そもそも採用のために大学にアプローチしてくる会計事務所がないそうです。「鶴田さんのとこが久しぶり」と。一方で、BIG4や公認会計士協会は大学に必死に営業に来るらしく、「もっと税理士業界も頑張らないとだめだよ」とアドバイスをいただきました。結局、授業を1コマ、税理士の仕事について紹介する機会をいただいたのですが、大学にもしっかりアプローチしないといけないなと痛感しましたね。

才木:高校もそうだという話を聞きますね。県立岐阜商業という全国でも優秀な商業高校があるのですが、そこはこれまで生徒を税理士に誘導していたけれど、いまは会計士を勧めているという話を聞きます。地元の朝日大学や中央大学と提携しており、優秀な人はそちらに進学して会計士を目指すそうです。全国的に同じような現象が起きているのではないかと予想しています。

吉岡:会計士の志望者が増えている理由について、どうお考えですか?
鶴田:これは私見ですが、会計士を受験するほうが“タイパ”が良いからだと思います。会計士試験は難易度は高いですが、きちんと勉強すれば一発合格することができます。税理士試験は5科目合格するのに時間がかかる上、実入りが少ない。要はそういうことではないでしょうか。
小西:税理士と会計士では初任給が全然違いますものね。福岡でも税理士を受験する学生はどんどん減っている実感があります。

吉岡:現状を変えていくには、試験制度から見直す必要があるのかもしれません。
鶴田:それに、税理士の仕事の面白さ、素晴らしさを啓蒙する活動も必要だと思います。そうしないと、この業界はずっと中途の取り合いが続いていきます。すでに少ないパイを取り合っている状態ですから、いまのままではもっと酷くなるばかりでしょう。

吉岡:採用におけるライバルは“近隣の競合事務所”ではなく、「あらゆる業種の企業と人材を取り合っている」という意識を持って、組織の改善や条件面の見直しを行う必要がありそうですね。

採用・教育・評価について【2024年 1年間】
御堂筋SS総合グロースリンクアーリークロス
新卒採用0名0名8名11名
中途採用12名14名35名34名
一人当たりの採用単価173万円100万円195万円100万円
中心となる施策【中途】
紹介会社、リファラル、一部スカウティング会社
・自社採用サイトのコンテンツを充実
・Instagram採用アカウントにてタイムリーな情報発信
→求職者に入社後の成長イメージ、一緒に働く先輩のいきいきとした様子を伝え安心感を持ってもらう
・エージェントと連携し採用ペルソナに近い方の紹介を依頼
【中途】
紹介会社への働きかけ、スカウトの活用、TAC大原の説明会参加
【新卒】
1dayインターン、代表登壇の説明会、メンター制度、財務分析ワーク
・WEBでの発信
・媒体
・スカウト
・人材紹介
・リファラル
やれるものは何でもやる
利用媒体・
利用紹介会社
【紹介会社】
MS-Japan、ジャスネット、ヒューレック、ビズリーチ、レックス、Green(IT)、ミツカル、ヤマトヒューマンキャピタル(M&A)、マイナビ、リクルート、CPA、パーソル、ヒュープロ

【人材紹介】
リクルート、パーソルキャリア、ヒュープロ、MS-Japan、アシロ、ミツカル、CPA
【媒体】
Indeed、求人BOX
【紹介会社】
リクルート、パーソル、ヒュープロ、MS-Japan、経理サポートスタッフ、OPS、アシロ、ミツカル、ワークポート、ヒルストン、テスコ、人材ドラフト
【媒体】
ビズリーチ、doda、リクナビ、ハロワ、HP、Indeed
ビズリーチ
人材紹介は複数
入社後1年以内の教育
(オンボーディング)施策
月一の上長の1on1、管理部の1ヶ月面談、代表の3ヶ月面談、中途スタッフは毎週30分の代表面談(WEB)入社後2週間にわたる価値観教育や、1年間の育成計画に沿ったOJT指導など、未経験から安心して働ける社内体制を整備税務オペレーション事業部配属
新入社員研修等を経て、11月にTKC巡回監査士補試験・ロープレ試験実施
人事・システム研修2日間、その後は各部でオンボーディング研修、OJT
新卒は人事研修を2ヶ月、その後は各部でオンボーディング研修、OJT
人事評価制度業績評価(売上)、能力評価、クレド評価、プロセス評価(目標管理)の4つの評価で6グレードに評価業績連動ではなく、理念や人間力、指導力等のバランスを考えた評価今期よりシステムを導入、試験運用中半期に一度
等級制+業績評価
※各事務所とも、共通して費用も手間も掛けている。
小西先生の言葉通り、採用に関しては「やれることは何でもやる」ことをしないと生き残れない。

昨今の集客トレンドはWebマーケティングであるが、 会計業界においてはWebマーケティングと紹介営業の「バランス」が重要だ。
Webマーケティングを展開して「仕組み」で簡単に取る一方、顧問先・ルート機関などからの紹介を通じた「人脈」でも安定的に取れるような、集客活動の二刀流戦略が今後のスタンダードになるだろう。
また、採用面でも、戦略的な取り組みが必要になってきている。人事部門を設置して専担者を配置している事務所が、圧倒的な採用力を武器に、企業として急速な成長を遂げているのは、まぎれもない事実だ。
会計事務所の競争相手は同業他社だけではない。人材獲得のために、周辺業界も含めた一般企業との競争に勝たなければならないのだ。そのためにも、彼らと対等に戦える人事部門を早期に組織化する必要があるだろう。
吉岡 高広

プロフィール
さいき・まさゆき

「クライアントの真の社外取締役でありたい。」大阪府立大学卒業後、税理士小笠原士郎事務所(現御堂筋税理士法人)に入社、10年間は税務業務、財務コンサルティング業務を中心、その後は、税務業務全般と企業組織変革、営業チームマネジメントコンサルタントとして業務を遂行。またセミナー講師としても三菱東京UFJリサーチ、大阪商工会議所等に登壇。現在は、御堂筋税理士法人代表社員(CEO)として、組織のマネジメント業務も行っている。

すずき・ひろのり

同志社大学法学部・法学研究科卒。税務、財務コンサルティングに加え、コーチング・経営計画・経営会議を通じたマネジメントアドバイザリーサービス(MAS)を得意とする。SS総合会計グループの二代目経営者として、70人を超える社員・パートスタッフとともに500社を超える中小企業の顧問をしている。近時では、地元向けセミナーイベントSSフェスタで200人を超える集客に成功。顧問先に対して、日々経営指導に励んでいる。若手経営者向け経営塾「経営輝塾」を37期まで開催。また中小企業のみならず、同業者である税理士のビジョンも叶えるべく、東京・大阪・名古屋・福岡など日本各地でセミナーを行い、MAS事業化・人材育成等会計事務所の仕組化を全国に広げている。これらを通じてSS総合会計グループのブランディング活動を積極的に行っている。著書に『デキる二代目社長は知っている事業承継5つの鉄則』がある。

つるた・ゆきひさ

1975年、愛知県岡崎市生まれ。岡崎高校、名古屋市立大学卒。税理士、中小企業診断士、M&Aアドバイザー、医療経営コンサルタント。2006年に独立開業し、2012年に税理士法人鶴田会計を設立。2020年4月に社名をグロースリンク税理士法人に変更し、同5月に名古屋の新たなランドマークとして注目を集めるグローバルゲートへ移転。

こにし・しんたろう

慶應義塾大学 経済学部在学中に公認会計士試験に合格。卒業後はあらた監査法人(現:PwC Japan有限責任監査法人)で監査業務に従事。その後2012年に独立し、小西公認会計士事務所を開業。2018年に税理士法人アーリークロスを設立し、代表社員に就任。従業員数20名規模から160名を超える規模へと組織を拡大させる。会計事務所博覧会2022特別セミナー『若き税理士 プロ経営者としての「思考と展開」 驚異的な成長を遂げる事務所は“何か”が違う』への登壇をはじめ、講演・メディア掲載実績多数。

  

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