比準要素1の評価を避けたら6項適用<気になる税務トピックVol.29>
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.133(2024.11)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
比準要素1の評価を避けたら6項適用
国税不服審判所HPの「公表裁決事例集等」でいくつか興味深い裁決が公表されている。まず取引相場のない株式の評価について総則6項が適用された事例だ。
近く相続が予想される被相続人が保有する取引相場のない株式は、現状だと比準要素1の会社に該当し、このまま放置すると被相続人の持株の総額は34億円と試算された。過去4期連続で営業損失であり比準要素が「純資産」しかなかった。
相続税対策のために金融機関を通じて紹介してもらった税理士は、少しだけ配当を実行し、決算期を変更して「直前期」を作り出せば、いわゆる中会社に区分され株式の評価額が10億円程度安くなると提案。
ただし、否認される可能性が高いと税理士は説明した。これに対し納税者や金融機関の担当者はチャレンジすることを希望した。課税庁は総則6項により純資産価額40億円と評価して更正処分。ということは比準要素1の場合のLの割合を25%使うことも認めなかったということか。課税処分は適法とされ6項が肯定されている。
● 比準要素1で評価 34億円
● 対策後の中会社評価 21億円
● 6項による純資産評価 40億円
比準要素1の会社を避ける対策は税理士なら考えるはずだ。ただ、メールのやり取りで「相続対策スキームに係るメリットやリスクについて十分理解した上で、実施可能な事柄につき、請求人、本件税理士法人及びT銀行の三者が一体となって取り組んでいた」ようだ。そうなると否認リスクを分かって実行したのだから課税庁も否認しやすいだろう。
アイデアを提供し依頼者の役に立ちたい専門家としての心理と、否認されるリスクを説明し実行しないようアドバイスすべき義務。この間で判断するのが税理士だが、節税だけを目的にした手法はやはり否認されるものと考えるべきだろう。
市街化調整区域内の宅地について
「地積規模の大きな宅地」に準じた評価を否認
もう一つは、市街化調整区域のうち都市計画法第34条第12号の規定に基づき開発行為の対象となる宅地について、たとえ住宅の分譲のための開発行為が可能な区域に所在していたとしても「地積規模の大きな宅地」に準じて評価することはできないとした事例だ。
「あれ、規模格差補正は形式基準で判定できるはずでは」と思ったのだが、市街化調整区域で地積規模の大きな宅地に準じた評価が可能なのは、都市計画法第34条第10号又は第11号に基づき宅地分譲に係る開発行為ができる区域だと規定されており、本件ではこれらに含まれない12号区域に所在する宅地だったとのこと。
12号の開発行為は、分家に伴う住宅・収用対象事業の施行による移転等による建築物・社寺仏閣・研究施設等の建築物の用に供するものが予定されているから、戸建住宅用地としての分割分譲が法的に可能であり、かつ、戸建住宅用地として利用されるのが標準的である地域に所在する宅地には該当しないとして、通達で異なる取扱いとしていることは合理的なものと判断。本件の土地を「地積規模の大きな宅地」に準じて評価することはできないとしている。
通達を細かく読み込んで評価しないと失敗してしまうと言う事例だ。
白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。