令和6年度に新設された生産方式革新事業活動用資産等の特別償却制度とは
令和6年度の税制改正により、生産方式革新事業活動用資産等の特別償却制度が創設されました。
この制度は、スマート農業を促進するために、スマート農業に取り組む農業者に対して、税制上の優遇措置を講じるもので、スマート農業技術活用投資促進税制とも呼ばれています。スマート農業技術とは、ロボットトラクター、農業用ドローン、自動収穫機、スマート選果システムといった技術です。
生産方式革新事業活動用資産等の特別償却制度を利用するための要件について解説します。
目次
- 生産方式革新事業活動用資産等の特別償却制度の対象となる農業者とは?
- 生産方式革新実施計画の認定基準
- 生産方式革新事業活動用資産等の特別償却制度
- 生産方式革新実施計画の認定を受けるメリットのまとめ
- まとめ
生産方式革新事業活動用資産等の特別償却制度の対象となる農業者とは?
生産方式革新実施計画の認定を受けることが前提となります。
まず、生産方式革新事業活動とは、
- スマート農業技術の活用
- 農産物の新たな生産の方式の導入
この2つをセットで相当規模で行い、農業の生産性を相当程度向上させる事業活動
と定義されています。
こうした生産方式革新事業活動を行おうとする農業者又はその組織する団体は、農林水産大臣に生産方式革新実施計画の認定申請を行うことができます。
認定を受けることにより、特別償却制度の適用を受けられるということです。
生産方式革新実施計画の認定基準
生産方式革新実施計画の認定基準は次のとおりです。
- スマート農業技術を活用して農産物の生産又は農業経営の管理に取り組むこと
- スマート農業技術の導入に合わせて農産物の新たな生産の方式の導入に取り組むこと
- これらの事業活動の全てに相当規模で取り組むこと
農産物の新たな生産の方式とは
スマート農業技術を導入するだけでなく合わせて、新たな生産の方式を取り入れる必要があります。
具体的には、次の3つのいずれかに該当することが求められています。
- スマート農業技術を活用した作業効率の向上に資するほ場の形状、栽培又は飼養の方法、品種等の導入
- スマート農業技術の活用による機械化体系に適合した農産物の出荷方法の導入
- スマート農業技術で得られるデータの共有等を通じた有効な活用方法の導入
例えば、
- ロボットトラクターの導入とともにターン農道を整備して、ロボットトラクターが旋回しやすい環境を整備する。
- 自動収穫機の導入とともに鉄コンテナで貯蔵、出荷までできる体制を整える。
- スマート選果システムの導入とともに得られたデータを共有して、比較分析し、次期の栽培方法の検討に役立てる
といったような取り組みです。
相当規模とは
相当規模とは、次の2点を満たしていることが求められます。
- スマート農業技術活用により生産する農産物の作付面積又は売上高が当該農業者等の行う農業に係る作付面積又は売上高のおおむね過半となること。
- スマート農業技術の活用に要する費用に比して、その活用による農作業の効率化等の効果が十分に得られる内容になっていること。
また、事業活動の継続性や波及性からして、2以上の農業者等が有機的に連携して取り組むことが望ましい。とされています。
生産方式革新事業活動の目標
生産方式革新事業活動の目標も設定されています。
農業の労働生産性を原則5年以内に5%以上向上させる目標を設定することとされています。ただし、果樹等の植栽又は育成を伴う場合その他特段の事情を有する場合には10年以内で設定することもできます。
なお、農業の労働生産性は、「付加価値額(農業所得・営業利益+人件費+減価償却費)/総労働時間又は労働人数」で算出します。
さらに、計画全体で農業に係る所得が実施前と比較して維持され、かつ、黒字化することが求められています。
生産方式革新事業活動用資産等の特別償却制度
生産方式革新実施計画に記載した機械及び装置、器具及び備品、建物及びその附属設備並びに構築物について、特別償却制度が適用されます。
具体的には、
- 機械及び装置、器具及び備品のうち、「農作業の効率化等を通じた農業の生産性の向上に著しく資する一定のもの」は、取得価額の32%
- 機械及び装置のうち、「農業者等が行う生産方式革新事業活動の促進に特に資する一定のもの」は、取得価額の25%
- 建物及びその附属設備並びに構築物のうち、「農作業の効率化等を通じた農業の生産性の向上に著しく資する一定のもの」は、取得価額の16%
について、それぞれ、特別償却することができます。
簡潔化すると次のようになります。
機械装置、器具備品 | 32%(一部25%) |
建物等、構築物 | 16% |
なお、取得価額は、次の額の合計額で算出します。
- 当該資産の購入代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税、その他当該資産の購入のために要した費用)
- 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
また、消費税は、税込経理であれば消費税を含んだ金額、税抜経理であれば消費税を含まない金額で計算します。
特別償却制度適用の具体的イメージ
特別償却制度を適用することで、スマート農業機械等の導入当初の年度に通常の償却額に一定額を上乗せして損金に算入できるようになります。
例えば、耐用年数7年のスマート農業機械を1,400万円で導入した場合で考えましょう。通常は、200万円ずつ7年間かけて償却していくことになります。
特別償却制度を適用することで、初年度償却額の200万円に加えて、「取得価額✕32%」を上乗せできるようになります。つまり、初年度償却額は、200万円+(1,400万円✕32%)=448万円とすることができます。
その結果、税率15%の法人の場合、初年度の税負担が最大で448万円✕15% =約67万円軽減されるということです。
特別償却制度の対象者
特別償却制度の対象者は次の2者です。
- 生産方式革新実施計画の認定を受けた農業者等
- 当該農業者等と密接不可分な取組を行うスマート農業技術活用サービス事業者又は食品等事業者
この内、スマート農業技術活用サービス事業者、食品等事業者は機械装置のみが特別償却制度の対象となり、特別償却率が25%になります。
特別償却制度の対象期間
スマート農業法の施行の日から令和9年3月31日までの間に機械及び装置、器具及び備品、建物及びその附属設備並びに構築物を導入し、供用を開始した場合に対象となります。
特別償却制度を利用するための要件
特別償却制度を利用するためには、生産方式革新実施計画の認定要件を満たすことが求められます。
さらに、スマート農業技術活用サービス事業者、食品等事業者については、
- 生産方式革新実施計画の実施期間が7年以上であること
- 生産方式革新事業活動が、総作付面積又は総売上高のおおむね8割以上を占めること
- 栽培体系を大きく変更する取組や品種の変更又は収穫の機械化等の取組の作付面積又は売上高が、生産方式革新事業活動の過半を占めること
これらの要件も満たしている必要があります。
特別償却制度の対象となる機械等について
特別償却制度の対象となる機械及び装置については、7年以内に販売されたものとされています。新品のみが対象とされ、中古品は対象外となっています。また、機械等を修繕した場合も対象外とされています。
リースにより取得した機械等については、「所有権移転リース取引」は対象となりますが、「所有権移転外リース取引」「オペレーティングリース」は対象外とされています。
また、生産方式革新実施計画認定前に取得した機械や着工した設備は対象とならないので注意が必要です。計画の認定を受けた後で、機械を取得したり、設備を着工する必要があります。
生産方式革新実施計画の認定を受けるメリットのまとめ
生産方式革新実施計画の認定を受けることで、生産方式革新事業活動用資産等の特別償却制度(スマート農業技術活用投資促進税制)の適用を受けられますが、それ以外にもメリットがあります。
簡単にまとめておきましょう。
- 日本政策金融公庫から長期低利の融資を受けられる:償還期限25年以内、据置期間5年以内と言った有利な条件で融資が受けられます。
- 野菜法の特例:指定産地外の農業者等も契約指定野菜安定供給事業に参加できるようになります。
- 航空法の特例:農業用ドローンのための航空法上の許可・承認の手続きがワンストップ化されます。
- 農地法の特例:農地法に基づく届出がワンストップ化されます。
その他、生産方式革新実施計画の詳細は農林水産省のサイトで紹介されているので参考にしてください。
まとめ
令和6年度の税制改正により、創設された生産方式革新事業活動用資産等の特別償却制度(スマート農業技術活用投資促進税制)は、生産方式革新実施計画の認定を受ける事が前提となります。
この認定を受けるためには、様々な要件を満たすことが求められ、農業者だけで対応できないこともあります。
会計事務所や税理士事務所としては、生産方式革新実施計画の認定要件を調査したうえで、必要に応じてサポートしていくことが求められます。
税理士.ch 編集部
税理士チャンネルでは、業界のプロフェッショナルによる連載から
最新の税制まで、税理士・会計士のためのお役立ち情報を多数掲載しています。
運営会社:株式会社ビズアップ総研
公式HP:https://www.bmc-net.jp/