令和6年度の適格現物出資の見直しの2つのポイントを解説します

令和6年度の税制改正により適格現物出資の見直しが行われました。

主な改正点は2点です。

一つ目は、適格現物出資の対象となる現物出資の範囲の見直しです。内国法人の海外支店等が外国法人に対して行う無形資産の現物出資は適格現物出資の対象外になります。

二つ目は国内資産と国外資産の内外判定の基準見直しです。これまで国外資産とされていたものでも国内資産と判定されて、適格現物出資の対象外になる可能性があります。

これらの改正は令和6年10月1日以降に行われる現物出資から適用されました。

目次

適格現物出資の対象範囲の見直し

令和6年度の税制改正により、適格現物出資の見直しが行われることになりました。適格現物出資で見直しの対象となるのは、クロスボーダー現物出資です。まず、現物出資、適格現物出資、クロスボーダー現物出資について再確認しましょう。

現物出資とは

現物出資とは、会社設立時の資本金への出資、会社の資本金の増資等の際に、金銭以外の財産を出資することです。

現物出資できる財産は、譲渡できる、かつ、貸借対照表に資産として計上できるもので、次のようなものが代表例です。

  • 動産:商品、原材料、機械、パソコン等OA機器、事務用品、自動車等
  • 不動産:土地、建物、マンション、地上権、賃借権等
  • 有価証券:株式、社債券、国債証券、地方債証券等
  • 知的財産権:著作権、商標権、特許権、実用新案権、営業権、鉱業権等
  • のれん:得意先関係、仕入先関係、営業上のノウハウ等
  • 金銭債権:会社への貸付金債権等
  • その他:営業の全部又は一部

手元に現金がない場合でも、出資、増資が可能になったり、現物出資した資産を会社の資産とすることで減価償却が可能になるといったメリットがあります。

ただ、現金の出資に比べて、手続きがやや複雑ですし、税制面で注意すべきこともあります。

クロスボーダー現物出資とは

クロスボーダーとは、国境を超えた取引のことです。

そして、クロスボーダー現物出資とは、

  • 内国法人である日本企業が外国法人に現物出資を行うこと。
  • 外国法人が内国法人である日本企業に現物出資を行うこと。

この2つのケースを意味します。

適格現物出資、非適格現物出資とは

現物出資のうち、税制適格要件を満たした現物出資のことです。

  • 出資者が法人であること
  • 被現物出資法人から現物出資法人への対価として株式のみが交付されたこと

更に、被現物出資法人と現物出資法人の関係が、完全支配関係(100%グループ内)か、支配関係(50%超100%未満) か、 共同事業かに応じて、一定の要件を満たした場合は、適格現物出資になります。

一方、出資者が個人の場合や法人でも税制適格要件を満たしていない場合は、非適格現物出資となります。

適格現物出資の場合は、現物出資した資産の含み損益は実現しないため、現物出資法人と被現物出資法人のどちらにも法人税が課税されません。

一方、非適格現物出資の場合は、出資者の下で資産と負債の含み損益の精算が行われ、個人なら所得税、法人なら法人税が課税されます。

クロスボーダー現物出資の税制適格

内国法人が国外の外国法人に国内資産等を現物出資する場合は、原則として、非適格現物出資となり、含み益に対して法人税が課税されます。現物出資に係る資産が国外へ流出し、日本の課税権が失われるためです。

なお、内国法人が外国法人の株式を一定以上保有している場合や、日本国内にある外国法人のPE(恒久的施設)に対して現物出資する場合などは、適格現物出資となります。

また、外国法人が内国法人やその他の外国法人に、国外にある資産、負債等を現物出資する場合は、原則として非適格現物出資となります。現物出資に係る資産等の含み損が持ち込まれ、租税回避に利用される懸念があるためです。

一方、内国法人が国外に支店等を有しており、その国外支店が保有する国外資産等を外国法人に現物出資することは、国外から国外への資産の移転であり、日本の課税権に変化がないため、原則として適格現物出資とされていました。

令和6年度の適格現物出資の見直しの対象は?

令和6年度の適格現物出資の見直しの対象となったのは、内国法人の国外支店が保有する国外資産等を外国法人に現物出資する際の適格現物出資の対象となる資産の範囲です。

既に述べた通り、国外資産等の移転は、原則として、適格現物出資の対象とされています。

この点に変わりはありませんが、現物出資する資産が「無形資産等」の場合は、適格現物出資の対象外とされました。

無形資産等は、容易に移転できる一方で、国外資産でも価値の創出が国内で行われることもあります。そのため、内国法人の資産の含み益が国外へ持ち出されることを防止することが目的です。

移転資産改正前改正後
国内資産等非適格非適格
国外の有形資産等適格適格
国外の無形資産等適格非適格

適格現物出資の対象外となる無形資産等とは

適格現物出資の対象外となる「無形資産等」とは次の資産のことです。

  • 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式又はこれらに準ずるもの(これらの権利に関する使用権を含む。)
  • 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)

これらの資産の譲渡、貸付け、使用等の際に対価が発生するものであれば、「無形資産等」に該当します。

「国内資産等」と「国外資産等」の内外判定の見直し

令和6年度の税制改正では、現物出資する資産が「国内資産等」と「国外資産等」のどちらなのかに関する内外判定基準が見直されました。

改正前の内外判定

改正前の「国内資産等」と「国外資産等」の内外判定は、現物出資する資産が、国内と国外のいずれの事業所の帳簿に記載されているのかにより判定していました。

具体的には、

  • 国内の本店等や国内事業所等の帳簿に記載されていれば、「国内資産等」
  • 国外の支店等や国外事業所等の帳簿に記載されていれば、「国外資産等」

と判定されていました。

令和6年度税制改正後の内外判定

令和6年度税制改正後の「国内資産等」と「国外資産等」の内外判定は、現物出資する資産が、国内と国外のいずれの事業所を通じて行う事業に係る資産なのかにより判定することになりました。

具体的には、

  • 内国法人の国内事業所等を通じて行う事業に係るものであれば、「国内資産等」
  • 外国法人の本店等若しくは内国法人の国外事業所等を通じて行う事業に係るものであれば、「国外資産等」

と判定されることになります。

なお、国内事業所等とは、

  • 内国法人の場合は、本店等(その内国法人の本店、支店、工場その他これらに準ずる一定のものであってその国外事業所等以外のもの)
  • 外国法人の場合は、国内の恒久的施設

をそれぞれ意味しています。

また、外国法人の本店等とは、外国法人の本店、支店、工場その他これらに準ずる一定のものであって恒久的施設以外のもの。

国外事業所等とは、

  • 日本が恒久的施設に相当するものに関する定めについての租税条約を締結している条約相手国等についてはその租税条約の条約相手国等内にあるその租税条約に定める恒久的施設に相当するもの
  • その他の国又は地域についてはその国又は地域にある恒久的施設に相当するもの

をそれぞれ意味しています。

「国内資産等」と「国外資産等」の内外判定の見直しによる影響

令和6年度税制改正前において国外の支店の帳簿に記載されていて、「国外資産等」と判定されていたとしても、国内の本店を通じて行う事業に係る資産であれば、改正後は、「国内資産等」に該当することになります。

よって、国外の支店の帳簿に記載されている資産を国外の外国法人等に現物出資した場合でも、適格現物出資の対象外となるケースがあるということです。

まとめ

令和6年度の税制改正による適格現物出資の見直しについては次の2点を押さえましょう。

  • 適格現物出資の対象となる現物出資の範囲の見直しにより、内国法人の国外支店等が外国法人に対して行う無形資産の現物出資は適格現物出資の対象外になる。
  • 国内資産と国外資産の内外判定の基準見直しにより、これまで国外資産とされていたものでも国内資産と判定され、適格現物出資の対象外になる可能性がある。

税理士事務所、会計事務所としては、顧問先が海外に支店を有しており、積極的に現物出資などを行っているケースでは、今回の改正の影響を受ける可能性があるため、周知する必要があります。

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