資産売却を行って黒字を計上<銀行員が教える!企業決算書はこう見ている Vol.1>

井村 清志

2021/7/18

銀行での融資審査は多くの場合、決算書の分析による返済可能性に重点を置いています。極論を申し上げると、決算 書の1つである損益計算書について黒字であれば返済可能性があり、赤字であれば返済可能性がないということになります。もっとも、銀行は黒字か赤字かだけで融 資審査を行っているわけではありませんが、少なくとも黒字のほうが赤字に比べて審査のハードルは低くなるといえます。

このようなこともあり、顧問先の多くは、黒字か赤字かを銀行から融資が受けられるかどうかという観点からとても気にしています。

一過性の収益はないものとして判断する

以下の図をご覧ください。これはある中小企業(以下、A社とする)の損益計算書です。これを見て、銀行員は黒字と赤字のどちらと考えると思いますか?

 損益計算書

正解は「赤字」です。確かに当期純利益は149千円の黒字となっていますが、銀行員は実質的に赤字だと考えます。営業利益が4,233千円の赤字になっているからです 。A社はこのままだと銀行から融資が受けにくくなると考えて、保険を解約しその解約金を営業外収益の雑収入として計上しました。「雑収入7,598千円」と記載されているのがそれです。つまり、このままだと赤字決算になってしまうために、保険を解約して黒字にしたわけです。

確かに、保険という資産を持っていたということはA社の実力の1つだと考えることができます。ただし保険の解約は毎期、恒常的に発生するものではありません。 一過性の収益は文字通り一過性のものですから、A社の損益について真の実力を示すものではありません。

銀行が行う融資審査においては、一過性の収益はないものとして判断します。真の実力はどうなのかを判断の前提にしたいわけです。一過性の要因を除いた利益のこ とを実質利益などと呼んでいます。A社の場合は、営業利益が4,233千円と赤字でした。営業利益というのは事業そのものから生み出される利益の水準です。まさに収益性の実力を示すものといえるでしょう。

資産売却を行って黒字を計上することも

また、経常利益も会社の収益性の実力を示すものといわれています。A社の場合は保険解約を営業外収益に計上して最終黒字を図りましたが、経常利益も赤字の場合 には、固定資産の売却などを行って売却益を特別利益に計上して最終利益、つまり当期純利益を黒字にしている例も見受けられます。固定資産の売却もあくまで一過 性の要因です。この場合も実質的には赤字であると銀行員は考えます。

先ほども説明しましたが、利益を捻出できる資産を持っていたというのは会社の実力を示すものです。しかし、いつまでも資産売却による利益捻出ができるわけでは ありません。表面的な赤字を回避するよりも、どのようにして本業での収益性を確保しているかが重要といえるでしょう。

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