<第5回> AI時代に伸びる会社の共通点
~AI時代の社長・経理・税理士の連携体制の作り方~

AI時代に伸びる会社の共通点

「正直者が損をする」。ビジネスの世界では、このようなことも現実にはあります。しかしこれからはAIの登場によって「正直者が得をする」時代になっていくことでしょう。

なぜなら、AIは「嘘のないデータ」「正直なデータ」と最も相性が良いからです。

嘘のないデータ、正直なデータというのは、前回お伝えした会計上のミスや漏れ、不正といった観点だけではありません。サービス残業によって得られた売上も「嘘の売上データ」になりますし、社長や上司が部下にハラスメントを行いながら無理やりあげた売上も「嘘の売上データ」になります。また、発注先に不当な契約を突き付け、圧力をかけて減額させた上での原価も「嘘の原価データ」であり、それらによって生み出された利益も「嘘の利益データ」です。

このようなモラル的に「正しくない」データをAIで分析したところで、AIからモラルのある正しい分析結果を得ることはできません。AIに正しい分析結果を求めるのであれば、大前提として、「人間が正しくなければならない」のです。そのため、「いかに正直で誠実な組織を作れるか」がAI時代には非常に重要になってきます。

そのような組織作りに必要なこと、それは「敬意」です。敬意のある組織が保有するデータは、無理のない正しい行動によって導き出されたデータですから、数字も正しいはずです。そのデータをAIに取り込めば、より良い分析結果や今後の提案を出してくれ、それを実行することで会社はさらに飛躍していくことでしょう。その一方、敬意のない組織のデータは、歪んだ無理な行動によって導き出されたものですから、数字も正しくありません。敬意のない会社が取り込んだデータに対して、AIは無難な答えは出すものの、それを会社が実行しても良い結果を得ることは難しいはずです。

また、これからのAI時代は、マネジメントの仕方も根底から変わることが予想されます。これまでは「強い社長や上司」がトップダウンで部下にゲキを飛ばし、売上や利益を確保するということも現実にはありました。しかし、そのような指導が行き過ぎると、プレッシャーに耐えかねて架空売上を計上する、発注先に法令違反を犯してまでも過度な圧力をかけてコストを減額させる、という不正を起こす社員も出てきます。このように、過度なプレッシャーを受けた社員は叱られないように数字の見栄えを良くしようと「嘘のデータ」を提出してしまう恐れがあるのです。

正直なデータを保持するためには、法定時間内で働いてもらい、それぞれの社員の努力の結果を、それが良い数字であろうが見栄えの悪い数字であろうが関係なく「正直なデータ」としてAIで分析する。そしてその結果に人間の判断も加えて、トライアンドエラーを繰り返して経営改善をしていく。このような新しいマネジメントスタイルがAIと相性が良く、AI時代に台頭してくるのではないかと思います。

そしてこのような正しい経営・行動による、正しい数字の収集・維持には、「社長-経理社員-税理士」この3つのラインが極めて重要です。

現実によくある事例として、現場社員が金銭的な不正やハラスメントなどを起こした際、経営者の中にはそれらを厳正に対処せず、うやむやにして現実から「目をそらしてしまう」方がいます。これまではそれでごまかせたかもしれませんが、こうした判断は「嘘のデータを野放しにする」ことに直結します。AIを活用するこの時代において、社長自らが会社を不利な経営環境へと誘導し、経営リスクを高めることになってしまうのです。

そのため、「常に社員に正しい指示を出し、自らも常に律して正しい言動を心掛けることができる社長」がAI時代の理想の社長像の「ベース」といえます。しかし現実にはこれは極めて高いハードルです。社長も一人の人間ですから心が揺らぐこともあれば迷うこともあります。だからこそ、そのような社長を支えるべく、正しい計数管理・処理ができる経理社員、そしてそれらの企業データが正しいか否かを客観的にチェックし、アドバイスができる税理士の存在が何より大切なのです。ただ、経理社員と違い、税理士の先生方は毎日社長と一緒にいるわけではありません。そのため、社長の口から出た話が真実か否かを瞬時に判別することは容易ではないのです。

だからこそこれからは、クライアントの社長が税理士の先生方に良いことも悪いことも「正直な会社の現状を話せる」関係性を築いていただくことが何より重要な時代になります。患者が医師に正直に自覚症状を言わなければ、医師も良い診断や治療、アドバイスができないのと同じで、社長が正直に税理士の先生に事実を伝えてくれなければ、先生方も最適な分析やアドバイスができないからです。AIの時代になるほど、「人間同士の信頼関係」が、より一層重要になっていく時代となることでしょう。

前田 康二郎

経営データ戦略アドバイザー・作家/流創株式会社代表取締役。
学習院大学経済学部経営学科卒業。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長兼IPO担当として株式上場を達成。その後、中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は、AI導入前の社内体制構築・経営データ整備支援など、多岐にわたりコンサルティング、研修、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)他多数。Podcast番組『THE VENTURE』 パーソナリティ。

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