民事裁判がデジタル化します
<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.47>
昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.151(2026.5)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
以前このコラムで、はじめて訴状を受け取った企業の方に向けて民事訴訟の初動対応を解説しました。その際は、裁判所から届く封筒の中身は紙の訴状や呼出状であり、答弁書もFAXや郵送で提出するという流れをご説明しました。しかし、本年(2026年)5月21日に改正民事訴訟法が全面施行され、この風景が大きく変わります。
民事裁判のIT化は段階的に進められてきました。すでに定着しているのが、裁判期日へのウェブ会議による参加です。弁論準備手続や和解期日は2023年3月から、口頭弁論は2024年3月から、ウェブ会議での参加が認められており、私自身も弁護士として日常的にウェブ会議で期日に出席しています。また、裁判所の「mints(ミンツ)」というオンラインシステムを通じた準備書面や証拠の電子提出も、すでに多くの事件で活用されるようになっています。では、5月21日から何が変わるのでしょうか。ポイントは大きく二つあります。
一つ目は、訴訟の提起自体がオンラインでできるようになることです。これまでは、準備書面や証拠はmintsで電子提出できましたが、肝心の訴状については紙で裁判所に持参するか郵送する必要がありました。改正後は、mintsを通じて訴状の提出、つまり訴えの提起自体をオンラインで行えるようになります。手数料の納付もオンラインでの電子納付に移行し、収入印紙を購入して貼付するという従来の方法からも変わることになります。
二つ目は、弁護士によるmintsの利用が義務化されることです。これまでmintsの利用は任意であり、双方の代理人が希望する場合にのみ使われていました。改正後は、弁護士が訴訟代理人として活動する場合にはmintsによるオンライン提出が義務となります。あわせて、裁判所からの判決書等の送達もmints上で電子的に行われるようになります(システム送達)。弁護士の側では、mintsにアップロードされた送達書類を閲覧した時点、または閲覧可能になってから1週間が経過した時点で送達の効力が発生するため、控訴期間などの期限管理をより慎重に行う必要が生じます。なお、被告に初めて訴状を届ける最初の送達は従来通り紙の特別送達で行われますので、ある日突然裁判所からの茶封筒が届くという場面は変わりません。
企業にとっては、裁判の実務的な対応は弁護士が行いますので、直接mintsを操作する場面は多くないかもしれません。しかし、裁判手続全体がデジタルに移行していく中で、証拠として提出する社内文書についても電子データで適切に保管しておくことの重要性がこれまで以上に高まっています。紙の記録しか残っていないとPDF化の手間が発生しますし、そもそも保管期間の経過や紛失で記録が残っていないということもあり得ます。日頃から契約書や業務記録を電子的に整理し管理しておくことが、万が一の訴訟への備えにもつながります。裁判のデジタル化は企業活動のデジタル化の延長線上にあるものです。社内の文書管理の在り方についても、この機会に見直してみてはいかがでしょうか。
中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。
