コミュニティ・情熱・AIでニッチを攻めよ!
大家特化×独自AIで週休3日を実現。Knees bee・渡邊浩滋氏が語る生存戦略

Knees bee税理士法人 代表 税理士・司法書士 渡邊 浩滋
なんでも屋は不可能。
今の時代に適応する特化戦略とは
近年、税理士業界でも「特化戦略」の事務所が注目を集めるようになりましたが、
改めてそのメリットや必要性について渡邊先生のお考えをお聞かせください。

いまや税制は非常に多岐に及んでおり、毎年のように複雑な改正が入ります。これをすべての分野、すべての業種にわたって完璧に追いかけるというのは、実質的に不可能ではないかと私は考えています。無理に対象を広げれば、どうしても知識は表面的なものに留まります。 かつての税理士業界は、土日も関係なく研修を受けては、寝る間も惜しんで全分野を網羅するような職人気質の方々が主流でした。しかし、今の時代は残業を抑制し、労働環境を整えることが強く求められます。そのような環境下で、昔ながらの職人技をすべてのスタッフに強いるのには無理があります。
何よりも私が気になるのは、広く浅いサービスを提供することが「本当にお客さんのためになっているのか」という点です。例えば医療業界を見れば、内科、外科と専門分野が明確に細分化されていますよね。それにもかかわらず、税理士業界だけがいまだに「なんでもやってくれる人」というイメージから脱却できていません。税理士業界の細分化は他業界に比べて遅れていると感じています。
「なんでも屋」を続けることが、結果的に事務所の可能性を制限してしまう恐れがあるのですね。
その通りです。なんでも屋さんをイメージして手を広げても、それが相応の報酬に結びつかなければ、スタッフは、利益が上がらないのに業務量だけは多いという昔ながらの「丁稚奉公」のような働き方を強いられてしまいます。それでは今の時代、新しい人は絶対に採用できません。
もし渡邊先生が、大家業を営まれていたご実家の背景や司法書士の
資格(不動産の知見)を活かした「大家特化」を選んでいなかったとしたら、
どのようなニッチ分野を攻めていたと思われますか。
大家特化でなければ、私は「固定資産税特化」をやっていたかもしれないですね。実は過去に必要に迫られて勉強し、固定資産税の見直しに関する書籍を執筆した経験があるのですが、そのときに徹底的に調べて分かったのは、固定資産税の分野には本当に「プロが少ない」ということでした。
一般的な税理士試験にも固定資産税の科目はありますが、それを選択して合格している人はごく少数です。
しかも固定資産税は「賦課課税方式」といって、役所が計算した通知書をもらって納税する仕組みなので、税理士側も普段は自ら計算しません。では課税する市区町村の職員がプロかというと、彼らは固定資産税のプロになりたくて役所に入ったわけではなく、たまたまその部署に配属されただけ。つまり、これだけ複雑で増税されやすい税制であるにもかかわらず、誰も本当のプロではないという大きなブルーオーシャンが眠っているのです。

こういった非常に狭い領域であっても、徹底的に突き抜けて入り込めば、「こんな不動産をお持ちなら相続対策も大変ですね」というように、相続税や他の大きなビジネスの悩み事の相談へ繋げることができます。とにかくどんな領域でも、徹底的に狭く深く攻めることが、特化戦略の肝になります。
ニッチを攻めよ!
「特化」の探し方と陥りやすい罠
特定の業界や業種への特化を考えたとき、
そのジャンルに十分なニーズがあるかどうかを、どのように見極めればよいのでしょうか。
一つの判断基準として、その業界に「コミュニティ(集まり)」が形成されているかどうかを見るといいでしょう。大家さんであれば、全国各地に大家さん同士が集まるコミュニティや勉強会が存在します。集まる人数は、最初は10人、20人といった小さな規模でも構いません。それだけの規模であっても、同じ種類の困りごとを抱えている人たちが集まる要素があるということは、全国を見渡せば同じ悩みを抱えている人が膨大にいるという証拠であり、ビジネスとして広がる可能性を秘めています。例えば、自分がパン屋さんに特化しようと思うなら、まずはパン屋さんが集まるコミュニティがあるかを調べ、そこに飛び込んでいくのが一番の近道です。
これまでその業界に接点がなかった場合、
どのようにそのコミュニティに入り込んでいけばよいのでしょうか。
「税務の営業目的ではないか」と警戒されることはありませんか。
単に「税理士」という肩書きだけでいきなり入っていこうとすると、確かに警戒されるかもしれません。私の場合は自分自身も大家という同じ立場になったので溶け込みやすかったのですが、もしそうでないなら、語れる「情熱的なストーリー」が必要になります。
例えばパン屋さんであれば、自分自身が経営していなくても「とにかくパンが好きで、全国47都道府県のパン屋さんを食べ歩いて制覇しました」というような、語れるストーリーがあれば、必ず相手は受け入れてくれるはずです。そして、入り口は「業界のことが知りたいので教えてください」という姿勢で全く問題ありません。生の声を聞くことから始めればいいのです。 パン屋さんのオーナーは朝から晩まで仕込みや経営でとにかく忙しく、他店の繁盛理由などをリサーチする暇がありません。そこで自分が「繁盛店をリサーチしてきたので情報を共有します」とアプローチすれば、その情報には絶大な価値が生まれます。「この人は本気で自分たちの業界のことを考えてくれているんだな」という気持ちが伝わるかどうかがすべてです。最初は税務に限らないほうが、むしろ信頼に繋がります。
特化戦略を進めるうえで、最も失敗しやすい要因やハードルはどこにあるのでしょうか。
一番の失敗の要因は、途中で「ブレてしまうこと」です。特化すると決めても、初期の段階ではなかなか「認知化」が進まず、当然問い合わせが1件も来ない苦しい時期があります。ここをどう突破してターゲットに知ってもらうかが最初の関門です。

苦しいタイミングで、別の業種から「顧問をお願いします」と目の前に売り上げがぶら下がると、ついつい我慢できずに引き受けてしまうんです。そうやって一度特化外の案件に飛びついてしまうと、軸がブレ、最終的になんでも屋に戻ってしまい、いつまで経っても特化事務所として突き抜けることができません。特化を実現するためには、一定の「我慢の期間」が絶対に必要なのです。
その苦しい期間を耐え抜くために、経営者はどのような手を打つべきですか。
ただじっと待つのではなく、徹底的に動くことが必要です。先ほど言ったようにターゲットのコミュニティへ頻繁に顔を出したり、自ら情報発信を行ったりするべきで、ブログやYouTube、SNSなど、考えられるものをすべて活用して発信し続ける必要があります。私の場合は、独立する1年前から毎日ブログを書き続け、認知のベースを作っていました。発信の仕方のコツとしては、決してマス層向けの一般的な税務情報を流さないことです。登録者数の多い有名な税理士ユーチューバーと同じテーマで話しても勝てるわけがありません。そうではなく、誰も話していないような「超マニアックなニッチ情報」を発信するのです。そうすると、本当に困っている人が検索経由でYouTubeやホームページにたどり着き、「この人はうちの業界にめちゃくちゃ詳しいプロだ」と信頼してくれて、確実な問い合わせに繋がります。
最大の壁「採用難」に立ち向かう
AI・システム化へのシフト
特化戦略を進めていくなかで、苦労されたことはありましたか。
軌道に乗ってからは、ありがたいことに売り上げに困ったことはないのですが、一番苦しんだのは「採用」です。ここが最大の壁でした。初期の頃は、即戦力を求めて、税理士事務所での実務経験者を募集し、採用していました。しかし、経験者だからといって当所の仕組みや特化業務にマッチするとは限らず、早期に辞めてしまったり、能力を発揮できなかったりするケースが多発したんです。資格の有無や過去の経験に頼る採用はうまくいかない、というのが私の結論でした。
そこから採用や育成の方針をどのように変えられたのでしょうか。
現在は、経験者は一切採用せず「未経験者のみ」をターゲットにしています。スキルや能力よりも、大家さんの業界に対してどれだけの「熱量」を持てるか、大家さんのためになりたいと思えるかという「マインド面」を最重視しています。
実務スキルに関しては、本人の熱量さえあれば、長く続けることで自然と上がっていきます。また、知識や定型業務のスキル部分に関しては、いまやシステムやAIでいくらでも補填・サポートができる時代だからです。
未経験のスタッフを即戦力化し、業務を効率的に回すために、どのような仕組みを作ってこられたのですか。
未経験者でもスムーズに業務を行えるよう、10年ほど前から自社内でのシステム開発に力を入れてきました。
例えば、大家さんのサポートにおいて、先々20年間の事業計画シミュレーションの作成は必須ですが、これをかつては私がエクセルを使って手作業で1〜2時間かけて作り込んでいました。所長の頭の中にしかないノウハウに依存する「属人化の壁」にぶつかっていたわけです。
そこで、会計データを入力すると同時に、自動的に20年先までの事業計画やキャッシュフローが連動して生成されるシステムを、外部のエンジニアを巻き込んで自社専用に開発しました(特許も取得しています)。これにより、エクセルで1〜2時間かかっていた作業が一瞬で終わるようになり、未経験のスタッフでも高いクオリティの事業計画をお客さんに提供できるようになりました。業種を一つに絞り込んでいるからこそ、このような属人的な業務を排除した徹底的な「仕組化」が可能になるのです。
「所長のデジタル分身」で週休3日制を実現
システム化の延長線上で、現在はAIもかなり本格的に実務へ組み込まれているそうですね。
具体的な活用事例を教えてください。
ChatGPTが登場してすぐに自社開発に着手し、もう3〜4年ほど運用しているのが、私のデジタル分身とも言える「特化型AI」です。これは、私が過去十数年にわたり書き溜めてきた膨大なメルマガ、書籍の原稿、Q&Aの相談事例といった「自社独自の大家特化ノウハウ」だけを徹底的に読み込ませたものです。
一般的な税法や法令だけを学習させたAIだと、お客さんからの「こういうとき、どうすればいい?」という生の相談に対して、どの条文を適用すべきかうまく判断できず、的外れな回答をすることが多々あります。しかし特化型AIであれば、大家さん特有の質問とそれに対する私の過去の回答が完全にマッチングしているため、恐ろしいほど高い精度で的確な回答を出してくれます。これをスタッフが実務のサポートに使うだけでなく、一部はお客さんにも直接使ってもらえるようにしています。
他にも、相続税の試算や銀行の財務分析を自動化するオリジナルAIを開発し、現場でフル活用しています。
システムの自社開発とはすごいですね。
DXに詳しくないと再現するのは難しそうと思う事務所の先生方も多いのではないでしょうか。
私自身、DXの専門家でも何でもなく、とにかく試行錯誤を繰り返してきて今があります。ちなみに、オリジナルAIは外部への提供も行っていますから、ぜひ参考にしていただければと思います。
なるほど。そして、これらのAIやシステムの恩恵が、
今回の「週休3日制」の実現に繋がっているのですね。
業界最大の大繁忙期である「確定申告期」も、週休3日で乗り切られたと聞いて大変驚きました。
はい、確定申告は完全に「週休3日(土日出勤は禁止)」のまま、残業代も従来の3分の1程度に激減した状態で完全に乗り切ることができました。
もともとのきっかけは、去年の確定申告時期に「繁忙期に全員が定時(18時)で帰れたら面白いよね」というノリで始めた挑戦でした。朝早めに業務を開始し18時完全退社を徹底したところ、職員から「体が圧倒的に楽になった」と大好評で、繁忙期が明けた6月からは「これなら週休3日もいけるんじゃないか」と試験的に導入したんです。
具体的には、法定労働時間である「週40時間」を4日間に集約して割り振る形をとっています。朝7時に出社し、18時に退社するという1日10時間労働(休憩時間を含む)を週4日間徹底することで、週全体の労働総量を変えることなく、3日間の休みを確保しています。
もちろん、ただ休みを増やしただけでは仕事は終わりません。それを実現するために、Googleスケジュールを分単位で全員共有し、「今日何をやるか」を徹底的に管理しました。私は「悩むのは仕事ではない。悩んでいる時間は無駄である」と定義しています。手が止まってぐるぐる悩んでいるくらいなら、すぐに人に聞くか調べるか、行動を起こす。こうして無駄を徹底的に削ぎ落としました。このマネジメントに、AIが自動で仕訳を行う独自開発の「AIブックピット」をはじめとする効率化が掛け合わされることで、週休3日でも生産性を大幅に高めることに成功したのです。

現在はさらに進んだ「AI秘書」やエージェント機能の開発も進められているそうですね。
今は、複数の外部ツールを連携させて、フォルダーに資料を入れておくだけで自動でExcelに落とし込み、ビジネスチャットに自動通知されるようなフローを構築しています。また、AIキャラクターが自律してメール対応やスケジュール調整を行う「AI秘書」もテスト中です。これが完成すれば、人間が1件ずつファイルをアップロードしたりメール対応したりする手間すらなくなります。極論を言えば、「100人のAIの部下を、5人の少数精鋭の人間がマネジメントする」という組織を作ることができ、人手不足に悩む必要は完全になくなると確信しています。
AI時代にこそ問われる「人間力」と
税理士の未来
AIによって業務のほとんどが自動化された未来において、
人間のスタッフにはどのような役割が求められるのでしょうか。
最終的に残るのは、間違いなく「人間力」です。知識や会計処理、正しい税金計算の答えのほとんどが、AIがサポートしてくれるようになります。しかし、お客さんの立場からすると「AIがこう言っているけれど、本当にこの通りにやって大丈夫なのか」「本当に信用していいのか」という漠然とした不安が常に残るはずです。そのときに、「大丈夫ですよ、この方針で進めましょう」と寄り添い、背中を押してあげる役割は、人間にしかできません。「誰がその発言をしたのか」「その人を信用できるか」という部分にしか、人間としての価値は残らないのです。
その「人間力」を高めるために、
事務所として具体的にどのような取り組みや指導をされているのでしょうか。
「人間力」の基本となるのは「考え方」だと捉えています。当法人では「誠実・思いやり・諦めない」という3つを経営理念として掲げているのですが、これを日々の業務で実践できるかどうかが人間力の向上に直結します。そのための具体的な取り組みとして、徹底的に厳しく指導しているのが「約束を守る」ということ、つまり「スケジュール管理」です。全員のGoogleスケジュールを共有し、隙間時間や曖昧な予定の入れ方は徹底的に修正するように伝えます。「何にどのくらい時間をかけるのか」という細かなアポイントを自分自身と結び、その通りに終わらせられたかを確認し、できなければ改善を促します。スケジュールを入れるというのは、言い換えれば「自分との約束」です。自分との約束すら守れない人間が、どうしてお客さんとの約束を守れるのか、私はそう思っています。AI時代にお客さんから「この人の言うことなら信用できる」と思われる存在になるためには、こうした日々の小さな約束の積み重ねで人間力を鍛えていくしかありません。当所が毎朝の朝礼に力を入れているのも、まさにこの人間力を高めるための考え方を共有するためなのです。
日々の徹底した自己管理が、お客様からの信頼、ひいては「人間力」の土台になるのですね。
そうした高い規律を持って業務に取り組む一方で、
週休3日の導入によって生まれた「自由な1日」の使い方も、
人間力を磨く上で重要な意味を持ってくるのでしょうか。
この1日分の休みについても、単なる遊びの時間にするのではなく、自分のための「体系的な勉強」に充ててほしいと伝えています。実際、事務所の推奨資格として日商簿記2級やFP2級の取得を義務付けています。 AI時代において最も不足するのは、断片的な知識ではなく「税法全体がどういう構成になっているか」を理解する体系的な知識です。これがないと、AIが出してきたアウトプットが正しいのか間違っているのかをジャッジ(マネジメント)することができません。AIに使われる側ではなく、AIをマネジメントする側の人間を育てるためにも、この生まれた時間を活用して学問としての勉強を深めてほしいと思っています。
最後に、今後の会計業界の未来を踏まえ、全国の税理士の先生方へメッセージをお願いします。
これからの会計業界は、AIを使いこなして圧倒的に「差別化」できている事務所と、そうでない事務所に二極化していきます。

預かった資料を右から左へ処理するだけの業務は、いずれお客さん自身がAIを使って完結できるようになるでしょう。
だからこそ、特定の業界に絞り込み、その業界ならではの深い悩みに寄り添える「特化戦略」が必要だと私は考えています。なんでも屋からの脱却、AI・システムによる究極の効率化、そして人にしかできない人間力の向上。これらを掛け合わせる「特化×AI」こそが、これからの時代を生き抜く税理士事務所にとって、最強かつ唯一の生存戦略になると信じています。
| お知らせ |
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本記事でご紹介したノウハウや考え方は、ほんの氷山の一角に過ぎません。Knees bee税理士法人が実践する「大家特化」の成功の裏側には、「認知化×AI」「差別化×AI」「仕組化×AI」という強固な戦略が存在します。
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