〝退職代行〟サービスからの突然の連絡
<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.46>
昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.150(2026.4)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
新年度のスタートから少し経ち、5月は退職者が多くなる時期といわれています。退職といえば、近年“退職代行”と呼ばれるサービスが話題で、利用者も増えています。退職代行の実態と、企業としての適切な対応について整理しておきましょう。
1.退職代行と弁護士法
まず、そもそも退職代行について「違法か合法か」という議論があります。しかし、退職代行というサービス自体が問題なのではなく、実際に「どのような行為がなされるか」が問題です。弁護士等の資格を有する者以外が、報酬を得る目的で、法律的な問題について代理人として交渉することは、弁護士法第72条(非弁行為の禁止)に抵触します。単純に「退職の意思を伝える」という使者(伝達役)の範囲であれば合法ですが、会社と協議が必要な法的事項を話したり、未払賃金の請求といったことはできません。
なお、このような法律的な問題について、弁護士を紹介することで対価を得ることも「非弁提携」として弁護士法違反となります。つい最近、弁護士法違反で大手業者が逮捕起訴されましたが、この非弁提携が問題になりました。
2.退職代行サービスから電話があったら?
退職代行が利用されると、ある日突然本人が会社に来なくなり、代行業者が「●●さんが退職を希望しています」と電話をかけてくるのが一般的です。
会社側からすると、挨拶も引継ぎもせず非常に不義理な印象を受けますし、正社員であれば法律上も原則として2週間前の申し入れが必要(民法627条1項)です。即日退職を受け入れる義務も道理もありませんが、退職の意思を固め、自ら伝えることすらできない社員を引き留めても、会社にとってメリットは乏しいでしょう。感情的な対立を避け、粛々と事務的に処理を進めるのが最も合理的です。
実務上の注意点として、のちに「退職の意思表示が無効だ」と争われるリスクを避けるため、離職票等の書類は業者経由ではなく必ず本人宛に郵送し、発送の記録を残してください。また、万一本人が雲隠れして手続きが滞るケースに備え、就業規則に「無断欠勤が一定期間続いた場合は自然退職(当然退職)とする」旨を定めておくことも、有効な防衛策となります。
3.辞めるときに退職代行を使う必要はない
会社を辞めるというのは心理的に言いづらいものですが、本来、最後の礼儀として自ら意思を伝え、引継ぎを協議するのが筋でしょう。そもそも、正当な理由があれば退職は労働者の自由であり、会社側がそれを拒否することはできません。退職は簡単にできます。 一方で、自分で伝えても辞めさせてもらえない、パワハラが原因で直接話せないといった「不適切な職場環境」が背景にある場合は、すでに深刻な法律問題が生じています。その状況であれば、代行業者が連絡しても会社からの連絡が止まるとは限りません。自身の権利を法的に守ってくれる弁護士へ相談するのが適切です。
弁護士というと、残業代とか慰謝料とかそういう面倒な話になるという印象があるかもしれませんが「とにかく一刻も早く辞めたい」という場合なら、退職の意思表示だけを行う「弁護士による退職代行サービス」もあります。
中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。
