【令和8年度税制改正】特定資産の買換えに係る期限延長と一部見直しについて
法人が特定の不動産を売却して一定期間内に新しい不動産に買い換えるとき、譲渡益を圧縮記帳という経理処理をして法人税を繰り延べできるという特例があります。
これを特定資産の買換えに係る特例と呼びます。
本特例は令和5年度税制改正で令和8年3月31日までの延長が決まっていましたが、令和8年度税制改正で再び延長が認められました。
本記事では、圧縮記帳の基本的な仕組みを解説しながら、特定資産の買換えに係る令和5年度税制改正の内容を踏まえ、令和8年度税制改正でその内容がどのように見直しされ、いつまで延長されたか、利用に当たっての注意点など、詳しく解説します。
目次
- 特定資産の買換えに係る期限延長と一部見直しの背景及び概要
- 圧縮記帳の仕組み
- 圧縮記帳が適用できるケース6種類と特定資産の買換え
- 圧縮記帳の対象となる買換え4種類
- 令和5年税制改正後の特定資産の買換えの特例の現状
- 特定資産の買換えに係る期限延長
- 特定資産の買換えに係る適用要件の一部見直し内容
- 本特例の改正を通じて税務・会計業務に携わる方への注意点
- まとめ
特定資産の買換えに係る期限延長と一部見直しの背景及び概要

本特例において、現状、例えば令和7年4月時点で、法人が10年超の期間所有している土地、建物、構築物等の特定資産(除く棚卸資産)があった場合、それを令和8年3月31日までに売却し、譲渡の日を含む事業年度において新しい資産(買換資産)を購入したとします
そして買換資産をその購入日から1年以内に事業で使用した場合、圧縮記帳という方法を選択すると、売却で得た利益のうち、通常80%(ケースによっては60%~90%)をその事業年度の損金として取扱いできます。(※)
今回、令和8年度税制改正では、その特例の適用期限の再延長と内容の一部見直しが図られました。
今回延長と見直しに至った背景として、法人の長期保有の特定資産を売却して得た売却益を活用し事業再編や新たな設備投資を喚起することで、会社の生産性向上、内需拡大等を通じた持続的な経済成長を実現することにあります。
延長及び一部見直しの概要としては、以下の通りです。
- 本特例の適用期限について、2026(令和8年)3月31日から更に3年間延長する
- 適用要件の一部(対象資産、区域、繰延割合等)が見直される
(※)譲渡した事業年度に買換資産が取得できない場合も、譲渡後の一定期間内に取得し、事業の用に供すれば本特例が認められます。
参照先:譲渡した事業年度に買換資産が取得できないとき | 国税庁
圧縮記帳の仕組み
特定資産の買換えの特例を知る際には、まず「圧縮記帳」という概念を理解しておく必要があります。
圧縮記帳とは、補助金や保険金で固定資産を買った場合、その収入分を資産の購入価格から差し引き、「利益が出たことにして税金を今すぐ払う」のでなく、「将来の減価償却費を減らして少しずつ税金を払う」という税務の特例のことです。
これにより受取年度の税負担を減らして、補助金や保険金の効果を最大化できます。圧縮記帳は、本来、課税所得となる利益を将来に繰り延べる制度で、法人税法と租税特別措置法で規定されています。
これを特定資産の譲渡と買換資産に応用すると、例えば、法人が所有する不動産を譲渡し譲渡益が出た場合に、取得した不動産(買換資産)について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するなど一定の方法で処理したときは、その減額した金額を損金に算入することで譲渡益を圧縮することが可能です。
ただし譲渡益を圧縮できることで確かに課税対象となる所得は減少しますが、その分の税金が軽減されるものでもありません。
買換えにより取得した建物等の減価償却費については、圧縮記帳した後の帳簿簿価を基に減価償却されるので、圧縮記帳によるマイナスはその後の減価償却によって取り戻されます。圧縮記帳を使ったこの処理は、あくまで取得した年の税負担を軽減し納税のタイミングを延期しているものであり、免税や非課税になるわけではない点に注意が必要です。
圧縮記帳が適用できるケース6種類と特定資産の買換え
前章で、圧縮記帳とは、本来、課税所得なる利益を将来に繰り延べる制度で、法人税法と租税特別措置法で規定されていると述べました。
以下が法人税法等に基づき圧縮記帳が適用できるケースです。
- 国庫補助金(根拠法令:法人税法)
- 工事負担金(根拠法令:法人税法)
- 保険差益(根拠法令:法人税法)
- 交換差益(根拠法令:法人税法)
- 非出資組合の賦課金(根拠法令:法人税法)
- 特定資産の買換え(根拠法令:租税特別措置法第65条の7、措令39の7ほか)
上記のように、6.「特定資産の買換え」は圧縮記帳が適用できるケース6種類のひとつになります。
圧縮記帳の対象となる買換え4種類
法人が一定の条件の下、所有する棚卸資産以外の特定資産を譲渡し、一定期間内に特定の資産(買換資産)を取得した場合、圧縮記帳が使えますが、圧縮記帳の対象となる買換えは以下の4種類です。
- 航空機騒音障害区域内にある土地等(一定のものを除く)、建物(その附属設備を含む。以下2及び3において同じ。)または構築物で一定の場合に譲渡されるものからその区域外で一定の土地等、建物、構築物または機械及び装置への買換え
- 既成市街地等及びこれに類する一定の区域(人口集中地区)内にある土地等、建物または構築物から土地の計画的かつ効率的な利用に資する施策の実施に伴って取得をされる土地等、建物または構築物への買換え
- 長期所有資産の買換え(所有期間が10年を超える国内にある土地等、建物または構築物から国内にある一定の土地等、建物または構築物への買換え)
- 日本船舶から日本船舶への買換え(注)
(注)譲渡資産の日本船舶、買換資産の日本船舶のいずれに関しても、それぞれ一定の条件があります。
圧縮限度額の計算方法・計算式
特定資産を買い換えた場合の圧縮記帳に係り、圧縮限度額は次の算式によって計算します。
(算式)圧縮限度額=圧縮基礎取得価額(注1) × 差益割合(注2) × 80/100
(注1) 圧縮基礎取得価額とは、買換資産の取得価額と譲渡資産の譲渡対価の額のうち
いずれか少ない金額をいいます。
(注2) 差益割合={譲渡価額-(譲渡資産の帳簿価額+譲渡経費額)}/ 譲渡価額
参照先:特定資産を買い換えた場合の圧縮限度額の計算 | 国税庁
令和5年税制改正後の特定資産の買換えの特例の現状

令和8年度特定資産の買換えの特例の改正内容を解説する前に、令和5年税制改正後の本特例の現状を押さえておきましょう。
特例の対象となる組み合わせ
特定資産の買換えの特例の適用を受けるには、譲渡資産と買換資産が一定の組み合わせに当てはまる必要があります。
この組み合わせの代表的なものとして、以下のものが挙げられます。
| 項目 | 内容 |
| 譲渡資産 | 国内にある土地・建物・構築物などで、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えるもの |
| 買換資産 | 国内にある土地・建物・構築物などが対象となり、土地の場合は事務所・工場などの特定施設の敷地の用に供されるもので、その面積が300㎡以上のもの ※土地面積が300㎡を超えない場合でも、建物については条件を満たした場合、適用となる |
| 圧縮限度割合 | 原則:80% 東京23区→集中地域外(本店・主たる事務所の所在地の移転):90% 集中地域外→東京23区(本店・主たる事務所の所在地の移転):60% 集中地域外→東京23区:70% 集中地域外→集中地域(東京23区除く):75% |
※土地には借地権が含まれる
※集中地域は地方再生法に基づく
参照先:圧縮限度額(計算方法・計算式)|特定資産を買い換えた場合の圧縮記帳 | 国税庁
特例が適用される要件6つ
特定資産の買換えの特例の適用を受けるためには、圧縮記帳の対象となる譲渡資産や買換資産が以下の6つの要件を全て満たす必要があります。
- 譲渡資産が棚卸資産でないこと…不動産業者の所有する土地建物等は、固定資産でなく棚卸資産に該当する場合がある
- 譲渡資産が長期所有(10年超)であること
- 買換資産として取得する土地などの面積が譲渡資産の土地などの面積の5倍以内であること
- 譲渡の前年~翌年中には買換資産を取得すること
- 買換資産を取得日から1年以内に事業用資産として使用すること、または使用する見込みのあること
- 同一期中に資産を買換える場合、所定の期間内に届出書を税務署に提出すること
参照先:圧縮記帳の対象となる譲渡資産・買換資産 | 特定資産を買い換えた場合の圧縮記帳の対象となる資産 | 国税庁
特定資産の買換えに係る期限延長
ここまで令和5年税制改正後の特定資産の買換えの特例の現状を確認してきました。本章からは上記の内容をもとに、令和8年度税制改正に係る「特定資産の買換えに係る期限延長と一部見直し」について見ていきます。
まず本特例に係る期限延長ですが、これに関しては、今回の改正で適用期限がさらに3年間、2029(令和11)年3月31日まで延長されました。
ただし、一定の船齢の日本船舶から環境への負荷の低減に資する一定の日本船舶への買換えのうち、港湾の作業船については2年間延長される措置が取られます。
特定資産の買換えに係る適用要件の一部見直し内容
令和8年度税制改正に係る、特定資産の買換えに係る適用要件の一部見直しの内容は以下の通りです。
| 番号 | 見直し項目 | 改正後の内容 |
| 1 | 航空機騒音障害区域の内から外への買換え | 一定の区域内(※1)にある土地、建物等を譲渡資産の対象から除外 |
| 2 | 市街地再開発事業による買換え | 既成市街地等及び一定の人口集中地区の区域内の土地、建物等の買換えの課税繰延割合 ・一定の区域(※2)以外の区域から都市再開発法による市街地再開発事業に関する都市計画に基づく買換え(80%から60%に引下げ) |
| 3 | 長期所有(10年超)の土地、建物等から国内の土地、建物等への買換え | 買換資産のうち、建物及びその附属設備、構築物をそれぞれ以下のものに限定する ・建物及びその附属設備特定施設の用に供される建物及びその附属設備 ・構築物特定施設に係る事業の遂行上必要な構築物 |
| 4 | 一定の日本船舶から環境への負荷低減に資する一定の日本船舶への買換え | 港湾の作業船のうち、以下のものを譲渡資産の対象から除外 ・その作業船に設置されている原動機の定格出力の合計が1,500kW以下のもの |
(※1)防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律の第二種区域
(※2)以下の2つの区域
- 次の区域(その区域が都市再開発方針の策定が努力義務とされている大都市の区域に該当する場合にあっては、その大都市の区域に係る都市再開発方針に定められた二号地区の区域に該当するものに限る)
① 防災街区整備方針に定められた防災再開発促進地区の区域
② 特定都市再生緊急整備地域内の区域
③ 立地適正化計画に記載された都市機能誘導区域 - 都市計画に定められた被災市街地復興推進地域内の区域
本特例の改正を通じて税務・会計業務に携わる方への注意点
今回の改正に係り、取引先と税務・会計業務等で関わりを持たれている方々の主な注意点は以下の通りです。
長期所有(10年超)の土地、建物等から国内の土地、建物等への買換えに関して、買換資産については、特定施設の用に供される建物及びその附属設備に、構築物に関しては特定施設に係る事業の遂行上必要なものに限定されることとなりました。
ここで特定施設とは、事務所、工場、作業所、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設をいい、社宅、寮、宿泊所、集会所、診療所、保養所、体育館その他スポーツ施設、食堂、その他、これらに類する福利厚生施設は除かれますのでご注意下さい。
改正前は、建物及び附属設備、構築物に関して用途制限はありませんでした。しかし今回の改正後、用途は事業の遂行上必要なものに限定されます。
まとめ
特定資産の買換えの特例に係る令和5年度税制改正の内容を踏まえ、令和8年度税制改正での改正内容や延長期限、実務上での注意点など詳しく解説しました。
事業の拡大をめざしている企業等にとって、本社・工場の移転のため買換えが伴う場合、特定資産の買換えの特例を活用して課税が繰延べられ、資金繰りや資金調達が容易になれば、本業に対し、より積極的な投資も可能となります。
一方で会社の資金繰り等に余裕があれば、本制度を活用しなくても、資産の取得年度に一括納税を行っても問題はないでしょう。しかし特定資産の買換えの特例を利用し圧縮記帳を行うことが有利となるか不利となるかは、譲渡及び購入の目的・タイミングや会社の資金計画等の条件でも変ってきます。
特定資産の買換えの特例利用を判断する際には、税理士・公認会計士等の専門家も交えて、総合的かつ慎重に判断する必要があります。
今回の特定資産の買換えに係る期限延長と一部見直しに係る規約については、以下の財務省の公式サイトにて確認できます。必要に合わせてご参照下さい。
参照先:特定資産の買換えに係る期限延長と一部見直し(P80~P81) | 令和8年度税制改正の大綱 | 財務省
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