相続税対策の今後の予測<相続税対策、法人税対策の今後の行方Vol.5>
佐藤信祐事務所 所長 公認会計士・税理士 博士(法学)
佐藤 信祐 先生
2022/10/26
業界屈指の専門家である佐藤信祐先生が、さまざまな税制や組織再編等に関する新しい論点・最新情報、少しマニアックな税務トピック、判例裁決事例など、独自の視点で解説します。
2022年4月19日に公表された最高裁判決により、相続税対策が今後どのようになっていくのかについて考えてみたい。本最高裁判決の公表後、様々な税務専門家によるブログやメール記事がこの件について論じている。そして、論者によって多少の差異はあるものの、「どこまでなら認められるのか」という観点から記述されているものが多い。
しかしながら、最高裁判決の文言を素直に受け止めるのであれば、相続税を減らす目的で行われたものに対しては、6項否認のリスクがあるといわざるを得ない。例えば、不動産投資において相続税の減少以外の目的が認められる事案とは、
①30代や40代のころから不動産投資を行っていた事案や②先祖代々の土地を長期的に運用していた事案であり、それ以外の事案では、相続税の減少以外の目的が軽微ないしはゼロである事案がほとんどであり、更正処分を受ける可能性があるといえる。
事業を行っている法人であれば、事業活動や株主対策の結果として、取引相場のない株式に対する相続税評価額が引き下げられることもあるかもしれないが、なかなかその説明が難しいことが多い。
そうなると、今後の税務調査がどのようになるのかが気になるところであるが、一般的な心理として、前例のあるものに対しては強気で対応しやすいことから、不動産投資についてのリスクは極めて高いといえる。さらに、株式等保有特定会社から外すような株価対策についてもリスクは高めである。そのほかの株価対策については、当面の間は大丈夫かもしれないが、相続税の確定申告書を提出してから数年後に税務調査が行われることを考えると、慎重に対応すべきであろう。
そして、金融機関の動きも注目すべきである。最終的な判断は税理士に委ねられるとしても、6項否認のリスクのあることを知りながら相続税対策の提案を行うことは、金融機関におけるコンプライアンス上の問題が生じるのではないだろうか。つまり今後、金融機関が相続税対策の提案ができなくなる事態が想定される。
それだけでなく、そもそも金融機関が6項否認のリスクのある行為に対する融資ができるのであろうか。節税保険に対する金融庁及び国税庁の厳しい対応を見ても、6項否認のリスクのある行為に対する融資ができなくなるのは時間の問題であると思われる。
そのため、税理士の立場から6項否認の限界値を探ろうとしても、そもそもの融資が付かなくなることから、その選択肢は狭められていく。結果として、不動産投資も株価対策も行うことはできず、事業承継税制のような税制が正面から認めたものを除き、相続税対策ができない時代になってくると考えられる。