東京国税局 信託と空き家譲渡特例に関する文書解答事例を公表<気になる税務トピックVol.8>
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
2023/1/26
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
東京国税局 信託と空き家譲渡特例に関する文書解答事例を公表
信託に関する興味深い解説がいくつか公表されている。自宅について母親を委託者兼受益者とする信託を設定して、母親が亡くなったときに信託を終了、自宅が残余財産として娘ら相続人に帰属した場合において、相続人がその自宅を譲渡した際には空き家譲渡特例(措法35③)が使えないとする東京国税局の文書回答事例が公表されている。
「信託行為の当事者ではない帰属権利者は、その権利を放棄することができること(信託法183条3項)を踏まえると、上記本件特例の趣旨の下では、帰属権利者による残余財産の取得を相続人による相続又は遺贈による財産の取得と同様に取り扱うことは相当ではないと考えられ」るからだ。措置法35条3項では遺贈等による財産の取得とみなされる場合(相法9の2)を対象に含む旨は規定されていない。
これに対し、3年以内に相続財産を譲渡した場合の取得費加算(措法39)は適用されることになっている。こちらは遺贈による財産の取得とみなされる場合を対象に含めているからだ。
なお、小規模宅地特例では信託でも適用できることが条文で別途規定されている(措令40の2㉗)。つまり、受益者となった者が資産負債そのものを取得したものとみなす相続税法の規定は、そのままでは措置法には及ばないということだ。
国税庁 信託と「みなし配当課税を適用しない特例」に関する質疑応答事例を公表
同じく信託の事例として、非上場株式を信託した被相続人(委託者兼受益者)の死亡後に受益権を取得した相続人が、信託を終了してその非上場株式を発行会社に自己株式として譲渡した場合は、みなし配当課税を適用しない特例(措法9の7)及び取得費加算(措法39)がともに適用できると解説されている(国税庁質疑応答事例「被相続人の死亡により信託の受益者となった相続人が、信託の終了に伴い信託財産であった非上場株式を取得してその発行会社に譲渡した場合における租税特別措置法第9条の7及び第39条の適用の可否」)。たしかにこちらは、相続・遺贈による取得とみなされた非上場株式を譲渡した場合が含まれると規定しており、条文を読む限り適用可能と読める。
結局、空き家譲渡特例だけが適用できないことになっている。信託を提案している司法書士や税理士には影響が大きい。空き家譲渡特例を使うことを念頭に信託を設定する例は少ないと思うが、相続後に自宅を譲渡し、空き家特例が適用できないことを知らずに申告して、税務署の指摘で適用できないと分かれば納税者とのトラブルになってしまう。
ただ、個人的には「適用できない」とする理由はないように思う。認知症になった本人のために信託を設定することは、死亡後に空き家譲渡特例を適用すべきでないとする理由にはならないだろう。税制改正を期待したいところだ。