税理士業界が注目した 今月の気になる税務トピック<気になる税務トピックVol.36>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.140(2025.6)に掲載されたものです。


白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

総則6項巡る控訴審判決は6月中旬の見込み

非上場株式の評価についていわゆる総則6項の適用が争われた事件(東京地方裁判所令和7年1月17日判決)は、東京高裁での控訴審が結審したとのことだ(週刊T&A master(2025年5月12日号・No.1073))。

一審敗訴の国側は本件も実質的な租税負担の公平に反するというべきと主張しているようだ。

本件では被相続人が亡くなる直前に36億円を金銭出資し、これにより株特外しをし、さらに比準要素1外しのための臨時配当によって個人財産を約17億円圧縮。総則6項に基づき純資産価額方式を適用すべきとする国の主張を退け、中会社としての併用方式を適用すべきとする納税者の主張を認めていた。

総則6項に関して国の敗訴が続いている非上場株価の評価。判決は6月中旬に出る見込みとのこと。判決内容によっては会計検査院の指摘によって今後改正が予想される類似業種比準方式の通達改正にも影響するだろう。

1億5千万円脱税の疑いで不動産賃貸業者を告発

2024年5月、東京国税局査察部は、相続税約1億5千万円を脱税したとして、不動産賃貸業を営む67歳の女性を東京地検に告発した。亡くなったのは女性の姉で、相続財産のうち不動産は申告していたものの、債券・投資信託・預貯金など約3億円超の金融資産を申告せず1億5千万円の相続税を脱税したとの報道だ。

税理士にも財産を報告せず、相続した財産を少なく見せかけていたということだ。申告しなかった資産は自身の口座で貯蓄していた。

姉妹で不動産賃貸業を営んでいたようだ。物件は親から相続したのだろうか。生前から妹が姉の資金を管理していたのだろうか。色々と状況を考えてしまう事例だ。

和解に基づき受領した解決金は、遺留分減殺請求に基づく価額弁償金か

相続人は長男と長女。長男がすべての遺産を相続するという公正証書遺言について、長女は、公正証書遺言の無効を求め、仮に公正証書遺言が有効であるとしても、予備的に遺留分減殺請求権(民法改正前の事案)を行使するとして価額弁償金を請求した。

その後、和解が成立し長男は支払った解決金がすべて遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であるとして更正の請求をし、税務署はこれを認めた。一方、長女は受け取った和解金の一部は損害賠償金に該当するして、全額を相続税の課税価格に含めることなく申告した。

これに対し原処分庁は、解決金の全額が遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であるとして更正処分をしたため、長女が原処分の全部の取消しを求めた。

審判所は、解決金には価額弁償金以外の法的性質を持つ金銭が含まれていたとし、予備的な主張を根拠にして全額を価額弁償金とは断定できないとして、更正の特則である相続税法第35条第3項第1号の要件は満たさないと判断した。この事例は相続税の法定申告期限から5年を経過しての更正処分だったことも裁決に影響した。

和解調書には、解決金が遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であるとは明記されておらず、双方の弁護士も価額弁償金であるとは認識していなかった。長男も、解決金には遅延利息が含まれていると認識していたようだ。和解金は課税上の判断が難しくなるという事例だ。

白井 一馬

しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。

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