顧問先への注目提案 企業版ふるさと納税活用事例(Vol.2)
税理士が税の観点から顧問先に提案すべきこと
―企業版ふるさと納税を推進するメリットを紹介ー
税理士法人中山会計 代表社員税理士 社長
小嶋 純一
私からは会計事務所から見た「企業版ふるさと納税」についてお話します。
私は今年1月の能登半島地震の前に、実はこの「企業版ふるさと納税」の紹介を受けていたところでした。その時はもちろん震災が起きると思っていなかったのですが、起きた瞬間、私達に何かできることはないか、そういえば前に紹介してもらった制度を活用すれば、ピンポイントで市や町へお金を渡せるのではないかと思ったのです。それが最適だったのかはわかりませんが、「企業版ふるさと納税」が使えないかとお願いをしました。
実は別のルートでも何か手助けできないか模索していて、石川県や金沢市とのコネクションがあったこともあり、自治体がもっと全国と連携して進められないかと訴えにも行ったのです。ただ、その時は税理士会でもう少し話をまとめてから持ってきて欲しいということで、すぐに動くことは難しそうだったため、このルートは断念し、たどり着いたのがこの「企業版ふるさと納税」でした。
まずは私達がとにかく制度の理解をしなくてはいけませんし、よく理解もしていないのにお客様に説明するのは会計事務所としては難しいと思いながら進めてまいりました。
ここからは「企業版ふるさと納税」を推進するにあたり、会計事務所にとってメリットとなることを4つご紹介していきます。
1つ目は、企業が生み出した利益の使い道を一緒に考えられるということです。
これまで会社が利益を出すと税金が高すぎるので、なんとか利益を抑えるという話、つまり節税を考えることはしてきていると思うのですが、逆にどう使うかを考える思考にはなっていなかったと思うのです。
もちろん、従業員さんへの還元、将来に対しての投資、会社に貯めておくという選択肢もありますが、これだけ利益を生み出したのだから、さらにもう一つ、この制度を通じて地方公共団体に使ってもらうという選択肢もあるよねと積極的に考えることができるということです。
慈善活動として、困っている自治体や人に寄付をすることはあっても、それが「利益の使い道」というイメージで話す人は恐らく経営者の方の周りにもいないので、これは結果的に信頼にもつながるのではないかと思っています。
2つ目としては、黒字になり税金をたくさん納めるとなるとネガティブな感じになりがちですが、発想を変えれば「これだけ利益を出せば、これだけのふるさと納税ができる」さらに「使い道をこちらが選んでいける」ことになるので、税をポジティブにとらえるきっかけになるということです。
皆さんのお客様にそれが上手く伝わるかどうかというのがあるかもしれませんが、震災後「何か私達にできることはないか」という風潮になっているところだと、より刺さるということです。前向きに一緒に考えていただけるきっかけになるかなと思います
3つ目は、経営者の方と企業活動の会話ができるということです。
この制度は「どの自治体のどの活動に対して、いくら寄付をしていく」と決めなくてはいけません。そうすると自治体やその活動を知らなければいけないし、なぜ共感するか、興味があるかということを経営者の方と一緒に話すことができるのです。
これまでも皆さんから「SDGSをやっていますか」とか、「健康経営をやりませんか」という話を持ちかけることもあったと思います。そのような時でも、「企業版ふるさと納税」をフックにすることで、しっかり説明ができる状態で皆さんからお話ができるようになりますし、今後色々な活動をしていく中で、もしヒントになることがあればまたご紹介するなど関わりを広げていくこともできるようになります。
最後の4つ目は、寄付に対して専門家の見地からアドバイスができることです。
物事を決めていく上で、経営者の方の最終決断の手前くらいに皆さんのところにご相談が来ると思います。世の中には色々な寄付がありますが、果たしてそれが本当の目的に合致しているかを追いかけるのはなかなか難しいことです。例えば100万円寄付したいがどういう方法が一番正しいかなどを会計事務所の先生から紹介していただけると、処理方法ももちろんですが、そもそも寄付先やルートに対する安心感が出てくると思います。
上記はメリットになりますが、総括すると、会計事務所としてこの制度自体を知らないということは避けた方が良いですし、場面によっては積極的に提案した方が良いということです。
続きまして、税の観点からの留意点についても5つお話ししていきます。
まず1つ目、寄付の下限は10万円です。
2つの自治体に10万円ずつなら良いですが、5万円ずつで合計10万円はだめなのです。1つの自治体に最低10万円は寄付をしてほしいということです。
2つ目、本店所在地である地方公共団体への寄付は対象外、ただし支店はOKです。
私の事務所の場合は石川県の金沢市に本店がありますので、石川県と金沢市に対する寄付はNGです。石川県の、例えば珠洲市と輪島市などには寄付ができます。むしろ支店があるところに寄付をする方が、意義があるのかなと思います。
3つ目は、自己負担額の最少ラインが所得の約1%であるという点です。
要は1千万円の利益で1割負担の寄付をしようと思ったら10万円ということなのですが、私達のお客様で1億円や10億円といった利益を出している企業なんてほとんどありませんよね。そうすると、1割負担、9割が控除されますと言っても本当にそのメリットを受けられるのは、所得の1%の寄付だけなのです。ということは、その企業がどのくらいの所得で、税金を引く前の利益がどのくらいなのかわかった上でお話をしないといけないのです。
4つ目は、税額控除額最大のラインは所得の約10%という点です。
1千万円の利益の会社だと、100万円の寄付をした場合の負担は約4割、つまり40万円です。6割は控除できている、ここが私の中ではラインかなと思っています。経営者として、1千万円の利益を出していて1千万円の寄付をするという人はほとんどいないと思うのです。
一方、1千万円の寄付で10万円しか寄付していないという人も少なく感じます。そうすると「最大1割くらいかな」と考えてくれることも多いと思っていて、ではその時の自己負担がどのくらいかと言うと4割なのです。
これが大きいか小さいかなのですが、「ふるさと納税」を受けていなかったら自己負担額は7割ですからね。そう考えると、皆さんの知識や情報提供で、そういうことが実現できるということです。100万円の寄付で40万円の負担だったらもっと寄付をしてもよいと言ってくれる人もいるかもしれませんので、この辺りの経営者の方との話し合いはうまく持っていく必要があるのかなと思います。
最後に5つ目、会計事務所ならではですが、申告時に別表の作成が必要ということです。都道府県民税や市町村民税、それぞれ別表がございます。住民税の場合は写しの添付が必要になってくるので、これらを用意する必要も出てきます。
以上5つの留意点をご紹介しました。
計算も複雑で住民税と法人税と事業税でそれぞれ上限が決まっていて、最終的にはトータルの上限額が決まるという仕組みになっていますが、税理士になられた方なら勉強してもらえば絶対にわかると思います。
続いて、顧問先に喜ばれるポイントについてお話しします。
地域への還元、自治体とのパートナーシップ構築のきっかけ作り、社員のモチベーションアップ、震災復興支援などが挙げられます。地域への還元やパートナーシップの構築に関しては、今震災では地方の自治体はどうしてもマンパワーが足りなさ過ぎて、こういったことに時間を割く余裕がないと思います。お礼が遅れてもそれは仕方ないことですし、寄付の実績はしっかり残っていますので、しかるべき時にそういったものは構築できたらよいのかなと思います。
お客様に向けた取り組みに関してご紹介しますと、YouTubeに「中山会計」として寄付金テーマのショート動画が8本上がっています。マニアックな内容ですが、事業税の上限の計算方法も入れているので、皆さんが職員の方に説明する際に、参考にするよう伝えるなどして活用できると思います。
ただ、実際、寄付するまでに至るのは、やはり少ないのが現状です。今のところ弊社で3社、それに加えて検討してくれている企業様はまだ数社ありますが、地道に少しずつしか増えないというのもやってみてわかりました。
みんな「大変」「心配」「何かできることはないか」と口では言っていても、実際に動くとなると意外と難しいのだなとは思いました。ただ、やりたくないというわけではなく、おそらくそこまで深く理解をしていなかったり、そもそもそういったことを考えたことがなかったというのもあるので、少しずつ事例を重ねながら時間をかけて広めていきたいと思っています。
タイミングが結構大事というのもありまして、やはり決算前は決めやすいというのがあります。決算前は、経営者として会社の支出を考える時に非常に重要なタイミングなんだと感じています。
あとは今、私達は震災復興目的でやっているので不可能なのはわかっているのですが、やはり寄付先のリアクションが見えると、もう1回寄付しようという働きが続いていくのではないかと思います。
寄付金の使われ方も大事で、支援金は使い道を決めて使ってくれる人に渡してくれるのですが、義援金は使い道が決まっておらず、集めたお金をみんなで分ける制度で、震災復興目的については結構義援金が多いのです。「企業版ふるさと納税」はきちんと使い道を決めたところに直接渡していく形なので、公的に使っていただける、これが非常に大事だと思っています。
最後に、能登の人たちに私達が今できることは、最新鋭のものをどんどん送り込むことではなく、皆さんが地域の中で営んできた暮らしの維持を支援すべきではと考えています。ただ国や地方公共団体単独だとやはり難しいので、そんな時こそ民間がしっかり関わっていく必要があるのではと思います。
とはいえ私達は会計事務所なので、何ができるかというと、まずはこの状況を皆さんに伝えるということと、実際に使える武器や技術を持っていれば直接的な支援ができるのですが、そうでないところについては、やはり金銭的な支援というのは効果的だということです。どこの地域にどう使うかということをきちんと意思表示しながら支援をしていくことで、それこそ現地に行ってもらったりしていくと良いのではと思っています。
まずリアルの現場を見に行って欲しいと思っています。もし今回の講演会をきっかけにそういった場所に行っても良いと思ってくれるようでしたら、金沢までお越しいただければ、その先は皆さんをご案内することもできると思います。ぜひお声がけください。
皆さんのお力をお貸しいただければ非常に嬉しいです。
(7月8日(月)開催のセミナー「顧問先への注目提案 企業版ふるさと納税活用事例」より)
小嶋 純一
税理士法人中山会計 代表社員税理士 社長
横浜国立大学卒業。現在、税理士法人中山会計にて三代目代表社員税理士社長を務める。
相談しやすさNO.1 を体現する税理士として自社の経営の実践並びにお客様の経営のサポートを兼務。
現在、日本経営管理協会北陸支会副支会長及び石川県支部支部長、日本M&A協会北陸支部副支部長、
石川県サッカー協会監事、北陸学院大学非常勤講師を務める。