研修で切り拓く会計業界の未来
「一般企業化」が生む新たな成長戦略

株式会社ビズアップ総研 代表取締役 税理士 吉岡 高広
より付加価値の高いサービスを提供し、経営のパートナーとして企業を支えていくスキルがこれからの会計事務所には求められています。そこで大切なのが、一般企業で行われている「研修」。顧客とコミュニケーションをとり、質の高いプレゼンテーションを行う「サービス業」としての意識の醸成に、研修は不可欠なのです。さらに研修は、採用活動においてもプラスに作用します。研修を取り入れることで会計業界はどう変わるのか。「税理士.ch」編集長・吉岡高広が語ります。
これまでの会計業界の人材育成
なぜ今、会計業界に研修が必要なのでしょうか?
これからの会計業界で生き残るには、一般企業に勤める社会人が当たり前に身につけているビジネススキルが必須になるからです。

これまで会計事務所が主として行ってきた記帳処理や経理代行は、AIの発展によりますます効率化が進み、業務の価値が変化していく可能性があります。しかし、これはむしろ新たな成長のチャンスです。これからの会計事務所は、従来の業務にとどまるのではなく、より付加価値の高いサービスを提供し、経営のパートナーとして企業を支えていくことが求められます。そのためには、柔軟な発想を持ち、新しい領域にも積極的にチャレンジすることが重要です。
こうした変化に適応し、持続的に成長するために、会計事務所の「一般企業化」が鍵となります。
その際大事になってくるのが、顧客との対話です。ニーズを敏感に感じ取り、それに応じたサービスを提供する。要するに、「士業」ではなく「サービス業」として顧客と接するべきなのです。会計業界に携わる人たちには、新たな視点を取り入れることで、さらに発展できる可能性があると考えています。
サービス業で求められるのは、コミュニケーションやプレゼンテーションなどのスキルです。いずれも、これまでの会計業界ではあまり注目されてこなかった部分ですが、今後さらに重要視されていくことでしょう。だからこそ、研修を通じて学ぶ必要があるのです。
一般企業では、社員のスキルアップのために様々な研修が用意されています。
一方、会計業界では、これまでどのように人材育成が行なわれてきたのでしょうか?
もちろん、売上規模が大きい一部の事務所では、一般企業と同じく様々な研修が用意され、職員の人材育成が図られてきました。
しかし、特に小規模事務所では、従来の業務を通じたOJTが中心となり、体系的な研修の機会が限られていたケースも少なくありません。その背景には、業務の実践を重視する文化が根付いており、研修を通じて職員を育成するという考え方が、これまであまり浸透してこなかったことが原因として挙げられます。
また、小規模事務所では、所長先生が業務の進め方を決め、それに沿って職員が業務を学ぶというスタイルが一般的だったため、職場での実務経験を通じた指導が主流となってきました。こうした環境の中で、日々の業務に追われることが多く、研修のための時間を確保できなかった結果、体系的な学びの機会が十分に提供されてこなかったケースも多かったのではないでしょうか。
しかし、これは裏を返せば、これからの時代に向けて新たな育成スタイルを取り入れる大きなチャンスとも言えます。
人材育成と採用
会計業界には、具体的にどのような研修が求められているのでしょうか?
一般企業では、新卒で採用した社員にまず、社会人としてのマナーを学んでもらいます。名刺交換の作法や、業務で電話・メールを使う際の注意点など、本当に基本的な所作から研修で教え込んでいます。社会人として欠かせない重要な所作だからこそ、多くの企業が新入社員に早い段階でこうした研修を受けさせているのです。会計事務所の職員も、顧客など外部の人間と接する機会はあるのですから、マナーに関する研修は当然必要になってきます。
また、外部の人間と接する際にはコミュニケーションスキルが不可欠です。事務所の特長を分かりやすくプレゼンテーションする能力も求められる。さらには、ある程度経験を積んだ職員には、部下を的確に導いていくコーチングのスキルも必要となります。
繰り返しますが、会計業界は「サービス業」なのです。ですから、一般企業で当たり前に行われているこれらの研修を、会計事務所の職員も積極的に受講すべきなのです。
優秀な人材に来てもらう、という観点から「研修」の重要性をどう考えますか?
働き手不足が深刻化する中、優秀な人材をどう確保するかというのは、会計事務所にとって死活問題です。「一般企業化」を目指すのであれば、税務・会計の有資格者以外にも、多様な人材を採用しなければいけません。その場合、他業種の一般企業と人材の奪い合いになります。
そうした状況で、会計事務所が様々な研修の場を提供するというのは、優秀な人材に振り向いてもらう有効な手法なのではないかと考えています。入社してから自分がどう成長し、どんなキャリアを描くことができるのかを考えて就職活動をする人たちは多いでしょうから、多様で体系的、かつ長期的な人材育成を視野に入れた研修プログラムが人材の呼び込みには有効だと思います。
また、以前お話を伺った会計事務所では、職員が大学院で学べる仕組みを作っていました。一般の企業でも見かける、社員の自己啓発を支援する社内留学制度です。研修とは少しずれますが、会計事務所がそうしたプログラムを整えるというのも、成長意欲の高い優秀な人材を採用する手段の一つになり得るでしょう。
「ここで働きたい」「自分のキャリアをここで築きたい」と思ってもらえるような仕組みを作ることが、就職先として選んでもらえる事務所の第一歩だと思います。

スキルの向上以外に、研修を行う目的をどのように考えますか?
色々なスキルを身につける機会が職員に対して提供されるというのは、いうまでもなく研修の大きなメリットです。ただ、実は研修の意義はそこだけにとどまりません。研修という共同作業は、職場の同僚の結束力を高める効果も期待できるのです。
これは、1年ほど前にある事務所を取材した際に伺った話なのですが、職員のコミュニケーション力が高いレベルにないと、職場内で建設的な会話がうまれないそうです。
要するに、職員同士、そもそも何を話せばいいのかが分からない。とりあえず、それぞれが自分の興味のある話を始めてみるものの、他の職員にとっては関心のない話題なので話が続かない。会話に必要な、相互理解を深めようという努力が職場内で全く見られない状態だったということで、その結果、居心地が悪くなってしまい職員が辞めてしまう、という負の連鎖が起きていたそうなのです。
ところが、同僚同士で一緒に研修を受けるだけで、雰囲気が一変したといいます。時間を共有することで職員たちは徐々に打ち解けあい、仲間意識が生まれる。お互いの趣向も分かってくる。職場内の雰囲気も改善し、結果として離職者も少なくなったということです。
優秀な人材を確保するのと同時に、どうやって長く働いてもらうのかという点にも、会計業界は気を配らないといけません。研修は、その手段の一つとしても有効なのではないかと考えています。
研修で変わる会計業界
一般的な企業で行うような研修を実施することで、会計業界はどのように変わっていくのでしょう?
属人的な組織運営から脱却し、会計事務所の分業化が進むのではないかと期待しています。先ほども触れましたが、これまで会計事務所は、トップの所長先生が全ての業務を掌握し、自身の経験や前例をもとに経営判断を行ってきました。人材育成についても、「職場の中で先輩の背中を見て覚えろ」という手法が主流でしたが、そこに、研修という体系的な人材育成のシステムを取り入れることで、職場だけでは得られないスキルや知見を身につけるチャンスが生まれるのです。
それによって、各部門において専門性をもった人材が次々と輩出され、業務の分業化が進むのではないでしょうか。それぞれの適性や得意分野に応じて業務が割り振られるというのは一般の企業では当たり前のことですが、会計事務所でもそれが普通になっていくのではないでしょうか。
所長ではなく社長が、職員ではない社員と共に、サービスの質向上を追求する組織へと変革した事務所を運営していく。「一般企業化」した会計事務所が目指すのは、そうした組織なのです。
最後に、ビズアップ総研として、研修プログラムを設計・提供する際に
重視しているポイントや、今後の展望についてお聞かせください。

ビズアップ総研は、会計事務所を母体とした教育・研修サービスの提供企業です。つまり、会計事務所の旧来からの慣習も、一般企業の感覚も熟知している、唯一無二の企業なのです。
一般企業の感覚とは何か。私は、「人間力」の向上だと思っています。コミュニケーションスキルもコーチングの技術も、結局は人間力に起因します。ですからビズアップ総研では、一般企業で当たり前に行われている教育プログラムを会計事務所向けにアレンジし、研修サービスを提供し続けてきました。
長年、会計事務所の皆様と共に歩んでいく中で培われたノウハウや経験をもとに設計した、「人間力」向上のための研修サービスです。ビズアップ総研だからこそ可能な、これからの「会計人」を育成するための研修サービスだと自負しています。
これからも、魅力あふれる人材が生き生きと活躍する、5年後、10年後の明るい会計業界の未来を創るお手伝いしていきたいと思っています。