その一言が命取り!顧客の信頼をつかむ会計事務所のクレーム対応術

その一言が命取り!顧客の信頼をつかむ会計事務所のクレーム対応術

「クレーム対応」と聞くと身構えてしまう人も多いかもしれません。しかし、実は顧客の信頼を深めるチャンスでもあります。
とはいえ、自己流では思わぬトラブルを招くことも…。クレームをチャンスに変えるには、何をすれば良いのでしょうか?

本記事では、クレーム対応の基本から現場で役立つスキル、押さえておくべきポイントなどを、大手企業で人材育成に携わり、現在は2年先まで予約が入る人気講師として活躍する寺下薫先生に詳しく伺いました。

寺下 薫

クリエイトキャリア 代表・情報処理学会コンタクトセンターフォーラム 代表・キャリアコンサルタント。外資系企業では、数多くの部署の立ち上げ、立て直しに従事。その後、Yahoo! JAPAN(現在のLINEヤフー) に入社。入社後は、北九州センターの立ち上げに従事。社長からの指示で、1日半で200席のクレーム対応部署の立ち上げを行う。その後、人材育成部門の責任者となり、2013年からソフトバンクでも人材育成に従事。著書は5冊。2025年2月に株式会社クリエイトキャリアを設立し、代表取締役に就任。

はじめに、クレーム対応研修の目的や重要性を教えてください。

クレーム対応研修の目的は、顧客の不満や苦情に対し、冷静かつ的確に対応できるスキルを身につけることです。これにより、信頼の回復やクレームの再発を防ぐだけでなく、顧客満足度の向上をも目指します。
研修はまず、「クレームとは何か」を理解することから始めます。実は、クレームを直接伝えてくる顧客は全体の約4%。大多数は不満を抱えたまま、何も言わずに立ち去ってしまうのです。こうした事実を踏まえ、クレームが発生する背景や、顧客が求めていることについて考え、対応力の土台を築いていきます。

― 研修の内容はどのようなものでしょうか。

研修では、ただ理論だけを学ぶのではなく、受講者が自ら考えられるよう、体験型のワークショップも盛り込んでいます。実際の場面を想定した演習を通じて、現場で使えるスキルを身につけるのです。
また、クレーム対応時に注意すべき「言葉づかい」についても学びます。たとえば、「ですから」という言葉には、「もう説明しましたよね?それなのに理解していないのですか?」といったニュアンスを感じ、反感を覚える人も。細かな表現の違いで対応の印象は大きく変わってしまうという、言葉選びの重要性を具体例とともに伝えています。

クレーム対応研修で、どのようなスキルが身につくのでしょうか。

顧客対応の基本や心構えに加え、実践的なテクニックが身につきます。たとえば、「顧客からの電話の声が小さかったり、電波が悪かったりするとき、どのような言い回しが適切か」など、具体的なシーンに応じた対処法を学びます。
また、顧客の不満が発生しやすい場面をあらかじめ理解し、注意深く対応するスキルも習得。こうしたスキルは、クレームを未然に防ぐだけでなく、顧客との信頼関係を築く上でも大きな助けとなります。

実際にクレーム対応研修を受けた方の成功事例を教えてください。

たとえば、ある受講者は以前、クレームに対してどうしていいかわからず黙り込んでしまい、顧客をさらに怒らせた経験がありました。しかし、研修でクレームへの初動や適切な言葉の使い方を学んだ結果、クレームをうまく処理できるようになったのです。
また別の方は、謝罪の言葉を工夫することで、顧客の怒りを和らげやすくなりました。「申し訳ございません」だけでなく、「ご不便をおかけして大変失礼いたしました」など、状況や相手の気持ちに寄り添った表現を使い、誠意をより伝えられるようになったといいます。

会計事務所に対して発生しやすいクレームはありますか。

まずは、繁忙期における対応の遅滞が考えられます。職員が業務に追われ、電話の折り返しやメールの返信が遅れたり、忘れたりといったことです。また、顧客が困っている状況で共感を見せないなど、機械的な対応がクレームを招くこともあります。
加えて、専門用語の多用、不明確な料金体系など、顧客が理解できない部分でも不満が生じやすいといえます。

もしもクレームを受けてしまったとして、適切に対処できた場合、会計事務所にとってどのような良い影響がありますか。

適切なクレーム対応ができれば、「この会計事務所は信頼できる」「この職員は親身に相談に乗ってくれる」といった評価を得られ、顧客の満足度向上や顧客からの信頼獲得につながります。そのような深い信頼関係が築ければ、すれ違いや不満の蓄積が抑えられ、契約の継続率が上がるでしょう。さらに、良い口コミが広がったり、直接顧客を紹介してもらえたりする可能性も高まります。

反対に、不適切なクレーム対応にはどのようなリスクがあるのでしょうか。

先ほどお話したように、クレームを伝えてくる顧客は全体のうちわずか約4%。多くは不満を口にせず、別の会計事務所へ乗り換えてしまいます。そのような状態が続けば、売上減少につながりかねません。
また、対応の悪さが口コミで広まり、「この事務所は対応が悪い」「連絡が遅い」といった印象が定着すると、新規顧客の獲得が難しくなります。結果として、事務所の成長や安定的な経営に影響を及ぼすリスクが高まるのです。

理不尽なクレームと正当なクレームの違いは、どのように見極めればよいのでしょうか。

判断のカギは「お客様の立場で考える」ことですが、これは口で言うほど簡単ではありません。だからこそ、研修ではクレームを性質ごとに分類し、それぞれに合った対応方法を学びます。また、クイズなどを使って自分の思考の癖に気づけるような工夫も取り入れています。
相手にのまれず、また自分の感情をコントロールし、クレームを冷静に見極める力こそが適切なクレーム対応の第一歩。そのためにはやはり、事前に過去の事例や想定ケースで学んでおくことが必要です。

近年、世の中に多く見られるクレームの種類やその背景を教えてください。

クレーム対応の難易度は以前よりも上がっています。たとえば、SNSの普及により、不満を持った顧客が企業などの対応を即座に拡散するケースが増えました。
また、暴言や無理な要求を伴う「カスタマーハラスメント(カスハラ)」も増加しています。しかし実は、カスハラの約9割は、はじめは一般的なクレーム。企業側の不適切な対応によって深刻化し、カスハラに発展してしまったのです。
つまり、適切なクレーム対応ができれば、カスハラは激減します。「顧客を怒らせない対応力」を学び、クレームの悪化を防ぐことは、従業員の負担軽減にもつながるのです。

研修を受けるべきか悩む会計事務所へ、背中を押すひとことをお願いします。

多くの会計事務所はクレーム対応研修をまだ導入していません。しかし、研修によって得られるメリットは非常に大きく、特に課題を抱える事務所には効果的です。たとえば、顧客からのクレームや指摘が増えているなら、対応ひとつで顧客満足度が大きく変わり得ます。また、「売上が伸びない」「顧問契約が減っている」といった課題も、クレーム対応の見直しが改善のきっかけとなることも。
適切な対応で顧客との信頼関係が深まれば、結果的に売上の安定や成長にもつながります。つまり、クレーム対応研修は単なるトラブル対策ではなく、企業戦略の一部として位置づけるべき重要な取り組みなのです。

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