「資産税特化」から「総合型事務所」への挑戦
2033年・300名50億円へ。ダブル代表が描く設計図

「資産税特化」から「総合型事務所」への挑戦 2033年・300名50億円へ。ダブル代表が描く設計図

アイユーコンサルティンググループ 代表・税理士 岩永 悠 先生(左)
アイユーコンサルティンググループ 共同代表・税理士 出川 裕基 先生(右)
株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広 

前回、福岡・博多のオフィスを訪ねたのは2021年のこと。当時の売上は7.2億円。資産税に特化した気鋭の事務所として、業界の注目を集め始めていた頃である。あれから5年。アイユーコンサルティンググループの売上は26.2億円、人員は223名に達した。だが、今回の取材でふたりの代表が語ったのは、その成長ではなく「総合型事務所へのシフト」。今年7月には東京・新宿に顧問業務の戦略拠点となる「ミライベース東京オフィス」を開設。同時に東京の社労士法人RIMONO Work-Life Designをグループ化し、税務と労務の一体支援体制を構築した。資産税特化で走り抜けてきた事務所が、業界の王道へと「原点回帰」する。創業者である岩永悠代表と、出川裕基共同代表。ダブル代表体制で走るグループの設計図を、おふたりに伺った。【BIZUP 2026年10月号掲載】

5年で約3.6倍の成長を実現

吉岡高広(以下吉岡):まずグループ全体の概要と、売上のポートフォリオからお聞かせください。

岩永悠先生(以下岩永):6月決算で、基本的にはグループ法人すべての決算期を6月に揃えています。前期の売上が26.2億円、223名です。うち3割がパートなので、パートを0.5名で計算すると、生産性としてはひとり当たり約1,350万円というところです。内訳でいうと、母体である税理士法人アイユーコンサルティングだけで19.3億円ほど。顧問型の税理士法人IUManagementが3.1億円。今回グループにジョインしてくれた社労士法人RIMONOWork-LifeDesignが1.8億円。社労士法人アイユーマネジメントとその他で2億円くらいです。

吉岡:前回取材時が7.2億円でしたから、5年で約3.6倍です。この間、何が起きたのでしょうか。

岩永:5年前は、僕も現場のプレーヤーとして動いていました。ところが、翌年に10億円を超え、人数も100名に達しました。そのタイミングで、拠点・部の責任者―GM(ゼネラルマネージャー)と呼んでいますが、その幹部たちに「組織運営はGMに任せる、僕と出川は経営に専念する」と言い切ったのです。そうして僕ら代表は経営方針の決定や大手の提携先の営業だけに切り替えました。もちろん担当しているお客様がいるので、完全に現場から抜けたわけではないですが、大部分を営業に振り切ったら大手との提携に動きやすくなりました。おかげでその間に大手証券会社2社との提携が決まり、かなり売上基盤は安定しました。基盤が安定すると、雇用がしやすくなります。その間に人事・採用の専任者を入れ、人事部ができたことで採用も安定しました。そうした経緯もあり、創業10年かけて100名・10億円だったのが、直近3年間で10億円以上、人員も約100名増加したわけです。代表陣や幹部がまとめてやっていた役割を、代表が経営、GMが運営、そして人事や広報、総務・経理・労務がそれぞれ機能し、組織が回るようになったことで、一気に成長できたと感じています。

吉岡:士業の事務所運営から、企業化してきたという印象を受けます。

岩永:本当にその通りだと思います。士業集団だったグループに人事や広報があり―これはどの企業にもあると思いますが、それらに加えてDXソリューション部も作りました。いち税理士法人から、企業としての機能と専門部隊ができ始めた。企業としての成長という意味では、この5年が一番伸びたのかな、と。その結果が数字に表れたのだと思います。

吉岡:16拠点というのは、この規模の事務所としてはかなり多い印象です。

岩永:ほとんどの拠点は、創業当時からいるメンバーがそのまま事務所長(GM)に上がっています。人数が多い拠点で30名ほどですが、それ以外は10名くらいですから、GMは比較的マネジメントしやすいはずです。一方僕ら代表陣は、GMさえマネジメントできればいい。それに、アイユーコンサルティンググループは相続を中心に大きくなってきたので、ひとつのエリアで収益を上げ続けることが難しい構造もあります。というのも、相続税申告は全国トップクラスの事務所の上位を合わせても全体の数パーセント程度のシェアにとどまっており、地場の税理士の先生方が強いのです。また、提携先からのご紹介案件が中心となるため、1拠点あたりの紹介数や売上にはどうしてもアッパー(上限)ができてしまいます。だからこそ、横展開を強化してきました。士業でマネジメントが得意な人はそう多くないですが、10名くらいまでなら目を配れますから、そういう意味でもうまく回っているのではないでしょうか。

吉岡:ダブル代表という体制ですが、役割分担はどうなっているのでしょうか。

岩永:形としては、僕と出川がグループ全体の代表を務め、母体である税理士法人アイユーコンサルティングの代表社員は、僕たちふたりに西日本統括の神谷を加えた3名体制です。

出川裕基先生(以下出川):共同代表としてジョインした当時は、僕が関東を開拓していたこともあって東日本を担当しているイメージを持たれがちですが、地域割りというよりは部門ごとです。たとえば今回の顧問部隊「ミライベース」や人事部門は僕が見ていて、海外移住コンシェルジュサービスや広報部門は岩永が推進する、という感じです。結局は、得意分野次第だと思います。営業に関しては、僕も岩永も得意分野は違えどどちらもできるので、それぞれが考え、自由に動く。

そして、グループの代表から降りてきた案件を全部まとめてくれるのが神谷です。最終的には全て神谷に集約されるので、一番大変なのは神谷かもしれません(笑)。

「相続・事業承継案件1,800件」という
強さと弱さ

吉岡:相続・事業承継の年間案件数が2021年の630件から1,800件超へと3倍近く増えています。一体どうやって増やされたのでしょうか。

岩永:拠点が増え、「全国区」と認識していただけるようになり、大手証券会社や、大手葬儀会社との提携が進んだことが大きな要因だと思います。面白いのは、たとえば提携先のとある支店で評価されると、その評判が他支店へ伝わり、さらに転勤した担当者の方が赴任先でも「アイユーコンサルティングが良い」と広めてくださるんです。そうやって、2023年頃には今の営業チャネルがある程度固まりました。弊社は基本的にBtoBtoCのビジネスモデル。個人のお客様からのサイト等を経由した受任案件は1,800件のうち20件ほど。残りはすべて紹介です。

吉岡:ほぼすべてが紹介ですか。

岩永:良くも悪くも紹介です。だからこそ、質の高いサービスを、どの拠点でも画一的に提供する必要があります。属人化しないようにシステム開発・導入を含めた仕組み化や、担当者の営業や実務のスキルを高める社内研修などにも取り組み、拠点ごとに提供するサービスの質に差が出ない状態を作っています。こうした甲斐もあり、案件終了後のお客様アンケートでは満足度98%以上を維持しています。お客様の満足度が高いから紹介が増えていく、という循環です。

吉岡:それだけ高い満足度を維持できているからこそ、紹介が途切れず増え続けているのですね。一方で、それだけの圧倒的な実績がありながらも、おふたりは早い段階から相続マーケットの変化や将来の課題を見越していたそうですね。

出川:マーケット自体は2040年まで伸び続けますし、2050年になっても、つまり24年後でも、現在の死亡者数よりは多い。ただ、数多くの案件を手がける中で「AIやテクノロジーを活用すれば、申告書を作成する作業自体は標準化・自動化できてしまう領域」という実態が見えてきたのです。誰かがAIで申告書を自動作成する仕組みを作り、お客様が税理士に頼むのは最終レビューだけという時代になったとき、このまま拡大しても「成長」ではなく、ただの「膨張」に終わってしまうのではないかという強い危機感を持ちました。

岩永:しかも、僕も出川も「50代前半で税理士法人の代表を退く」と公言しています。自分たち世代は安泰だとしても、残されたメンバーは大変ですよね。組織が300名、500名規模になっても提供できるサービスがない状態にして去るのは、経営者として不義理でしかありません。だからこそ、既存事業が好調で体力があるうちに、次の時代を支える新しいビジネスを作っておかなければならないと考えたのです。

二極化戦略
―「ダイレクト相続」と士業連携の強化

吉岡:その危機感への答えのひとつが、相続税申告業務のシステム化ということでしょうか。

出川:はい。これまでは、プロである税理士がお客様の元へ伺い、財産リストを作って必要書類を案内・回収していました。当然そこには人件費がかかりますし、お客様の手間もかかります。原価のほとんどが人件費と移動費と言っても過言ではありません。でも、これがWEBで完結できれば一気に低価格化できます。特に2015年の税制改正以降、財産7,000万円未満の「申告は必要だが税務リスクが極めて低い層」が増加しています。弊社ではこの層に向けて、システムを組んでオペレーターが電話やWEB相談で対応し、資料さえ集まればほぼ完結する仕組み「ダイレクト相続」の開発を進めています。これをリリースすると、今までの報酬の半額、あるいはそれ以下でサービス提供ができる世界観となっていくでしょう。

吉岡:実際、AIとプロ(人)の差はどの程度なのでしょうか。

出川:それも実際、検証してみました。財産が7,000万円以下、特に問題になる論点もない案件で、税務メンバーが税額を計算したら、納税額は28万数千円でした。これに対して、AIが出した数字は32万円。差は4万円です。しかもその4万円は、土地評価のちょっとした違いでした。これが3か月前の話なので、おそらく現在はもっと進歩しています。さすがに数十万円も差があれば、お客様は“人が対応してくれる申告”を選ぶと思いますが、AI側の精度が上がって誤差が数千円になれば、「小規模な相続案件なら、税理士は要らないよね」という話になる。遠くない未来、そんな時代が来ると思います。

吉岡:この仕組み、同業の先生方にも開放していく構想があるのですか。

岩永:プラットフォームとしての展開を考えています。一般的な顧問事務所では、相続税申告ができる職員がいないので、結局はすべて所長先生がひとりで申告書を作らなければなりません。

それが、必要な情報を入力すれば申告書が出てきて、チェックさえできれば良くなる。すでにある大手事務所がそうしたサービスを展開されていますが、同様の利便性を提供できるイメージです。さらに全国の先生方と提携することで、この顧客層がどんな金融資産や不動産、保険を保有しているかという貴重なビッグデータが生まれます。自社単体での相続税申告件数は年間1,000〜1,500件程度ですが、プラットフォーム化によって年間1万件規模になれば、さらに新しい価値を生み出す面白いデータになるはずです。

DX化・AI活用で
年間8,000時間以上の削減に成功

吉岡:DX化・AI活用推進専門部門を立ち上げた経緯を教えてください。

岩永:きっかけは2020年頃、DX化が進んでいたとある事務所の見学会に行ったことです。そこでRPAの活用を見て、これはすごいなと感じました。そして偶然にも、弊社に元々そうした分野に興味のあるIT系の専門学校出身の税務メンバーがおり、キャリアの話をしていくうちにDXの道に進むことを決めてくれ、現在はDXソリューション部のマネージャーとしてDX化やAI活用を推進してくれています。

吉岡:具体的にはどのような効率化を進められたのでしょうか。

岩永:以前は、申告書の作成ひとつとっても、“転記作業”がとても多かったのです。資料をスキャンし、それをExcelに打ち込む。Excelにはマクロが組んであり、そのマクロで処理したものを、今度は申告ソフトに手入力で打ち直していました。そこでまず、マクロから申告ソフトへ飛ばすためのRPAを自社で作りました。うまく入らなければエラーが出るので手入力が必要ですが、少なくとも手入力は1回に削減できました。現在はAIが読み取った情報を新しいアプリに入れれば、そのまま自動で流れていくので、人の手を介しません。ヒューマンエラーが一番のエラーだと思っているので、まずは申告ソフトを中心に、そうした“エラーの元”を潰してきました。数多くのツール開発や自動化により、今では年間8,000時間以上の削減に成功しています。

吉岡:社内の基幹システムも刷新中と伺いました。

岩永:従来の基幹システムは、人員規模が50名くらいの時にkintoneで作りました。ただ、いろいろと機能を足していくうちに、APIが増えすぎて重くなったり、使い勝手も悪くなってしまったんです。そこで現在、約4,000万円を投じ、外部のAIエンジニアと協力して全面刷新を進めているところです。

吉岡:そこまでかけて刷新されるのですね。

岩永:生産性向上に向けた業務効率化などの目的もありますが、一番の狙いはアップセルです。金融機関のデータベースのように、顧客情報を検索すれば財産状況やご家族構成が一目で分かり、「このお客様にはこういう提案が不足している」と自動で提示される仕組みを目指しています。蓄積されたデータをもとにAIが提案の切り口を考えてくれるようになれば、営業効率や提案精度は劇的に上がります。だからこそ、営業力を高めるための重要な投資としてしっかり予算をかけているんです。

吉岡:社内システムの効率化・自動化にとどまらず、顧問業務や中小企業の成長支援など、外部に向けたシステム開発も進められているのでしょうか。

出川:「アイユー財務ナビ」という仕組みを開発しているのですが、これがかなり便利です。ひとことで言えば、「資料をPDFで格納すれば申告書まで一気通貫できる」イメージです。さすがにまだ“申告書を1発で出力する”レベルには到達していません。ただ、3期分の資料を入れておけば、月次と決算、9か月経過時点での節税提案資料が自動で出てくる仕組みになっています。加えて、面談で話している内容を文字起こしアプリで取り込み、会社の情報も自動で入力されるようにしています。AIエージェントも搭載されており、「この数字は何だっけ?」と聞けば、会計ソフトとも連携してデータをもとに回答してくれます。「この社長は何を考えていた?どんなサービスを提供すればいい?」といった質問にも、全部答えてくれます。
さらに、お客様の地域と会計データを拾って、利用できる補助金や助成金、適用できる税務特例も自動で教えてくれます。このシステムを通じて、「誰が担当しても顧客の成長支援につながる最高水準のサービス」を提供できるようにすることが、今後の狙いです。

吉岡:これは同業向けに販売されるのですか。

出川:それは考えていません。外部に提供すると、自社の顧問部隊の優位性を薄めてしまいますし、何よりAIのリスク管理という観点を最優先に考えているからです。万が一、外販先でAIが誤った判断をした際の責任の所在や、士業としてのコンプライアンス、フォロー体制をどう担保するのか。お客様の信頼を第一とする以上、そこに対する厳格なリスク管理とガバナンスが効かない形で広めるべきではない、という判断です。
顧客向けのAIチャット機能もすでに用意していますが、同じ理由で責任と品質が完全に担保できる運用ラインを慎重に見極めながら、ローンチ時期を検討している段階です。

創業の原点「事業承継」への取り組み

吉岡:事業承継専門部署の立ち上げについて、詳しく伺えますか。

出川:かねて事業承継部隊の構想は考えていたのですが、2024年にようやく「承継アドバイザリー部」として形になりました。事業承継を支援するには、前提として顧問と相続の両方の知識が必要です。だから、まず相続分野を拡大してきました。ところが営業を徹底的に行った結果、お客様が予想以上に増えてしまい、事業承継をメンバーに教える時間を確保することができずに数年が経過してしまった。そうした中、ちょうど前職の同僚であり、事業承継に強かった松下(現・承継アドバイザリー部部長)が連絡をくれて、それがきっかけで入社が決まり、「承継部隊を作ってよ」とお願いした、そんな経緯ですね。

吉岡:現在の規模感を教えてください。

出川:「承継アドバイザリー部」立ち上げから2年半ほど経ちますが、年間100件程度の相談をいただいています。スポットでの依頼が多く、100万円から300万円がボリュームゾーンです。部隊以外に事業承継支援に対応できる一部GMもおり、売上にして2億円ほどです。部署の人数はまだ6名と少数精鋭ですが、将来的には増員も見据えています。

吉岡:今後の拡大戦略はいかがでしょうか。

岩永:拡大の軸となるのは、自社単体での営業力強化に加えた「各種アライアンスの構築」です。大手コンサルグループで元役員を務めた経歴を持つ鈴木(現・営業統括部部長)が2026年4月に参画し、同業や他業種とのアライアンス連携を組織的に推し進めています。その中でも、特に注力しているのが同業の税理士・会計士の先生方との協業プラットフォーム「IUダイレクト」の強化です。全国の会計事務所において、通常の顧問業務には対応できても、複雑な事業承継まで深く支援できる体制を整えている先生方は決して多くありません。そのため、外部コンサルタント等から商品販売を目的とした偏った提案(安易なホールディングス化など)を受け、そのまま顧問先が受け入れてしまうケースも見受けられます。

しかし、本来経営者が最も信頼し、日常の相談を寄せる存在は税理士であるべきだと僕は考えています。過去の数字を処理するだけの業務がAIに代替される時代だからこそ、経営者の意思決定に寄り添い、大切な顧問先を「面」で守っていくコンサルティング機能が、いま求められています。この想いに共感いただき、すでに300社以上の事務所様にご登録いただいています。この「IUダイレクト」の取り組みをさらに深化させ、承継アドバイザリー部部長の松下が中心となって本格スタートさせたのが「承継塾」です。

取材に同席していただいた、
承継アドバイザリー部部長で税理士の松下孝司先生(左)と、
ミライベース東京オフィス長で同じく税理士の谷之口祐弥先生(右)。

出川:「承継塾」は、すべてがオフライン、懇親会付きの勉強会です。他の資産税系の事務所も同じような取り組みをされていますが、あくまで“相続に特化したもの”が多いですよね。承継で、しかも同業向けにきちんとした仕組みとして展開している事務所は、ほぼないと思います。研修を受けてもらったうえで、実際の案件に活かしつつ、必要であれば僕らも伴走しながら案件に取り組んでいく仕組みにしたい。そんな事業承継を支援する“同志”のネットワーク・プラットフォーム作りを目指しています。

吉岡:類似の取り組みがないわけではありませんが、どこで差別化していくご予定ですか。

岩永:最大の差別化は「単なる知識の習得」ではなく、「先生方の事務所で事業承継をひとつの事業(売上の柱)として成立させること」を目的としている点です。僕たちがこれまでぶつかってきた壁と、その超え方をノウハウとしてすべてお伝えします。株式評価案内のタイミング、アプローチ用のチラシ、ニーズを引き出すトークスクリプトや提案ツールまで、事業化に必要なものはすべてお渡しする仕組みです。

吉岡:「アイユーコンサルティングに案件をください」ではなく、「ご自身の事務所でできるようになってください」という仕組みなのですね。

岩永:そうです。仮にご自身での対応が難しい場合は、ご紹介料として報酬の一部をお渡ししています。ただ、本音を言えば、この承継塾で、我々の実務ノウハウを持ち帰っていただき、内製化していただきたいですね。事業承継支援は、日々の顧問で経営者に信頼を得ている税理士が担うべきだとずっと考えてきました。自社に合わない偏ったスキームで企業が衰退し、地域の雇用や誇りが損なわれるような事態は何としても防がなければなりません。もちろんアイユーコンサルティンググループ単体の力には限界がありますが、全国の先生方が事業承継のノウハウを習得し、地域の中小企業を支えられるようになれば、日本全体がもっと元気になります。まさにグループビジョンに掲げる「日本のミライに豊かさを」を、ともに実現していくための取り組みこそが、この「承継塾」なのです。

なぜ今、顧問なのか

吉岡:今回の取材で最も驚いたのが、通常の税務顧問に本格参入されるという点です。

出川:これまでは相続、事業承継が中心だったので、事業会社のクライアントはあまり能動的に獲りにいかず、資産税案件に付随する形でホールディングスや資産管理会社を中心に受任してきました。母体である税理士法人アイユーコンサルティングで約600社、顧問特化の税理士法人IUManagementで約460社と、グループ全体で約1,000社以上の顧問先を抱えていますが、これらも営業をかけずに自然と増えてきたものです。さらに言うと、IUManagement単体の売上3.1億円のうち、保険や不動産の仲介手数料は各1,000万円未満で、純粋な税務・申告報酬だけで3億円を計上しています。

吉岡:手数料ビジネスに頼らず、純粋な顧問報酬だけでそこまでの実績があるのは驚きです。

出川:だからこそ、今後はお客様の成長につながる「高付加価値な提案ができる顧問体制」へと進化させていきたいと考えています。提携先や紹介元の皆様にしっかり経済的なメリットをお返ししつつも、特定の商品に縛られず、真に「顧客のためになる最適解」を提案する。お客様・紹介元・自社の三者が発展する“良い経済の循環”を作り出すために、あえて今、税理士の本業である顧問領域へ本格的に回帰・参入する決断をしました。

吉岡:すでにグループ内に顧問業務を手がける税理士法人がある中で、今回の顧問部隊「ミライベース」はどのような立ち位置になるのでしょうか。

出川:税理士法人IUManagementは、あくまで相続・事業承継案件に対応する中で派生した顧問先の受け皿として機能させていきます。一方で「ミライベース」は、成長意欲の高い中小企業の新規顧問獲得に特化した攻めの部隊です。今年7月の開設にあたっては、最年少マネージャーの谷之口をミライベース東京オフィスの責任者に据えました。今後は彼を筆頭とする東京8名、北九州6名の計14名体制で税務顧問サービスを展開します。さらに、グループに合流した社労士法人RIMONOWork-LifeDesignのメンバーにも東京オフィスへ常駐してもらい、税務と労務が一体となったワンストップの支援体制を整えていきます。

吉岡:ミライベースとしての目標数値は?

出川:初年度目標は2.1億円。今のところ「全然足りないね」と言っているのですが、谷之口のことですからやり切ってくれるのではないでしょうか(笑)。

吉岡:資産税特化から総合型へ、というのは非常にレアケースだと思います。

出川:確かに、資産税特化から総合型に切り替える事務所はないと思います。

吉岡:岩永先生は、この転換をどう捉えていますか。

岩永:弊社のグループミッションは「中小企業と資産家を支えるプロフェッショナルとして、高付加価値サービスを提供する」なのですが、これまでは「事業承継」という局面でしか中小企業を支えられていない現状がありました。
しかし、企業には「創業・成長・成熟・承継」という一連のサイクルがあり、承継しかカバーできていない状態は、ミッションから乖離しているのではないか、という違和感があったんです。成長期から承継期までを一貫して支えてはじめて、真の意味で中小企業を成長させることができる。そのためにも、各フェーズに寄り添い、持続的な成長を支援できる総合型へとシフトしていく必要がある。そしてそれこそ、グループビジョンに掲げる「日本のミライに豊かさを」にもつながることだと考えたのです。

吉岡:顧問サービスの設計について教えてください。

出川:顧客のニーズに応じて「松・竹・梅」の3段階で設計しています。
 【梅】税務顧問
 【竹】ミライサイクルライト
 【松】ミライサイクル
まず基本的な「税務顧問」ですが、世の中の多くの事務所は財務分析や経営助言といったコンサル要素まで提供しておきながら、結局は低い税務顧問料の範囲内に飲み込まれてしまっているのが実情です。これを避けるため、弊社の税務顧問はあえて「凡事徹底」に特化させています。迅速なレスポンス、期日通りの資料回収、確実な税務相談や情報提供。顧問先専用のLINEグループを通じて動画で画一的かつ質の高い情報提供を行うなど、誰が担当しても一定の品質を維持できる体制を整えています。裏側では先ほどお話しした「アイユー財務ナビ」が動いており、顧問料は売上1億円未満の企業で年間60万〜80万円ほどです。

吉岡:「ミライサイクルライト」はどのようなサービスですか。

出川:一言でいえば、「予実管理」に特化したサービスです。初期費用5万円で単年度の予算を設定し、以降は月額3万円で毎月の進捗を伴走フォローしていきます。弊社では「bixid」さんのツールをベースにサービスを提供しています。

吉岡:そして「ミライサイクル」が本丸だと。

出川:ここは従来の税務とはまったく切り離された領域です。「本気で売上1億円の突破やさらなる成長を志す経営者」のための伴走支援サービスです。単にキレイな事業計画書を作るだけでは意味がありません。数字を日常の行動にまで落とし込むことが重要です。KGIやKPIに加え、「明日100件テレアポする」というKDIのレベルまで、1日単位の行動を明確化します。意欲はあっても具体的な行動指針が分からない経営者は多いため、そこを壁打ち相手として1年間追っていきます。初期費用(計画策定に丸2日投入)として30万円、以降は月額7万円からスタートし、規模に応じて柔軟に設定していきます。

吉岡:行動と決断にまで伴走する、そんなサービスなのですね。

出川:その通りです。AIが作業としての税務処理を代替していく時代において、経営者の意思決定を支援できない税理士は淘汰されていきますから。

吉岡:ただ、「伴走支援」はマニュアル化しにくい領域ですよね。経営者の決断を支援するというのは、人柄に寄ってしまいそうです。

出川:実は再現性を高く保つことができます。必要なのは感覚的な営業トークではなく、「徹底的な逆算思考」の掘り下げだからです。たとえば「社員の給料を1,000万円にしたい」。それって売上にするといくらなのか、利益はどうなのか、現在のチャネルから実行できるものはどれか。そして、そのチャネルを増やすためにはどういう行動が必要なのか。ずっと「なぜ、なぜ」を掘り下げていくだけです。10回ほど「なぜ」を掘り下げれば、十分に行動まで落とし込むことができます。ゴールと明日の行動がつながっていることを、経営者ご自身に納得して決定していただくアプローチです。

吉岡:実際に「行動に移してもらうこと」が最大のハードルになりそうですが。

出川:おっしゃる通りです。なので、ご契約前には「自ら行動することを約束できないなら、このサービスを受けるべきではありません」と明確にお伝えします。どれだけ優秀な計画でも、動かなければ1円も売上は上がらないですから。

吉岡:なるほど、ではターゲットとする企業規模はどのくらいですか。

出川:創業支援は提供しないので、売上3,000万円〜3億円くらいの規模をメインに、伴走支援ができる経営者の方を狙います。

吉岡:今後の展開はいかがでしょうか。

出川:前述のミライベース東京オフィスの開設と同時に、北九州事務所内にミライベースのチームを新たに組成し、「ミライベース北九州オフィス」を併設しました。今期中には広島事務所も「ミライベース」の拠点として運営する予定です。税理士法人アイユーコンサルティングとしての顧問先は、ミライベースと広島を合わせて現在300〜400件ほどですが、目先は1,000件まで持っていきたいですね。クライアントに満足いただけるサービスさえ提供すれば、自ずとご紹介もいただけます。売上目標イメージでいうと、1,000件あれば10億円弱くらいでしょうか。そこまでくれば、僕は抜けてもいいと思っています。拠点展開については、「拠点を出したい」と手を挙げるメンバーがいれば、経験にもよりますが積極的に任せていく方針です。

非同族承継と、次世代経営陣の採用

吉岡:採用の状況を教えてください。

岩永:直近の13期は29名を採用しました。12期は44名採ったのですが、今期はさらにターゲットを絞る方針です。背景としては、AI活用が急速に進んでいる状況もあり、作業者の採用は最低限にとどめ、中途は資格者、新卒は税理士を目指す人へとターゲットを絞っています。現時点で所属税理士は38名。223名に対して38名ですから、業界で見ても全体の人員に占める税理士の割合はそれほど悪くないと思っています。一方で、顧問業務に関しては基礎的な税務知識はある前提でコミュニケーション能力の方が大切だと考えています。それでも税理士の採用を積極的に行っているのは、組織として確かな安心感をお届けした上で、適切なアップセルを図っていきたいからです。

吉岡:新卒採用を再開されていると伺いました。

岩永:僕はかねて「非同族での事業承継」を行うと公言しています。中途で入社してくれた優秀なメンバーたちが現場の第一線で活躍してくれているからこそ、今後はさらに彼らと切磋琢磨し、グループの未来を共に担っていく次世代幹部や税理士の層をより分厚くしていきたいと考えています。そのためにも、将来の幹部候補・プロフェッショナル候補となる若手人材の育成に力を入れています。来年4月には、厳しい選考を勝ち抜いてきた優秀な新卒メンバーが入社予定です。今いるメンバーの背中を追いかけながら、将来のグループを背負う存在へ育ってくれることを期待しています。

2033年、
300名50億円へ向けたビジョン

吉岡:改めて、2033年に300名50億円という目標の内訳を教えてください。

岩永:現在の売上ポートフォリオやマーケットをベースに見ると、50億円のうち資産税案件が30億円程度を占める売上となる見通しです。顧問部隊は税理士法人IUManagementとミライベースを合わせて13億円ほど、事業承継領域は3〜5億円規模まで伸ばしたいですね。

吉岡:2033年というのは、節目の年でしょうか。

岩永:創業20周年です。10年目で10億円を達成したときに「2033年に35億円300名」を目標としました。ところが前期で20億円を超え、さらにシステムへの投資やAIの急速な進化により作業的な業務を自動化・RPA化できる目途が立った。そのため、従来の「人員を増やして売上を伸ばす」モデルではなく、テクノロジーを活用して「生産性を極限まで高め、組織規模を300名に抑えたまま50億円を達成する」方針へと今年7月に切り替えたのです。その分、メンバーの給料を上げることもできますからね。

吉岡:M&Aで拠点を増やしていく、という考え方はないのでしょうか。

岩永:あまり考えていません。会計事務所のM&Aは「人買い」の要素が強いと思いますが、そうすると文化の統一が大変ですから。M&Aを考えるなら、むしろ他業界の事業会社ですね。買える母数が多いので、グループのビジネスにフィットする企業が出てくる可能性も高い。福岡だとインバウンド需要も好調ですから、観光需要を取り込むホテルやサウナ事業も面白そうです。僕自身は不動産が好きなので、不動産会社には興味がありますね(笑)。

「中小企業のデパート化」と
経営資源全体への多角支援

吉岡:特に出川先生がおっしゃる「中小企業のデパート化」について、具体的にはどのような構想をお持ちなのでしょうか。

出川:グループビジョンである「日本のミライに豊かさを」の実現に向け、中小企業が抱える課題をワンストップで解決できる事業会社や体制を作っていきたいと考えています。日本の企業の99.7%は中小企業ですから、中小企業が豊かにならなければ、日本全体の豊かさを生み出すことはできません。これまでの会計事務所は、経営資源(人・モノ・カネ・情報)の中で「カネ」だけを扱ってきました。もちろん、お金の意思決定支援を一手に担っているからこそ経営者からの信頼は厚いのですが、中小企業の現場で起きているお困りごとは決して「カネ」だけではありません。だからこそ、「ヒト(組織・労務)」の課題に対してはグループ化した社労士法人と連携して解決できますし、ゆくゆくは「情報(DX・データ・AI)」の課題には僕たちのDXソリューションのノウハウを、さらに採用支援やブランディング、広報支援、M&AやBPOに至るまで、「中小企業の経営課題なら、まずミライベースに相談しよう」と思っていただける状態をつくる。これが僕たちの目指す「中小企業の総合デパート化」です。
そのすべての起点であり、もっとも重要な信頼の入口となるのが「税務顧問」です。まずは「ミライベース」を通じて顧問というポジションをしっかりと取りに行き、成長意欲のある中小企業に全集中して、経営資源の課題をグループ全体で丸ごと解決できる体制を確立していきます。

吉岡:岩永先生ご自身の出口はどうお考えですか。

岩永:税理士法人アイユーコンサルティングの代表自体は、50代前半で引退します。以降は、事業会社の経営にシフトするつもりです。少子高齢化が進む日本において、相続関連ビジネスは今後20〜25年にわたって市場規模が維持・拡大していく極めて珍しい領域であり、「シルバービジネスの究極系」と言えます。一方で、AIの進化によって手続きや処理のコモディティ化が急速に進み、参入する競合も増えています。現時点で後発の競合に追い抜かれるような状況はありませんが、今後どうなるかは分かりません。そう考えると、「マーケット自体は拡大するが、従来の単発型手続きビジネスは20年も持たない」というのが僕の見立てです。
だからこそ、アイユーコンサルティンググループは単なる「作業代行としての税理士業」の枠にとらわれていません。過去の作業処理から脱却し、「日常から経営者に伴走し、未来の意思決定を支えるコンサルティング」こそが、これからの時代に求められる本質的な高付加価値です。出川も言っていた通り、財務や税務といった「カネ」の領域にとどまらず、経営資源のあらゆる課題をワンストップで解決する「中小企業の総合デパート化」を推進し、形にすること。それこそが、創業者である僕自身の最大の使命であり、果たすべき役割だと考えています。

プロフィール
いわなが・ゆう
いわなが・ゆう
1983年生まれ。西南学院大学経済学部卒業、京都大学経営管理大学院上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。26歳で税理士登録。税理士法人2社で経験を積み、2013年独立。15年法人化。資産税に特化した税理士法人として、わずか数年で西日本トップの相続税申告件数を誇るまでに急成長させる。現在はグループビジョンに掲げる「日本のミライに豊かさを」の体現に向け、相続・事業承継分野を基軸に企業の成長支援や海外事業など多角化を推進。社労士法人や行政書士法人等も擁する国内有数の総合コンサルティンググループを牽引している。創業者としてグループ経営に携わる一方で、自身も組織再編を活用した高度な事業承継、相続対策を提案・実行。提案型コンサルタントとして大型案件を中心に実務を行いながら、セミナー活動や団体活動を中心に業界発展のために力を注いでいる。
でがわ・ゆうき
でがわ・ゆうき
1987年生まれ。法政大学経済学部卒業。2009年に国内大手税理士法人の東京本社に入社。同所では最年少管理職を担い、相続税申告、事業承継、組織再編及び地主の相続対策、M&Aなど数百件以上の資産税案件を手掛けてきた。17年よりアイユーコンサルティンググループに参画し、共同代表に就任。持ち前の営業手腕で首都圏開拓を一手に担い、組織の急成長を実現させた。現在は共同代表としてグループ全体の経営にあたり、顧問部隊「ミライベース」の立ち上げを主導。税理士の枠にとらわれず、人・モノ・カネ・情報の経営資源を多角的に支援する「中小企業のデパート化」に向けた事業展開を見据える。実務の第一線で大型案件を手掛けつつ、金融機関や士業専門家に向けた講演・執筆活動を通じて業界活性化にも尽力している。

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