移転価格税制の事務運営要領に改正が!<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第27回>

税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝

2022/5/30

第27回 移転価格税制の事務運営要領に改正が!


このヒヤリ・ハットのコラムでも第15回でとりあげた移転価格税制。これは法人税の税制で、海外子会社に対して他の取引先に比べて優遇して取引をすると、「利益を不当に海外に移転させている」ということで、その取引を適正額に引き直されて、その差額に課税がかかるというもの。この移転価格税制の取扱いについては、『移転価格事務運営要領』という事務運営指針によって課税当局は対応されており、平成13年6月に発せられて以来数度の見直しがなされています。
この度、令和4年3月14日~4月13日の間でこの要領の改正について意見募集(パブリックコメント)が行われ、同6月10日付で正式に国税庁から各国税局長・沖縄国税事務所長宛に発せられました。
 
【事務運営指針とは?】
例えば法人税でみると、法人税法で概念を示し、法人税法施行令や法人税法施行規則でその法律の適用について指示がなされています。しかし、それだけでは理解が及ばない部分などを、法人税法基本通達として国税庁長官の名のもとに、国税職員へその法律等の取扱いについて細かく示しています。
 
更には、国税庁のHPの公開情報として、質疑応答事例や文書回答事例、そして一般にもわかりやすい表現にしているタックスアンサーなどで、国側の考え方が示されています。移転価格税制の事務運営指針もこの情報の一つで、国税職員が事務運営について統一的な見解に基づき行うべきとして、発せられているものです。これらの情報は法律ではありませんので一般納税者を拘束するものではありません。しかし、国税側がこの情報により課税等がなされる限り、重要視しなければいけないものです。
 
このように国側の考え方がある意味惜しみなく公開されているわけですから、適宜これらの情報を取り入れながら、お客様に思わぬ課税が降りかからないようにアンテナを張っておく必要があります。この情報のアップデートが税理士としての強みにもなるわけですから、ぜひキャッチしやすい環境を整えておくといいでしょう。ちなみに私は国税庁からのメールマガジンに登録しています。国税庁HPの更新情報が週1回配信されています。
 
 
【指針改正のポイント】
今回の移転価格税制事務運営要領の改正のポイントの一つは、『金融取引』です。
当コラム第15回でとりあげた金融取引についての移転価格税制の考え方は、直接融資つまり親会社が子会社に対して融資する親子ローン型でした。海外子会社が現地銀行から調達する代わりに親会社から有利な条件で調達できた場合、この“差”にあたるところが移転価格税制の対象になりうるという考えでした。これに対して、日本の銀行が親会社の連帯保証を条件として、海外子会社に対して日本の銀行が融資をするという商品が出てきました。親会社は連帯保証をするだけということから、画期的な商品だと感じていました。
 
その中で今回の改正で、この親会社が海外子会社に対して行う連帯保証について、一定の保証契約に基づき保証料の授受が必要だという見解が示されました。指針で示される前は、ちなみに、平成14年5月の国税不服審判所で示された見解が拠り所となっていました。この指針では、海外子会社の信用格付けに基づく利率に比べて、親会社の信用格付けに基づく連帯保証が付された場合の利率の“差”に着目しています。
指針によると、この信用格付け別の利率等の条件が公開データベースとなっているとのことですが、果たしてこのデータベースを見つけたとしても、自社や海外子会社の信用格付けを把握することが可能なのか。理屈は理解したとしても、いざ実行するにあたっては、ハードルが高いと感じます。
なお、このコラムの末尾に、今回の事務運営要領の改正の情報をリンクしておきます。
 
海外子会社をお持ちの中小企業は、ここ数年でかなり多くなってきたと実感しています。どうしても「親子だから」ということで、一般の第三者間では考えられないような条件で取引をすることもありがちです。しかし、国際取引に関する当局の視線は強くなるばかりで、国内取引であれば問題ないことも、国際取引だからということで「No」となるケースもあります。更には今回の改正のように、指針として新設された取扱いや考え方もどんどん出てくることでしょう。
 
税務調査で大慌てにならないためにも、この国税庁から発せられる情報で、事前に対策を練っておきたいところです。
 
 
税理士のヒヤリ・ハット体験談
<第15回>海外子会社との取引に要注意!

 
「移転価格事務運営要領」の一部改正について(事務運営指針) 国税庁HPより
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